第10話 ルウクルルルス
「このケーキ、いくらでも食べられそうなのです!」
「良かったです」
…………あ、美味しいからって意味に捉えて返しちゃったんだけど、もしかして満腹度が回復しないケーキだから、って意味だったかも。
「不思議なのです……クッキーのほうがお腹に溜まるです! でも、どちらも美味しいのです!」
「…………美味しいなら良かったです」
やっぱり、満腹度が回復しないケーキのことだったんだ……。住民にも関係するんだね。面白いなぁ。
「……クッキーいっぱい食べていいです?」
「良いですよ」
「やったあです!」
凄く嬉しそうにルウさんはニコニコ笑顔を浮かべている。クッキーを両手に抱えて、もぐもぐと食べている姿は子リスみたいで可愛い。
因みに、ルウさんの前にケーキは既にない。食べるの早いなあ……私はまだ半分も残ってる。
しかも、ケーキを食べ終えた瞬間、消えていくお皿とフォークに疑問を持つこともないみたいだ。……これがこの世界の普通なのか、それとも、ただのNPCだからなのか……。
「…………それでルウさん、何か思い出せそうですか?」
「……ハッ、忘れてたです! ……ルウは何かを……思い出さないとなのです……」
「何かピンときそうな物とか場所とかはないんですか?」
「むむむ、……分からないのです」
しょぼんとしちゃった。だけど、クッキーをぱくぱくと食べるルウさんの手は止まらない。クッキーに夢中で、深く考えることが出来ないみたいだ。
「……今はお菓子を美味しくいただきましょうか」
「そうするです!」
すぐにぱあっと表情を明るくしたルウさんが答える。そんなにもクッキー美味しいんだね。いっぱいお食べ。
と思ったら、またルウさんの顔が曇ってしまう。
「……どうしました?」
「……喉も渇いたです……」
「飲み物は持ってないです。お湯があれば紅茶は作れますが……」
「うちにキッチンはないです! でも、大丈夫なのです。牛乳があるです」
ルウさんは小走りにとてとてとカウンターテーブルに向かっていく。そのまま裏側に回り込んだルウさんがしゃがみ込んで見えなくなる。だけどすぐに何かを掲げ上げながら立ち上がった。
「これなのです! お兄さんも飲むです?」
「……お願いします」
それは瓶に入った牛乳だった。大仰に頷いたルウさんがもう1本取り出して、2本の牛乳を持ってテーブルに戻ってくる。
「どうぞです」
「ありがとうございます」
「…………牛乳あげたですし、まだクッキー食べて良いです?」
「良いですよ」
…………クッキー1袋分無くなりそうな勢いだ。まぁ、クッキーくらいまた買えば良いし、クエストクリアの為の必要経費と思えば安いもの……!
これで、全く思い出してもらえなかったら泣いちゃうけど、美少女とお茶会を楽しんだと思えば、これはこれであり。……まぁお茶はないので、言うならば牛乳&お菓子パーティーだけど。
因みに、牛乳は美味しかったです。どういう仕組みか分からないけどキンキンに冷えていて、味も濃厚で美味しかった。牛乳を飲んで、クッキーを食べて……、と交互に繰り返すだけで一生楽しめる。
……それで、睡眠を1時間するとしたら残り15分くらいしかないんだけど、クエストはどうなることやら……。失敗しても良いけど、困ってるルウさんをほったらかしにするのは嫌だからクリアできるといいなぁ。
◇ ◇ ◇
「お腹いっぱいですう」
「良かったです」
──やっぱりルウさんはクッキー1袋分食べ切った。幸せそうな顔でお腹を撫でる姿に、こちらまで幸せを感じる。
「……ハッ!」
「…………ルウさん?」
緑の瞳をまんまるに大きく見開いたルウさんが口をパッと抑える。頭の上にぴこんっとビックリマークでも浮かんでしまいそうな表情だ。
「思い出したですうっ!」
「!」
もしかして、クエストのこと!?
「……何故急いでいたのか思い出せたんですか?」
「そうなのです! …………ルウお腹がぺこぺこだったです! だから食べ物を買いに飛び出したのです」
「…………えっと? ここは食料品店じゃないんですか?」
「合ってるです! でも、ここにあるのは材料だけです。うちにキッチンないですし、ルウは料理出来ないですう」
なる、ほど……?
何か出来上がっている食べ物を求めて家から出たところ私とぶつかって、ぶつかったら何故家を出たのか忘れちゃった、と……。しかも、私がすぐにクッキーとケーキをあげたから、空腹が解消してお腹ぺこぺこなのも忘れちゃった、とかかな……?
「牛乳だけじゃ腹は膨れないのです。そんなお腹ぺこぺこなルウに食べ物を恵んでくれたお兄さんは命の恩人なのです! お礼に、このお店の物から2つあげるです!」
急にお礼!? しかも2つも良いの?
何を頼めばいいのか……と焦ったけど、このお店にはお砂糖とミルクを買いに来たんだった。ルウさんみたいにうっかり忘れるところでした……。
「……ありがとうございます。えっとじゃあ、紅茶用のお砂糖とミルクが欲しいんですがありますか?」
「紅茶……ならこのお砂糖とミルクがオススメです!」
「ありがとうございます。それを頂けますか?」
「だいじょーぶなのです!」
ルウさんがそう告げた瞬間、ぴこんっと音を立てながらウィンドウが表示された。
──────────────
【クリア】☆住民クエスト☆
ルウクルルルスの困りごとを
解決してあげよう。
報酬:砂糖
ミルク
──────────────
……なるほど、こうなるんだ。
それにしても、紅茶にはどんなお砂糖とミルクが合うのか調べてこなかったから、ルウさんがオススメを提示してくれてめちゃくちゃ助かりました。いっぱい種類が出てきたら選べなくて頭を抱えるとこだった。
「お兄さんのお名前なんです?」
「ネイビーです」
「ネイビーお兄さん! また来てねです!」
「はい、また来ます。ルウさん」
大きく手を振ってくれるのに『ネイビーくん』らしく小さく手を振って、お店を出る。すぐにマイルームに飛んで、早足にベッドに向かう。
時間をちらっと確認すれば、眠れるのは45分間だ。私ものんびりお菓子を楽しんじゃったしこれは仕方ないよね。だけどこれ以上睡眠を削るのは良くないので、急いでアラームを設定してから、『睡眠』を選択する。
これで、時間までぐっすりだー!
寝たらお仕事頑張らないとだね。
よし、お仕事から帰ってきたら今度こそハンカチを作ろう。




