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第8話 美少女の笑顔に弱い


「三つ編みカチューシャがやりたいんです」

 

 そう言って美少女、もとい男の娘は私を上目遣いに見上げてきた。

 ……って、あんまり身長変わんないや。私、お兄さんなのに。はよシークレットブーツが欲しい。もし、露店にシークレットブーツがあったら、何を置いても買ってたんだけど流石になかったんだよねー。多分、敏捷が下がるだろうし、そんな装備をわざわざ序盤に作らないよね。


 それにしても三つ編みカチューシャかぁ、絶対似合うし可愛いよね。私もキャラメイクの時に何種類か作ったよ。三つ編みカチューシャは、名前の通り、三つ編みを作ってカチューシャ風にする髪型だ。

 これって三つ編みじゃなく、編み込みで作っても凄く可愛いんだよね。私も、妹に良くおねだりされて結んであげているから、かなり慣れていて得意な部類に入る髪型だ。


「三つ編みカチューシャだけでいいですか? 後ろ側は下ろしたままで……?」

「あっ、更にお願いしていいなら三つ編みおさげにしたいです! 清楚な感じで!!」

 

 清楚な感じ、で……?!

 この子はおさげに一体どんなイメージを??


「おさげ、ですね。分かりました」

「エッ、エッ、その反応はしてくれるってことで良いんですかっ!?」

「…………ここまで聞きましたし、やりますよ。勿論、お金か素材はもらいますけど」

「わぁっ、やったあ! お金も素材も全部持ってってくださいっ足りなかったら素材集めてきますっ!」


 にぱぁっと弾ける笑顔を浮かべてる姿が眩しい。元気な子だなぁ。


  


「そう言えば、髪ゴムってあるんですか?」


 流石にないと出来ない。紐で縛る、とかはきついしなぁ、って思っていたら。


「ありますっ」


 あるんだ……。まぁ、クリエイトモードでも沢山使ったし、こういうプレイヤーの為に街にも用意してある物、なのかな?


「あと、ヘアピンは……」

「……それは、なかったですっ」


 しょぼんとしちゃった。ごめん、意地悪しました。


「大丈夫です、クリエイトモードでもなかったですからね」

「そうですか? 大丈夫なら良かったです」


 にこにこ可愛い〜。変な扉開きそう。

 髪の毛下ろしたままでも既に可愛いお嬢様風美少女なのに、ヘアセットまでしちゃったら誘拐の恐れがある美少女になっちゃうね。


「それでどこでやりますかっ?」


 わくわく、って聞こえてくるようだ。おもちゃを目の前にした子犬みたいにおめめをキラキラさせてる。


「……マイルーム、ですかね」

「マイルーム! どっちのでやりますか? …………あっ、いきなりマイルームって怖くないですか? 大丈夫ですか!? 部屋行くのも、来られるのも嫌だったら、僕、この道端でも大丈夫ですよっ」


 無理しないでくださいね、って言われるけど、人が通るこの道端で髪を結びたくはない。別にゲームだし、セーフガード──オンにしてあれば人に触られないし触れないモードだ──もあるし、マイルームで二人きりになっても大丈夫かな?

 もし髪を結んでほしい、が建前のやばいやつだったら最悪通報するし。

 

 相談した結果、私のマイルームですることになった。この子ってば、家具の設置すらしていないらしい。


「あっ、フレンド良いですか? ……フレンドじゃないとマイルーム行けないですし、あの、駄目ですか」

「良いですよ」

「やったあ、ありがとうございます!」


 秒でフレンド申請が飛んできたのでサクッとフレンド交換。私がしたのは視線操作で承認するだけでした。


「ネイビーさんですね! 僕はヨツバって言いますっよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「えへへ、僕、初めてのフレンドですっ! …………って、あぁっ、また僕って言っちゃってる……」


 そうね、ヨツバくんの一人称はもう『僕』で良いと思うよ。

 可愛いし。

 

「…………ロールプレイ不得手です?」

 

 だから、ついつい聞いちゃった。

 

「うぇっ、えっと、その……ロールプレイじゃ、ナイデスヨ?」

「…………。そう、ですか。分かりました」

「わ、分かんないでください!!」

「え、無茶振りすぎない??」

「え」

「あ。…………釣られて、つい素が……」

「わ、お兄さんもお兄さんロールプレイだったんですね!?」

 

 お兄さんロールプレイってなに? いやまぁ、そうだけど、そうなんだけど、なんかその言い方は嫌すぎる。

 じとって見てたら、えへへと誤魔化すように笑顔を見せられて、まるでその笑顔は花が綻ぶかのようで、些細な事はどうでも良くなった。……ほんっと、美少女の笑顔に弱いな私。


「…………あっもうすぐお昼だ。すみません、現実でお昼食べてからでも大丈夫ですか? ゲーム内時間だと4時間後くらいになっちゃうと思うんですが……」


 お昼、忘れてたー!

 現在の時刻はゲーム内時間18時。つまり、現実では12時なので確かにそろそろお昼を食べた方がいい時間だ。もしこのままヘアセットをしていたら、現実で空腹アラートが出て強制ログアウトだったかもしれない。

 4時間後、つまり現実では1時間。お昼を作るんだったら間に合わなかったかもだけど、私には今日の朝作った作り置きのおかずがあるからね。ゲーム内で4時間後──22時──集合で、大丈夫。


「俺もお昼食べてくるんで大丈夫です」

「よかったですっ」

「それじゃあ……、ゲーム内時間の22時頃に俺のマイルーム集合でどうですか? 確か、フレンド欄から飛べますよね」

「エッ良いんですか、いきなり行っちゃって」

「良いですよ」


 ゲーム内だしね、お構いも何も出来ないけど、序盤なんてみんなそうだろうし。


「それでは、22時に!」


 そう言って、美少女、もといヨツバくん、……ヨツバちゃんは手を振りながら目の前からいなくなった。……多分、マイルームに飛んだんだろうなあ。このゲーム、マイルームとかのプライベートエリアからじゃないとログアウトができないみたいなんだよね。

 私もマイルームに戻ってログアウトしよう。



 ◇ ◇ ◇

 


 ログアウトしました。よーし、お昼だー!

 それにしても、濃密な8時間だったなぁ。美少女との邂逅も、お道具箱に彫刻したのも、露店も全部楽しかった!

 ふふふ、こんなにも大満足の時間を過ごしたのに、まだ現実では2時間しか経ってないなんてびっくり。まだまだ遊べるよ!

 ぱぱっと、作り置きのおかずをレンチンして、インスタントのお味噌汁も作ったら今日のお昼は完成。うん美味しい。私ってば天才!

 自画自賛でもしてないと、自炊ってやってらんないよね!

 


 ◇ ◇ ◇


  

 ログインしました。

 只今の時刻ゲーム内時間で20時。思った以上に、ご飯を食べるのが早かった。あと2時間もあるけどなにしようかな。取り敢えず、満腹度が減っていたのでりんごを食べる。やっぱり美味しい。

 それで、棚に露店で買った木彫りのリスを飾ります。うん可愛い。

 リスちゃん一緒に写真を撮ろうね〜〜!

 ……よし、いい感じ。格好良いお兄さんと可愛いリスのコラボレーションはとてもキュートだね。

 

 あ、今のうちに、FJOの睡眠を行ってみようかな? ゲーム内睡眠って、実際に脳みそを休める事にもなるらしいからね。ゲーム内睡眠のやり方はマイルームのベッドに横になって睡眠を選ぶだけ。アラームを21時45分にかけて、レッツ☆睡眠!


 


 ピピピッ。

  

「……ん、めっちゃ寝た」

 

 ぐっすり眠ってすっきり目覚めた!って感じの快眠具合。絶対この睡眠にハマる人いるよ、ってくらい短時間で疲れが取れた感じがする。ただのゲーム内睡眠なのに。

 しかも、睡眠機能のオンだけで入眠出来るって、不眠に悩んでる人には現実にも欲しい機能すぎない? ……あ、そう言えば、医療用のVR機器で仮想空間で眠って不眠治療、みたいなニュースをみたことがあるや。仮想空間で眠るだけでも睡眠の効果が得られるからどうたらこうたら……、みたいな。


 まあ、詳しいことは良く知らないけどね。


 あとは、メニューからの入眠だけじゃなく、自然に身を任せて眠るってこともできるらしい。その場合は、夢を見るってことができるらしいよ。面白いよね。

 だけど、長時間ログインをして疲れているときだと、深く眠りすぎて、強制ログアウト、からの現実での睡眠に自動移行、とかもあるらしい。そこまで根を詰めてやる気はないから、詳しく調べてはいないんだけど、SNSで流れてきたくらいの軽い情報なら知ってる。



「よし、部屋の準備をしよう」


 と、言っても、大してやることはない。髪の毛を結ぶのに結びやすそうな位置に椅子を動かすくらい。ライトがここだから、このあたりがよく見えてやりやすいかな?

 椅子に座ってもらって、私は後ろに立って結ぶ予定。


 そんなことをしていたら、ピコンッ、と可愛らしい音を立ててフレンドチャットが届く。

 

『こんばんは! 行っても大丈夫ですか?』

『こんばんは、大丈夫です』

『ありがとうございます! 今から行きますね!』


 少しわくわくしてきた。

 初のフレンドの初訪問だよー。初日から偉業すぎない?


 髪の毛可愛く結ぶの、お姉さん(アバターはお兄さんだけど)頑張っちゃうよっ!

 

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