第34話 応急処置2
「ここが薬屋……凄い魔女のお婆さんのお家って感じなんだけど」
リタくんの言葉に全員で無言で頷く。家が蔦に覆われていて、ところどころきのこが生えているし、庭もおどろおどろしい色をした植物が元気に繁っている。
「……2番目に近い薬屋にします?」
「いいよ、ここまで来たし。……ごめんくださーい!」
誰の覚悟も出来ていないまま、リタくんが元気にドアをガチャリと開ける。店の中にいたのは、本当に魔女の様な帽子とローブを着たお婆さんだった。
「何の用だい?」
「洗浄液と薬草を買いに来ました!」
「洗浄液ならあるけどね、薬草は売ってないね。……寧ろ、薬草はこっちが買いたいに決まっているだろう」
「あ、そうなんですか? すみません。じゃあ洗浄液を……取り敢えず99個ください!」
「……リタ、くん!?」
99個……ってそんなに買うの!?
しかも値段も確認してないのに……!
「──あっはっは! 99個か、分かった用意してやろう。久しぶりにこんなに笑ったわい。……金額は全部で29700Gだが、29000Gにまけてやる」
「ありがとうございます!」
本当に買っちゃった……。
「はい、ネイビー! お金はいらないよ」
「えっ」
え、えっ、えっ……!!!
99個そのまま譲渡されてきた。
「これからネイビーには回復を任せる予定だからね! 転職お祝い、ということで」
「……えぇ、リタくん……」
「あと、お金よりかは裁縫でなにか作って欲しい!」
「わ、かりました……。リタくん、ありがとうございます」
「いーえ」
洗浄液たくさんもらっちゃった。枠いっぱいだよ……。
「ネイビーくんって、HP回復薬はもってる?」
「HP回復薬は……1個しかないです」
「おっけー! お婆さん、HP回復薬も置いてある?」
「あるぞ」
「じゃあ、それは98個買います!」
「あっはっは、あんたら面白いやつじゃのう。全部で14700G……14000Gでいいぞ」
「ありがとうございます〜! はい、ネイビーくんにプレゼント。これでいっぱい回復してほしいなっ」
わ、ぁ…………プラムさんからもHP回復薬が98個届いてしまった。
「プラムさん……ありがとうございます」
リタくんのを受け取っておいて、プラムさんのは断るなんてことは出来ないかな、と思って素直に受け取る。めちゃくちゃ貢がれているよ。……これで、『応急処置』が個人回復しかできなかったらどうしよう。そのこともちゃんとギルドで聞くんだった!
「ぼ、僕は何を渡せば…………」
「!? ヨツバくんまで貢ごうとしないでください!」
「でも、僕だって渡したいです……」
「あっはっは、仲が良いことは良いことじゃ。お前さんは、洗浄師として支えるといい。そして、作った洗浄液を貢ぎな。わたしゃ面白いやつに教えるのは構わんぞ」
「本当ですか! 僕が面白いかは分かりませんが、ぜひよろしくお願いします!」
「明日の同じ頃に来るといい」
「分かりました!」
そうして、ヨツバくんは明日の同じ時間に修行を受けることが決まった。洗浄師ってどんなことができるんだろうね。
「あとは、『洗浄魔法』をかけた布だねー」
「布も必要なのかい? たくさん買ってくれたからねぇ、4つやろうじゃないか」
「わぁお婆さんありがとう!」
受け取ったリタくんから譲渡で4つの『洗浄魔法』がかけられた布──名称は包帯と表示されている──を受け取った。
「ネイビー、『応急処置』試してみてよ!」
「分かりました」
言われた通り『応急処置』を使用してみたところ──。
「『回復できる対象がいません』に変わりました」
「よっしゃあっ! 素材調達完了!」
「やったね!」
「おめでとうございます!」
いえーい、と手を差し出されたのでリタくんとハイタッチをした。そしたらリタくんの後ろにプラムさんとヨツバくんも並んで手を掲げるので、みんなでハイタッチをすることになった。……こういうの、楽しいね。
「楽しそうで良かったのう」
「お婆さんのおかげだよ! ありがとう〜!」
「ありがとうございます」
リタくんに続くようにみんなでお礼を告げて、薬屋を後にする。正しく、魔女! って感じだったけど優しいいいお婆さんだったなぁ。そう思いながら、前を歩いているリタくんの後ろを着いていく。……どこに行くんだろう?
リタくんとプラムさんが回復についての話で盛り上がっていて、どこに行くのか聞きたいけど、話に割り込めない。……と思っているうちに、フィールドの目の前まできてしまった。そこまで来てリタくんが振り向いて言った。
「ネイビーは安全地帯にいてね。じゃ、HP半分減らしてきます!」
「よぉし、私も減らしてきちゃうぞ〜!」
「あ、じゃあ僕も行ってきます」
「えっ」
そう言った三人が散開して、走っていく。すぐに遠くに言ってしまって見えなくなった。……ま、マジかぁ。
◇ ◇ ◇
『半分まで減らした〜』
『私はあと少し!』
パーティチャットにリタくん、続いてプラムさんからメッセージが届く。私はそのメッセージが届くまで、空を見上げてぼんやりしていた。見た目が怖いお兄さんなだけあって、ただの不審者である。
だって、安全地帯に居てって言われたし……、そりゃあまぁファルシュトのすぐ近くなら敵もそんなに強くないだろうけど、もし囲まれでもしたら怖いし……死に戻りしたらどうしよう、とか思ったらもう、「おそらきれい……」しかできなかった。
遠くから走って戻ってくるリタくんが見える。
『終わりました!』
次のメッセージはヨツバくん。
「ただいま〜。早速回復して、って言いたいけどそれはみんなが帰ってからだね」
「そうだね。……そうですね」
リタくんと二人きりだとついタメ口が出てしまう。恥ずかしいや。リタくんは「HPが半分も減ったの初めて!」と笑ってる。
『私も終わった〜!今戻る!』
『はーい』
『二人共気を付けて帰ってきてください』
二人はメッセージを送ってからすぐに戻ってきた。それなりに近くで戦っていたのか、敏捷が高いのか……、敏捷が高そうだなぁ。凄い勢いで走ってきたもん。
「じゃあ、お待ちかね回復タイム〜! よし、ネイビー使用してみて」
「はい」
ええっと『応急処置』を使用して、と……。そしたら、『誰を回復しますか』と表示された。
良かった! パーティメンバーを回復できるみたい!
「人を選択して回復できるみたいです」
「誰から回復する?」
「リタくんで良いんじゃない? 一番に帰ってきたんだもん」
「良いと思います」
「やったあ。じゃあ、ネイビーお願い」
「分かりました」
リタを選択して……、そしたら『どの素材を使用しますか』と表示された。全部で4枠あって『包帯』は強制選択されている。2番目の枠は『HP回復薬』か『MP回復薬』のどちらかを選択できるみたいで、『HP回復薬』を選択した。3枠目は『洗浄液』しか選択できるものがなかった。
それで、最後の4枠目は選択できるものが何もなかった。
「包帯、HP回復薬、洗浄液の3つで大丈夫ですか?」
「うん!」
「じゃあ回復します」
「はーい! ……おぉ! 35回復した!」
「わぁ、35は大きいね! HP回復薬って20しか回復出来ないから助かる〜」
……HP回復薬って20回復なんだ。それすら知らなかったや私。
「じゃあ次、ヨツバくん!」
「エッ僕でいいんですか?」
「私よりちょっとだけヨツバくんのほうが早かったもん」
と、言うことで、次の回復はヨツバくんとなった。
「あ、待ってください。洗浄液なしだったらいくつ回復するか知りたいので、なしにできますか?」
「……できそうです」
「良かったです! それじゃあ、洗浄液なしでお願いします!」
ええっと回復対象は『ヨツバ』、素材は『包帯』と『HP回復薬』。それで洗浄液はなし、っと。
「回復します」
「お願いします! ……わ、回復は25です!」
「おぉ!? 洗浄液ありなしでそんなに変わるんだ……高かったもんねぇ」
「ね! こんなに差が出るなんてびっくり。どっちにしても、自分で回復するよりも回復量高いから良いね〜」
HP回復薬が20回復で、洗浄液ありが35回復、洗浄液なしが25回復、かぁ……。
「そういや、ネイビーMPは使ってる?」
MP……!? 考えてもいなかった。
確認してみたところ……。
「……4、減ってますね」
「じゃあMPは、一回に付き2使用なのかな?」
「ありそうですね!」
MPも使ってるのかこれ……余り消費しないから大丈夫だろうけど、気を付けなきゃなぁ。
「じゃあ次は私だね! 離れた距離でも回復できるのかと、パーティメンバーじゃなくても回復できるのか調べたいんだけど大丈夫?」
「大丈夫です」
実験が始まった。
そうして分かったことは、パーティに入っている場合、視界の範囲内にいれば距離関係なく回復が可能であり、視界の範囲外──後ろに立つなど──は回復が不可能だった。
パーティメンバーじゃない場合は、回復は出来るものの距離が厳しく、1メートル以内じゃないと回復対象に出来なかった。
また、後ろに立っていて視界に入っていなくても手を繋いでいる対象は回復対象にすることができた。
つまり私、猫ちゃんとおてて繋いじゃった……もふもふふわふわの幸せの塊だった……。
「じゃあ、洗浄液ありで回復お願い〜」
そう言いながら私と繋いだおててを小さな子どもみたいに揺らしているプラムさん。……そう、未だにおてては繋ぎっぱなしである。しあわせ~。
……あ、幸せに浸ってないで回復しなきゃ。回復対象『プラム』、素材は『包帯』『HP回復薬』『洗浄液』の3つ。よし。
「回復します」
「はぁい。……うん、私も35回復した!」
「良かったです」
「……ネイビー毎回大変そうだけど、回復対象だけ選択して、あとは事前セット? みたいなのないのー?」
事前セット……。あ、『マイセット』って機能があった。ここに『包帯』『HP回復薬』『洗浄液』をセットして、名前……『35回復』と付けておいた。
「マイセット登録できました」
「お、あったんだ。よかった」
そう言って朗らかに笑みをこぼす美少年リタくん。……って待って、私、回復できてよかったって満足してたけど、誰も全回復してないよ!? 今更パーティメンバーの欄からHPみてびっくりしちゃった。
「…………皆さん、HP全回復してないですけど大丈夫ですか? 包帯があと1枚しかないですが、布から作れそうですし作って回復しましょうか……?」
「うーん僕はちょっと減ってるだけだから大丈夫!」
「私もだいじょーぶ! もうすぐログアウトするから〜」
「……あ、僕もログアウト時間近付いてますね! なので大丈夫です」
「……それなら良かったです。沢山頂いたので回復してほしいときは言ってください」
「はーい」
……というか、ログアウト時間とな?
時間を確認したら9時半になっていた。ログアウトまであとゲーム内で30分しかないことになる。
わ、ぁ……私ももうすぐログアウトしなきゃだ……!
「ネイビーくん、ログアウト前にどこまでワーチャに書き込んでいいか聞きたいなぁ。あ、もちろん全部嫌だったら断ってもいいいからね!」
えっと……。
「全部、書き込んで大丈夫ですよ。……皆さんが、これは秘匿した方がいい、とかあれば従います」
「えぇ……ぜんぶ……本当にいいのかな?」
「やっちゃえやっちゃえ〜! ネイビーもこう言ってるんだし!」
ということで、ログアウト時間までワールドチャットに書き込む内容の相談となった。もちろん、プラムさんとヨツバくんのサブ職業は魔法がバレちゃうからまだ秘匿する方向だそうだ。
「あ、自分で書き込みたかった!? 余計なお世話だったならごめんね」
「いえ書き込みたくないのでありがたいです」
なんて、一場面もあった。
そうして4人での時間は過ぎていき、濃密で楽しい木曜日は終わった。




