第44話 シュマリエに向かおう②
ヨツバくんがいるので、シュマリエに向かう道中の戦闘も問題なく進んでいく。
あ、ロータストータスの戦闘後に言われたんだけど、ヨツバくんは最初からロータストータスの情報を知っていたようだ。まぁ、ヨツバくんだし戦闘中に「怒ると足が速いと聞いていた」と発言してたもんね。
それで倒し方なんだけど、ロータストータスは槍持ちが集まって、甲羅から出ている部位をみんなで突き刺して倒すのが効率がいいらしい。
ロータストータスは体を攻撃しない限り動かないから、息を合わせて頭、足4本、尻尾の6箇所を同時に甲羅の中まで突き刺せば、それだけで倒せるそうだ。もし倒し切れなくても、4本の足を突き刺していれば走り出せないから、頭と尻尾担当がチクチクすれば確実だそうだ。
……ちょっと可哀想だと思ってしまうけど。
因みに「片手剣でも頑張れば刺せますが、結構力がいるのでネイビーさんには言いませんでした」と言われた。……ありがとうヨツバくん、私の貧弱ステータスを良くわかっていてくれて。それに片手剣一人じゃ刺せても倒しきれないもんね。
あ、ロータストータスのドロップ品ですか? もちろん『可憐な花蓮』は落ちませんでした。落ちたのは『亀肉』。……かめ、にく……!? スッポンみたいな感じかなぁ……スッポン食べたことないけど。
折角なら、亀革が落ちたら良かったのに。手芸で使えるし、現実では希少すぎて扱えることなんてないだろうからね。
「マップの指示通りに進んでますけどこのまま行っても沼しかなかったはずなんですが……」
「そうなんですか?」
「はい! これは聞いた話じゃなくて、僕の経験談です。前にここでレベル上げをしたときに、奥まで進むとあとは広大な沼しかなかったんですよね。
進もうとして沼で溺死してる人も見掛けたから、沼の先に向かえるならどこかに道があると思うんですが。……見逃しちゃったのかな……」
「溺死……。」
「…………あ、もし沼を泳いで行け、とかだったらどうします? すっごく嫌なんですが」
「それは俺も嫌です」
「見逃してる通路あったら悔しいなーって思いましたが、沼を泳ぐことを考えたら一気に通路見逃してたらいいな、って思いました」
遠い目をしているヨツバくんに「通路があることを祈りましょう」と告げて、私達は進んでいく。ラビもヨツバくんを励ますようにぽんぽんと前足でヨツバくんの足を叩いてあげている。
…………って、違うや。食べ物の催促だったようで、ヨツバくんの手ずからりんごを食べさせてもらっている。私も空腹度の減りを確認して、りんごを一つだけ食べることにした。
ラビ……りんご美味しいね。
◇ ◇ ◇
「え、えぇ…………!?」
「……橋、ですか?」
「こっ、こんなのありませんでしたからね!? 僕が来たときはっ! ぜーったい、こんなキラキラしている橋を見逃すはずないですもん!」
マップの指示通りに歩くこと数分、ついにヨツバくんが言っていた沼に辿り着いた。沼は紫色でぼこぼこと泡が下から湧き上がっていて、毒の沼にしか見えなくて恐ろしい。……え、これ泳ごうとして溺死したプレイヤーがいるの? 心が強すぎる……。
そして、そんな紫色の沼の上にオーロラ色にキラキラ輝く透明の橋のようなものが奥へ、奥へと伸びている。オーロラで作られたようにキラキラ派手な橋を見逃すとは思えないから、ヨツバくんが来たときには確かになかったのだろう。
「…………あぁもう、あれですよねこれ。メインストーリーを進めないとトゥエに入れなかったように、メインストーリーを進めないとこの橋が見えなかったんでしょうね……。でも悔しい……。いえやっぱ嘘です悔しくないです、沼を泳いで進むよりかはマシです!」
「そうですね、沼を泳いで進むことにならなくて良かったです」
「ですよね! ……というかこの橋、手摺りないですよね? 横に3人は並んで通れそうな幅はありますが、まさか…………」
「足を滑らしたら終わり……?」
「ヒェッ」
ヨツバくんと身を寄せて、ブルリと震える。
でも、そんな私達を気にすることなく、勇猛果敢にラビがオーロラ色の透明な橋に足を進める。
「ラビっ、大丈夫……!?」
「ラッビ!」
タタタッ、っと橋に4つの足を乗せたもふもふが、楽しげにこちらを振り返る。不安なんて何一つないような雰囲気で、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
それを見ていると恐怖から足踏みしているなんて勿体ない。ヨツバくんと笑い合って、私達も橋へと足を向けた。
「僕たちも行ってみましょう!」
「そうですね」
まずはヨツバくんがそおっと足を橋に置いて、ちゃんと足が乗ることを確かめてから両足を乗っけていた。わかるよ……ラビが乗れてるからって、透明なものに乗るのって勇気がいるよね。
私もヨツバくんみたいにそおっと橋に右足を踏み入れた。ヨツバくんとラビと同じく無事に乗れることを確かめてから、左足も乗せた。
「緊張しました」
「わかります! ラビはモンスターだから乗れたけど、僕たちは駄目だったらどうしようと思っ、た……ら…………」
「ヨツバくん?」
「! しゃがんでください!!」
「っ、はい」
ヨツバくんが話の途中で、不自然に言葉を区切った、と思ったら空を見上げている。どうしたんだろう、と思ったら片手で肩をぐいっと下に押されながらしゃがむように言われて、指示通りにしゃがむ。
──次の瞬間すぐそばで、ガンッと重たい音が聞こえた。
「ヨツバくん……!?」
「だ、いじょうぶです! 鳥が襲ってきたので、頭を杖で殴って打ち落としましたので!!」
「……え、えぇ…………!?」
そう言われて周りをよく見れば、ヨツバくんの前方あたりに緑と赤色が派手派手しい鳥が転がっていた。……これが上から襲ってきて、そのまま頭を殴った、ってこと……?
どうして突然の急襲にも焦ることなく、しかも狙うのも難しそうな頭を狙い打ちできるの……。余りにも格好良すぎる。見た目はこんなにも可愛い美少女なのに。
「ネイビーさん、折角なのでトドメをどうぞ!」
「ありがとうございます」
ヨツバくんは私でもトドメが刺せそうな時はラストアタックを譲ってくれる。ラストアタックを取る方が経験値が少しだけ多くなるらしい。基本は、戦闘への貢献度で経験値が変わるけど、少しでも私のレベルが上がるようにと、譲ってくれる。
最初はそんなわけには、と遠慮していたけど、今では遠慮もせずお礼を言って倒させてもらっている。生産とかでお返しいっぱいするぞ……!
……というか、あの鳥まだ生きてたのか。そりゃあモンスターって、倒されたら消えちゃうもんね。
急に動き出したら怖いな、と一瞬思ったけど、私が片手剣を振り上げ、しっかり鳥の首に刺しても、鳥はピクリとも動かず光の粒になって消えていった。
◇ ◇ ◇
「僕、思うんですよね。──こんな橋が作れるなら壁と屋根も作るべきだって……!!!」
また一羽飛んできた赤緑の鳥をヨツバくんが倒しながら愚痴る。橋に手すりがないのもあって、落ちないように気を付けながらモンスターを倒すのは地味にストレスが溜まる。
私は沼から襲ってくるカエル型モンスターをメインに対処しているけど、私のフォローに回りつつ、急襲してくる鳥型モンスターを倒さないといけないヨツバくんの負担は図りきれないだろう。
「確かに壁と屋根も作ってほしかったですね。そしたらモンスターに怯えずに進めたのに…………」
「ですよね!?! この橋の設計者は気が利かないと思います! でもこの鳥さん経験値おいしー!!」
なんだかんだ戦闘も楽しみつつ橋を進んでいく。前方に、紫色の沼とは違う緑が茂る地面が見えて、橋の終わりを予感させる。
それでも油断はせずに慎重に足を進めていくと、沼を乗り越えた先には──。
「エッ、ロータストータスがいっぱい……!?」
見える範囲のモンスターは全て、ロータストータスだった。ヨツバくんがレアだと言っていた、あのダジャレ蓮陸亀がたくさんいた。
「か、狩り尽くしてもバチは当たりませんかね……?」
「多分……? あ、甲羅の上の花を摘めるか試しても良いですか?」
「良いですね! じゃあ、僕は洗浄魔法とか、乾燥魔法とかかけたらどうなるか試したいです」
「やってみましょう」
まずは花を摘んでみましょうか、と言われてそっと近付く。攻撃するまで動かないと聞いていても、それでもモンスターに近付くのはどきどきする。
優しく蓮の花の茎を折った。花は、亀から離れても消えなかった。それに、亀も怒ることはなかった。
「おお! 取れましたね! その花もアイテムになってますか?」
「確認してみます。……あ、『可憐な花蓮』……!?」
「エッ、……まさか、ドロ率が渋い『可憐な花蓮』の正当入手方法ってこれだったり……!? ぜぇったい秘匿者いますね、これは!!
それはそうと、僕も摘んでいきます」
「そうしましょう」
ヨツバくんも『可憐な花蓮』を入手したあとは、片っ端から魔法を試していったけど、特に面白い発見はなかった。
乾燥魔法をロータストータスに試したら、花が枯れ落ちて『可憐な花蓮』が入手できなくなるし、亀は激怒するしで大変だったくらい…………。
◇ ◇ ◇
「なんか……でっかいしゃぼん玉みたいなのありません……?」
「ありますね。さっきの橋と似た色合いですね。……さっきのは透明で、こっちのは中が見えないですが」
ロータストータスを狩り尽くす勢いで倒しながら、マップの指示通りに進んでいくと、ヨツバくんの言うように大きなしゃぼん玉みたいなものが見えてきた。
しゃぼん玉は地面から半分だけ顔を出しているような感じで、キラキラ角度によって色が変わるオーロラ色なのに、不透明なのもあって中を見ることは出来ない。
気になって気持ち足早に進んでいくと、でっかいしゃぼん玉、に見えていたものは、超巨大なしゃぼん玉……のようなものだった。
「おっきい……なんだろこれ……」
「どこまでも続いてますね……」
「Pi~Pi~Pi~~♪」
「……わっ!?」
ぴぴぴ、と鳴き声のようなものを発した何かがしゃぼん玉からとぷんと音を立てて飛び出してきた。
飛び出してきたのは、またもやしゃぼん玉みたいな見た目をしていて、手のひらくらいの大きさだった。だけど、このしゃぼん玉は中が見えていて、中で歯車が回っているのが見える。
そのしゃぼん玉(歯車付き)は喋った。
「Pi♪ ヨうこソ シュマリエ へ♪ シュマリエ 魔ジュツ学イン へノ ニュウ学キ望者 でショうカ♪」
どこか音が外れた調子で歌っているみたいだった。
それにしても、『シュマリエ魔術学院』……? もしかして、ここには学校があるのかな?




