第21話 プラムさんとのお茶会3
難産でした。
情報は少ない、と言いながらもプラムさんは分かっている範囲で、園芸について教えてくれた。スキル名は園芸じゃなくて、『栽培(花)』や『栽培(野菜)』だとか……、実は道具を使わず手作業でも大丈夫だとか……。
…………ただ、道具なしってことはジョウロもなしだから、水やりが大変らしい。お庭の水道近くで育てればまだしも、水道の遠くに畑や花壇を作ると大変で結局道具を買うことになるそうだ。
……というかお庭に水道ってあったんだ。知らなかった。
あと値段が安い種は植えるだけで水なしでも育つらしい。もちろん、そんな育て方だと品質は良くないし、味も美味しくないみたいだけど。
まぁ、私は『初めての園芸道具』を貰ったから、その中に基本的な道具は入っているし、もちろんジョウロも入っているから、ちゃんと道具を使ってお世話をする予定です。
「たまに、露店で花束を売っている人を見掛けるから花栽培勢はいるんだろうけど……、スレに出没するよりもくもくとゲームをしてる人が多いみたいなんだよねー」
「なるほど……」
「多分、お花だし交配、とかもありそうって想像してる。ワーチャ大好き勢の中に花栽培してくれる人が欲しいな〜って思ってたんだけど、みんなで押し付けあってる感じだったんだよね。
──でもこれからは、ネイビーくんから情報がもらえそうで嬉しいよ!」
「えっ」
責任重大、すぎない!?
「あとはー、何かあったかな? 気になることとかある? 答えられる範囲で答えるよー」
「えっと……」
なんだろ。なにかあるかな? ……あ。
「あの……、ログアウト中って嫌でもゲーム内時間が進みますが、その間に枯れる、とかってあるんですか?」
ログアウト中のことって大事だよね。頑張って世話しても、ログアウトして帰ってきたら枯れてる……なんてことは悲しいよ。
「あーーそれね……。確定ではないんだけど、マイルームって、ログアウトしてる時は時間の進みが遅く?なってるっぽいんだよね。
ゲーム内で1日──つまり現実で6時間ずっとログインしていたら収穫できるほどに成長するらしいんだけど、種を植えておいて6時間ログアウトしてからログインしても余り成長していないらしくって……。あ、これは野菜の話ね。でも、お花も同じだと思うんだよね」
「なるほど……」
「だから、ログアウト中に枯れちゃう……っていうのは大丈夫だと思う。流石に一週間ログインなし、とかはわかんないけどね!
あと、24時間で収穫できるのもあって、実際に成長するのが目に見えてタイムラプスっぽくて面白いらしいよ〜!」
「へぇぇ……成長を観察できるのは凄く楽しそうですね」
植物がにょきにょき成長する姿が見られるなんて流石ゲームだなあ。
「あ! ガーデンパーティーするってことは、それなりにお庭大きくしないといけないと思うんだけど……、大きさによってはプレイヤーランクを上げないといけないかも! プレイヤーランクが10くらいあれば、5段階までは大きくできたはずだよ。もちろんお金はかかるけど……」
「…………プレイヤーランク……確か8です……。あと、お金もほぼ使っちゃったんですよね」
「あぁ……。ね、ネイビーくんなら露店ですぐお金稼げるよ!」
「頑張ります」
オシャレなお庭を作る前に、まずは金策かぁ。ワンポイント刺繍ハンカチが高く売れるといいなぁ……。
◇ ◇ ◇
「わぁ……美味しそうなタルトですね。フルーツがたっぷり……」
「でしょ〜!? このタルト大好きなんだ」
金策にしょげてしまった気分転換に、プラムさんにいただいたタルトを出して、これから一緒に食べようとしてるところです。フルーツたっぷりフルーツタルトはとても豪華で、見てるだけで目を楽しませてくれるしとても美味しそうだ。早速、ひとくち食べてみた。
「ん……、美味しいですね……」
「良かった〜!」
フルーツは甘くて、タルトはサクサクで……ほっぺたが落ちそうなほどに美味しい。
「これって、どこに売ってますか?」
いただいたものはあと4個残っているからすぐにはなくならないけど、こんなにも美味しいからなくなった時のためにお店を知っておきたい。
「えっとね、…………えへへ、実はね、さっきネイビーくんが出してくれたケーキと同じ露店屋さんだよ〜!」
「えっ」
「新作ケーキ、って言ってた! …………私ね、ネイビーくんがケーキを出してくれたときに、同じお店だって気付いたから、準備してたものと被らせちゃったかな……、って少し焦ったんだよね。でも、知らなかったみたいで安心してる」
わぁ……そんなこと、ある? 確かに、まだまだサービス開始したばっかりだから、作るのが大変そうなケーキを作れる人って多くないのかな?
「……すごい、偶然ですね……。確か、『ハルノドルチェ』さんですよね」
「そうそう! あそこのケーキはどれも美味しくって──」
そのままケーキ語りが始まった。プラムさんは何度もあそこのケーキをたくさん食べているみたいで、どのケーキがどう美味しかっただとか、満腹度が回復するショートケーキと回復しないショートケーキの味の違いだとか。あとは、現実と違っていくら食べても太らない、胃もたれしないってなんて素敵なんだろう、だとか……。そういった話をしてくれた。
私も話を聞いていてもっとケーキが食べたくなっちゃったし、満腹度が回復するケーキとしないケーキとでは味が変わるっていうのも興味深くて、今度味比べしてみようかなって思った。
「──本当甘いものっていいよねぇ……」
「そうですね」
幸せそうで何よりです。プラムさんは喋っている最中も楽しそうでとても癒やされた。楽しそうな猫ちゃん、ってだけで癒しになります。一息つくようにコクコク紅茶を飲んでいる姿もかわいい。……って、あ、飲み終わってる。
「紅茶おかわりいりますか?」
「え! いいの?」
「良いですよ。作りますね」
私ももう少しで飲み終わりそうだったからちょうどいい。
……そう言えば、プラムさんは猫ちゃんだけど猫舌ではないのかな……? ヨツバくんはエルフだけど猫舌だから、って少し冷めるのを待っていたはずだけど、プラムさんは待たずに飲んでいたなぁ……。
◇ ◇ ◇
紅茶の準備を終えて戻ってきたら、プラムさんがそわそわしていて少し様子が変だった。気にはなるけど、取り敢えず紅茶を淹れてしまおう。3分蒸らすのもキッチンで終えてきてしまったのですぐに淹れられる。丁寧に、ゆっくり淹れてほっと息を吐き出す。
「どうぞ。……それで、どうかしましたか?」
「紅茶ありがとうっ! ……えっと、あのね、ネイビーくんにお願いごとが一つできまして……。あっネイビーくんの金策にもなるし良いことだとは思うんだよ!?」
「はぁ……お願いごと、ですか?」
「うん」
改まってお願いごとって言われるとドキドキする。
「えっとね、──お花と猫の刺繍入りお洋服が欲しいんだ! オーダーメイド、みたいな? お願いできたりとかする? もちろんお金は言い値を…………、あ、待ってネイビーくんは安く言いそうだからお金は自動設定の6倍を支払うね」
「えっ」
6倍!?
「6倍は多くないですか?」
「オーダーメイドだし、良いんじゃないかな? 露店売りと変わらない値段設定じゃオーダーメイドの意味ないし……。実際、この木の腕輪は6倍で作ってもらったよ」
そう言ってプラムさんが腕を上げる。その手首には精巧な木の腕輪がハマっていた。デザインは猫が丸っこい実──恐らくプラムだろう──で遊んでいるデザインで、とても可愛らしかった。幅3センチ……もしかしたらそれよりも細い腕輪に彫刻が施されていて感動する。
「凄い、ですね……」
「そうでしょ〜! ……それでネイビーくん、オーダーメイド受けてくれる?」
「…………その木の腕輪ほど凄い物が作れる自信はないんですが、大丈夫ですか?」
「えっなに言ってるの!? あんな凄いプラムのハンカチをくれたのに……! ハンカチも木の腕輪も、どちらも比べられないくらい凄いものだよ!? だから、自信持って!」
「……ありがとうございます?」
「もう〜ちゃんと信じて! ……でも、そう聞くってことは前向きな返事を期待してもいいってこと??」
プラムさんがきゅるんとまんまるの瞳を輝かせて、私の顔を覗き込んでくる。私はそっと頷いた。
「はい。ぜひ、作らせてください」
「やったあ! ありがとうっ」
そこからは、どんなお洋服が良いかの意見の聞き取りになった。お花装備だしイベントに間に合わせたいよね、とか。お花と猫、って言ったけど出来たらプラムも欲しいな……とか。
でも、お花の種類にこだわりはないから、合いそうな物を配置してほしい、とか。
間に合わせるために、お洋服から手作り……ではなく、既製服のワンピースに刺繍することも決まった。ふふふ、ティーポットとかを買う前に寄った服屋さんで買ったワンピースです。
そんなことをしていたら、時間はあっという間に過ぎた。
「…………わ、ぁ!? ネイビーくんって確か遊べるの22時までだったよね!? もう22時すぎてるよ……! ごめん」
「えっ」
わぁ……ほんとだ……。話すのに夢中で時間に気が付かなかった。アラームもセットしてなかったし……。
「あっという間でしたね。4時間もあったのに」
「そうだよね……。楽しい時間ってあっという間だよね」
「はい」
「……遅くまでごめんね。今日はすっごく楽しかった! また誘ってね」
「こちらこそ凄く楽しかったです。ぜひまたやりましょう。……まずはお花と猫のワンピース作りですが、お庭作りも頑張ります」
「楽しみにしてる!」
そうして楽しかったプラムさんとのお茶会は幕を閉じた。




