第8話 ラビと一緒
アップルティーの蒸らしも終わり、ティーカップに注ぎ終えたところで、ノックの音が響く。ティーポットを大事にテーブルに置いてから、急ぎ足に玄関に向かって扉を開けば、ラビを抱えたヨツバくんがいた。
「どうぞヨツバくん。……ラビも連れてこれたんですね」
「はい」
「良かったです」
ラビは今日もとてつもなく可愛い。このラビがあの可愛くないホーンラビットとは思えないなぁ。…………あれ、ホーンラビットに『洗浄魔法』を使ったら、綺麗に、そして可愛くなったんだよね?
「……まさか」
「ネイビーさん?」
「……その、ホーンラビットに『洗浄魔法』を使ったら可愛くなったように、ホーンラビットの毛皮に『洗浄魔法』を使ったら……もしかして、と思いまして」
「! 試してみましょう」
ヨツバくんは、すっと流れるようにクッションを床に置いて、その上にラビを下ろす。そうしたら、持ち物からホーンラビットの毛皮を直ぐ様取り出して詠唱を始めた。……仕事が早すぎる!
まだ、椅子に座ってもいないと言うのに!
「わぁっ」
「凄い、ですね……」
効果は一目瞭然だった。ごわごわとしていて、ふわふわさも、もふもふさもなかった毛皮がふわふわのもふもふに様変わりしていた。『ラビットベア』よりも毛が長めのもふもふ毛皮だ。……長い毛だから、野生にいる内に絡まってごわごわになったのかな?
「……『ホーンフロッグ』の皮はどうなるのでしょうか!」
返事は特に求めてなかったようで、わくわくした顔のヨツバくんがホーンフロッグの皮を取り出して、詠唱を始める。……ルルルって歌ってる美少女可愛いなぁ。
「うーん……『ホーンフロッグ』はあまり違いがわかりませんね! ……あれ、でもMPは15消費してます。さっきはいつもと同じく10だったのですが」
何故でしょうかと首を傾げるのヨツバくんと一緒に首を傾げる。
「……素材によって消費MPが変わる、くらいしか思い付きません」
「そうですよね! ……たいして変わらなかったのに、MP消費は多いの納得いきません。『ホーンフロッグ』の方が分からない汚れが多いんですかね!」
「ありそうですね」
……って、待って。汚れている『ホーンフロッグ』の皮で作ったインソール、って思うとかなり辛い。聞かなかったことにしよう。
「他はどうなるんでしょう」
◇ ◇ ◇
ヨツバくんの実験は、ヨツバくんのMPも私のMPも無くなるまで続いた。
「────なんだかんだ、一番面白かったのは『ホーンラビット』の毛皮でしたね」
「そうですね」
何と言っても『ホーンラビット』の毛皮は、『洗浄魔法』の重ねがけができて、かければかけるほど白くなったのだ。その結果、真っ白なふわふわ毛皮が生まれた。
真っ白になったあとは『洗浄魔法』が発動しなくなり、何度スキルを使おうとしても、毛皮にかけることは出来なかった。
「……ラビがもっと白くなるかも、と『洗浄魔法』を何度もかけて怒られていたのも面白かったです」
「それは忘れてください……」
不思議なことに、アイテムには『洗浄魔法』をかけられる上限がありそうなのに、ラビみたいな生き物にはかけられる上限がなかった。…………上限がないんじゃなく、分からないだけで汚れているから、だとしたら困ってしまうが。
真っ白な『ホーンラビット』の毛皮と、種族が『ホーンラビット』なラビを見比べる。ラビは薄茶色で白とは言い難い色をしているんだけど、汚れているとは思わず可愛らしい色だなぁと感じる。うん、可愛い。
因みに、アップルティーはちゃんと冷める前に飲みました。
「これで、何か作って欲しいですっ」
ヨツバくんが真っ白な毛皮を大量に抱えながら言う。……毛皮で何かかぁ。今日はハンカチが作りたかったんだけど……、でも、ヨツバくんの頼みとあらば作りましょう。
何を作ろうかな。
あ、毛皮のポンチョを作りたい。フードなしのラビ用ポンチョだ。
……ああでも、一枚の毛皮じゃ足りないからつぎはぎになっちゃうや。格好悪いかなぁ。長毛の毛皮だから、バレない……?
こう……合成! みたいに、複数の毛皮を合わせて、大きな毛皮に出来たらいいのになぁ。ゲームだからその内出来るようになると思うんだよね。裁縫で出来るのか……それとも、錬金とか? そういうスキルが必要になるのかな。
うーん今考えても分からないから、取り敢えず作っていこうー!
失敗したら、その時考えよう。
「ラビ用のポンチョを作ってみます」
「エッラビ用ですか……!? い、良いんですか……!?」
「俺が作りたいので」
「ありがとうございますっ」
「……ラビッ? ラッラビッ!」
「…………可愛い」
ちゃんと名前が分かっているようで、クッションに丸まっていたラビが、顔を上げる。「呼んだ〜?」って感じがとても可愛い。ヨツバくんが優しく撫でている。
「サイズを決めるためにラビに触れてもいいですか……?」
「良いですよ!」
「ありがとうございます」
「ラビィ?」
ふわぁ……気持ちいい。
温かいもふもふで幸せ!
……って、サイズを決めるんだった。毛皮をそっとあてたら、ラビは首を傾げながらも大人しくされるがままだ。どのくらいのサイズにしようかな。一枚じゃ、ラビの体を一周出来ないから、二枚繋ぐのは決めてある。……うん、二枚繋げばちゃんと首元まで届くね。
次は頭からお尻側の長さ決め。このままじゃ短い気がするんだけど、足して四枚にするとお尻まで隠れちゃうから長い気がする。……足すのは半分くらい?
よし、そうしよう。
まずは、四枚の毛皮を縫い合わせていく。一列にではなく、二段にだ。『ラビットベア』よりも毛が長いから、縫うのが難しくて、ゆっくりでしか縫っていけない。
丁寧に、を心掛けながら縫い合わせていく。
……よし、縫い終わった。やったね。
次は、『曲線』機能を使う。この縫い合わせて大きくなった布を半円状にしたいんだよね。……毛皮自体が長方形だから、既に半分、みたいなものなんだけど。
機能を活用して、チャコペンで半円を書く。位置は、さっき考えたように足した毛皮の半分くらいを通るようにだ。
首元になる部分にも半円を作る。『曲線』と『裁断』機能を使ってくり抜いたら、もうそれだけでポンチョだ。
そっと、ラビに被せてあげて、首元がごわごわしてないか確認する。
「ラビィッラビッ?」
ごわごわはしてなさそうなんだけど、何を被せられたのか気になるようで、ラビは背中を見ようとしてその場をくるくる回っている。……可愛い。
「ラビ、ラビのポンチョだって。待ってようね」
「ラビィ!」
美少女とウサギがたわむれる姿はとても可愛いし、珍しいヨツバくんのタメ口ににまにましてしまう。レアだ。
よし、次は白い布を使って、リボンの紐を作る。ポンチョの前側を止める為に付けようと思います。それに、リボンがあると可愛いし。
サクッと細長いリボン状に布を縫って、ポンチョの首元の両側に縫い付けたら、完成。
…………本当は、毛皮のほつれ止めとかの処理をした方がいいんだろうけど、『ホーンラビット』の毛皮のおかげなのか、ゲームのおかげなのか、全然ほつれないので切りっぱなしでいきます。楽なので。えへへ。
「出来ました」
「おめでとうございます! それに、ラビの為にありがとうございます」
「いえ」
すぐにラビにポンチョを被せて、顎の下でリボン結びをする。今度は大人しく、きゅるっとしたおめめでこちらを見上げてきた。
か、可愛い〜〜〜〜〜!
薄茶の毛並みに、真っ白なポンチョをつけた姿はとても似合っていて、とてつもなく可愛い。ウサギのモデルになれるよラビ……。
「可愛いですね! ラビ、良かったね」
「ラッビィ〜」
「…………可愛い」
「ラビ可愛いですよね!」
もちろんラビも可愛いけど、ラビを愛でるヨツバくんも可愛い。美少女は何しても絵になるなあ。それに、ラビのポンチョもつぎはぎには見えない。綺麗に縫い合わせることが出来てよかったなぁ。
「それで、いくらですか?」
うっ、ヨツバくんはすぐに値段を気にして……!
プレゼントしたいのに。
「……えっと、ケーキ屋紹介してくれたお礼、ということで」
「駄目です」
「いえ、今回は譲れません。ケーキ屋のお礼はしたかったですし、正直ほつれ止めもしてないポンチョですからね。壊れやすいかもしれないのでお金をもらえません」
「でも……」
納得してなさそうなヨツバくんに今回は強気に出る。
「申し訳ないと思うなら、たくさんラビの写真を撮らせてください。俺は、それで満足です」
実際、ラビの写真はいっぱい撮れるのはご褒美です。
更にお礼をしたほうがいいかもしれない案件だよ。
そうして、いつにも増して強気に出たからか今回はプレゼントに納得してくれました。やったね、ピース。
それじゃあたくさん写真撮るぞー!
【追記】1月1日〜3日までお休みします。




