第9話 火曜日の朝
火曜日です。朝です!
昨日はラビの写真をたくさん撮っている内に、22時になっちゃったのでお開きになりました。今日こそはハンカチを作る!
……でも、その前にやることがあるんだよね。
明日のお茶会までにシュガーポットとミルクピッチャー、それに入れるお砂糖とミルクを買わないといけない。今日起きて「明日はプラムさんとお茶会だ〜」と思ったら、買ってないことを思い出して焦ったんだよね。
午後にしようかな、とも思ったんだけどまた忘れそうだし、昨日みたいに誰かに誘われたらそっちを優先しちゃいそうだから先に買いに行くことに決めた。
平日の朝はゲーム内で2時間しか出来ないし、1時間は睡眠に当てようと思ってるから、買い出しに行けるのは1時間。
……流石に1時間もあれば全て買い終わるよね?
よし、それじゃあ、多分シュガーポットもミルクピッチャーも売っているであろう『ティー』に向かいます!
◇ ◇ ◇
「あら、悪魔の坊やね。今度はどうしたの?」
「…………。シュガーポットとミルクピッチャーを買いに来ました。ありますか?」
また子ども扱いだよ〜。いつになったら大人になれるだろうか。魔法がたくさん使えるようになるまでは子どものままなのかな?
「まぁ、良いときにきたわね。リンゴ柄のシュガーポットとミルクピッチャーが入ったのよ」
「! 買いたいです」
「ふふ、そう言うと思ったわ。元々あなたに売るつもりだったもの」
「ありがとうございます。……いくらですか?」
そう言えば、2万Gしか持っていないんだよね。ケーキいっぱい買っちゃったから。
「そうね……、2つ合わせて16000Gよ」
「……わ、かりました。買います」
うっ、危なかった!
買えてよかったけど、もし買えなかったら取り敢えず安物を教えてもらうか、明日までにお金を稼いでこないといけないところだった。本当良かった。
「お砂糖とミルクを買う当てはあるの?」
「ないです」
「まぁ、仕方のない子ね。……悪魔を嫌悪してないお店を教えてあげるわ。わたしのお友達なの」
その言葉を機に、マップの1箇所が点滅する。場所を確認したら、現在地から近かった。…………こういう機能を経験するたびに、住民はNPCなのだなぁと実感する。
「ありがとうございます。行ってみます」
◇ ◇ ◇
マップを見ながら道を歩く。その教えてもらったお店は、表通りではない小道を突き進んでいった先にあった。
「……これが、お店……?」
マップ的にここを示しているから合っているとは思うんだけど、看板も特に出ていなくて、普通のお家、って感じで入りにくい。……扉をいきなり開けるんじゃなくてノックしてみようかな。でもそれでも緊張するなぁ。
何度か深呼吸してから、いざ開けよう、としたところでいきなり扉が開いた。
「わっ……」
「わぁっ!?」
人が飛び出してきて、咄嗟に避けようとしたけど私の運動神経じゃ避けきれなくて、ぶつかる。少女ぽい人影に押されるまま、一緒に倒れた。
……器用だけはあるのに、それ以外が貧弱だから毎回こうなるんだよ。抱きとめられるお兄さんになりたかった人生。
「……わぁあ、ごめんなさいですうう! 怪我はないです!?」
「!?」
顔の近くで大声を出されて耳を抑える。声が高いから余計にキーン、ってした……。びっくりしたぁ。
「頭が痛いのですう!? ルウのせいですううっ」
「ちが、声……声が頭に響いて……」
「声が頭の傷に響いてですうう!? ごめんなさいですうっっ」
「!? お、ちついてください」
そのまま少女は、うわーん、って泣き出してしまった。少女を泣かせてる怖いお兄さんって、事案すぎるよ……。でも、今の状況って少女に押し倒されているんだよね。逆じゃないだけマシ……?
「ルウのっ、ルウのせいですう……お兄さんしんじゃだめです」
「…………死にませんが!?」
「頭が痛いのはあぶないのですう。ルウ知ってるです」
「痛くないので大丈夫です。ルウ、さん? ……こそ大丈夫ですか」
「ルウは大丈夫なのです! 丈夫さだけが取り柄なのですっ」
そう言ったルウさんはパッと立ち上がって、胸の前でぐっと両の拳を握る。しかもさっきまで泣いていたのに、今は笑顔を浮かべていた。……うん、元気そうで良かった。それを確認してから、私も立ち上がった。
「わぁ立てるですか! 良かったのです」
「いえ。……こちらこそ、扉の近くに立っていてすみません」
「お兄さん悪くないのです。確認せず飛び出したルウが……悪い…………はっ、急ぎなのです! ルウは急いでたです! えっと、えっと……何を急いでたのか思い出せないのです……」
そう言ってしょぼんとルウさんが頭を下げた瞬間、ぴこんと音がたてながら目の前にウィンドウが出現する。
──────────────
☆住民クエスト☆
ルウクルルルスの困りごとを
解決してあげよう。
報酬:???
制限時間:2時間
──────────────
「!?」
な、名前が長いし、ルウさん……もといルウクルルルスさんの困りごとを解決する!? ど、どうやって!?
初めての住民クエストが激むずすぎる。困りごとを解決って、何故急いでいたのかを思い出させてあげるってことだよね? プレイヤー側に答えがないじゃん……。しかも、『受ける』『受けない』が選べず、既に『受諾済み』になってる……。わぁ……マジかあ。
制限時間は2時間……。そんなに時間があっても、仕事があるからギリギリまで粘れないし、今から30分くらいでなんとかしないといけない。睡眠を削ればもう少しは出来るけど……。
「急がないとやばいのだけは覚えてるです! ……ルウは何がしたかったです?」
「……か、買い物?」
「! 近い気がするです!」
近いんだ。……これって、ドンピシャじゃないとクリアにならない感じかな? むずい。
「……家の中に手掛かりがあったりはしませんか?」
「分からないのです! でも、あるかもです!」
開いたままだった扉から、ルウクルルルスさんが家の中に入っていく。私も小さく「お邪魔します」と言いながら付いていった。
「う〜ん、分からないのです!」
ルウクルルルスさんはキョロキョロとあたりを見回しているけど、思い出せないみたいだ。一緒になって見回すと、お店の中の左側には物が乱雑に置かれていて、右側には小さなテーブルと椅子が4脚置いてあった。
真ん中奥には、カウンターテーブル。あそこで会計をするのだろう。
…………今更だけど、このお店の店主がルウクルルルスさんでいいんだよね?
「その、ルウクルルルスさんがこのお店の店主であってますか?」
「そうなのです! ……でも何故ルウの本名知ってるです? ルウいった覚えないです!」
「すみ、ません……」
わぁお、好感度が下がった気がする……。怪訝に見られてる、前途多難がすぎるよ。
「……ルウさん、って呼ぶ方が良いですか?」
「はいです! ルウはルウです!」
呼び直したら、少し表情が明るくなった。……次からは、クエスト画面で名前を知っても教えてもらうまでは呼ぶのをやめよう。気を付けます。
「……ルウ疲れたです…………」
カウンターの中を覗き込んだり、乱雑に置かれた物──砂糖や小麦粉だった──の置く場所を変えてみたりしていたルウさんは、悲しそうに疲れたと告げて、とぼとぼと右側に向かう。そのまま、4脚ある内の1脚に座った。
「お兄さんも座るです!」
「ありがとうございます……?」
座る場所は悩んで向かい側。お互い1脚ずつ間に挟んだ対角線上に座った。……更に悩んでから、そっとクッキーとイチゴのショートケーキを取り出した。
「もし良ければ」
「わぁクッキーとケーキです! お兄さん良い人です!」
わーいと両手を上げてオーバーに感情を表現している姿は、とても可愛い。
ルウクルルルスさん──ルウさんは、ぱっちりと大きい緑色の瞳がきらきらしているのが印象的で視線が惹き寄せられる。りんごのように赤い髪も元気いっぱいな姿によく似合っている。その髪を三つ編みおさげに結んであるんだけど、ところどころ髪が飛び出しているし、右と左で結ばれている位置も違う。それが、幼さを際立たせていて可愛い。
因みに、その三つ編みはヨツバくんほど太くはなく、細めだ。きっと、髪質が細めで少なめなのだろう。
目の前で、幸せそうにショートケーキを頬張る姿を見ながら全身を観察する。服は……あれ、よく見たらこれって裁縫スキルの型紙に入っている『簡素なワンピース』だ。アレンジしたからヨツバくんとすべてが一緒!ではないんだけど、大まかなところは同じだから覚えている。
……それで、うーん、ルウさんは何を急いでいたんだろう。急いではいる、だけど2時間もの猶予があるような急ぎもの……。
全く分かんない。
分かんないけど、急遽、お茶なしお茶会の開催です!
さっき出会ったばかりの可愛い少女と怖いお兄さんのお茶会は通報されそうだけど、折角のお茶会イベントなので楽しみます!
……あ、ティーポットに紅茶を入れておいて、持ち物欄にしまったら、どうなるんだろう。持ち物欄に入れておけば、入れたときのままになるなら、紅茶を常に仕込んで置くのもありだなぁ……。
要検証です!
更新再開!
もしかしたら一日置きか不定期になるかも、かもです!
先に保険をかけておきます。自分のペースで頑張ります!




