第7話 ケーキ屋さん
「あー! もしかして、商品の補充ですかぁ!?」
「ッ……」
露店に飛んだ瞬間、聞こえてきた声にびくりと肩を弾ませる。ばくばく飛び跳ねる心臓を服の上から宥めながら振り返れば、鮮やかなオレンジの髪色をした女性が露店を覗いていた。
「……いえ、違います」
「なぁんだ。『リービーティー』の新作待ってまぁす!」
オレンジの髪の人は残念そうにそう言うと、すぐに帰っていった。……びっくりした。
「びっくりしましたね」
「っ、あ、はい……」
……ヨツバくんがいることも一瞬忘れていて、声をかけられた瞬間、またビクッと体を揺らしてしまった。心臓が全く落ち着かないよ。
何度か深呼吸をしてから露店テーブルを取り出して、テーブルクロスをかける。
うん、すっごくオシャレになった!
なにも商品がない状態だとテーブルクロスに刺繍があっても良かったかな、って思うけど、露店のメインはテーブルクロスじゃなく商品だからね。商品が映えるように、刺繍はなしです。
「素敵ですね!」
「ありがとうございます」
「それじゃあケーキ屋に行きましょう!」
「はい、よろしくお願いします」
◇ ◇ ◇
「こちらがケーキ屋さんです」
「ケーキ屋『ハルノドルチェ』で〜す」
ヨツバくんに案内されて辿り着いたケーキ屋さんは、ピンクの髪の毛が可愛らしい少女が露店主だった。明るく元気な笑顔が印象的で、全体的に幼い雰囲気だ。……幼い顔付きと髪型なのに、初期の旅人服なのがもったいないなぁ。ふりっふりのワンピースを贈りたい……。
因みに、プレイヤーネームは『ハルノ』さん。
「なんと、こちらのケーキ、満腹度が回復しないケーキで〜す! でも味は劣らず美味しい!」
「満腹度が回復しない……?」
「そうです〜! 店売りのケーキだと回復するものしかなくって、私は満腹度関係なくいーっぱいケーキが食べたかったので開発しました〜!」
「開発……凄いですね」
「でしょう? 頑張っちゃいました〜! …………あ、満腹度の回復が欲しい方でしたら、このケーキがオススメです……値段も安いですし……」
テンション高めに開発したケーキについて喋っていたハルノさんは、途中でハッとした顔をして、先程とは一転しょぼんとしながら、満腹度が回復するケーキも教えてくれる。
……しょんぼりしないでほしい。満腹度関係なくいっぱい食べたい、って気持ち分かるよ。満腹のバッドステータスって悲しくなるし。
「……出来れば、回復しない方が欲しいです」
「! わ、ぁ〜〜!! このロマンが分かる方ですかっ良いですよね~ケーキっていっぱい食べたいですよね~! 現実とは違っていっぱい食べても太らないですし、胃もたれもしない! 怖お兄さんだったので、甘党だけど攻略ガチ勢かと思っちゃいましたが、タダの甘々党さんでしたか〜!」
タダの甘々党さん……、ってなに?
「回復しないケーキはいっぱいありますよ〜! 味も美味しいのが自慢です! イチゴのショートケーキにキャラメルケーキ、ベイクドチーズケーキとレアチーズケーキ、そしてシフォンケーキの5種類あります! お値段ちょっとお高めですが、どうでしょうか!」
「見てみます」
売買ウィンドウを開いて、確認していく。どのケーキも1つ2000Gだった。満腹度が回復する『ショートケーキ』は、イチゴが乗っていなくてお値段は800G。
こんなにも変わるんだ……!?
まさしく、嗜好品、って感じだね!
……まぁ何Gだろうと、もちろん買いますが!
「…………わぁっ!? お兄さん……いえ、ネイビーさんって言うんですね、お買い上げありがとうございます! こんなにも満腹度が回復しないケーキを買ってくれたのは初めてです〜!」
「いえ。美味しそうだったので」
「…………ネイビーさんいくつ買ったんですか?」
「全種類3個ずつ買っただけです」
「あぁ……思ったより多くなくてよかったです」
「えぇ〜っ凄い会話してる! だって、全部で3万Gだよ大金だよ〜〜!? 私は大金持ちに成れて幸せです〜。これでまた、新しいケーキの開発ができます〜!」
「良かったです」
露店もお気に入り登録して、と。
……本当は、生産してると満腹度の減りも早いし、満腹度が回復するものの方が良いんだろうけど、品揃えの豊富な方に惹かれちゃって。
満腹度が回復してもイチゴなしのショートケーキなんて寂しいし、他の物も美味しそうだったから後悔はないです! クッキーもまだまだ残ってるし、リンゴやミカンもある。満腹度の回復に不安がないから出来ることです。
……でも、またお金貯めなきゃなぁ。残り2万Gくらい。このお金は大事に使っていこう。…………本当に、私に大事にできるかな?
「新作ケーキ楽しみにしてます」
「ありがとうございま〜す!」
◇ ◇ ◇
戻ってきましたマイルーム!
ケーキ屋以外には特に用もなく……、というか、下手に見て私が散財しても怖いので帰ってきました。ヨツバくんも特に見たい露店はなく、見たいと言うなら私の生産だそうで、戻ることに決まりました。
よーし! 生産していこう。
念願のハンカチ作りです。お花の刺繍いっぱいしちゃうぞ!
……本当はイベントが始まってから作る方がポイントも入って良いんだろうけど、イベント特効のことを考えたらお花装備って沢山売れるだろうし、先に作っちゃう。何より、今作りたい、というこの気持ちを大事にしたい。
あ、そう言えば。
「ヨツバくんって好きな花、とかありますか?」
勝手にクローバーと白詰草にしようと思ってたけど、それより好きな花があったら、そっちにしてあげたい。
「花、ですか……。その、率直に言うと余り花に興味がなく、分かりません……すみません」
「いえ。……そしたら、クローバーと白詰草は好きですか?」
「あ、好きです! 確かに、僕の好きな花は白詰草です!」
可愛い。しょんぼりから一転、元気いっぱいにこにこ笑顔になってる。話の流れで、ヨツバくんの好きな花が決まっちゃったけど良いのかな。……それにしてもヨツバくんに白詰草の花冠付けてほしいよ〜。
白詰草……というか、クローバーってどこかに生えてるのかな?
園芸屋さんにクローバーの種とか売ってないかなぁ。……そもそも、園芸屋さんがあるのかも知らないけど。
まぁいいや。考えるのは後回し。取り敢えず、ヨツバくんへのハンカチはクローバーと白詰草に決めました。
「あ。……ヨツバくんは何時までゲームしますか?」
「僕は現実時間22時までです!」
「一緒ですね」
「! じゃ、じゃあ、その時間まで生産ですか?」
「その予定です」
「見て行ってもいいですか」
「もちろん」
「ありがとうございます!」
わーい、22時までヨツバくんと一緒です。まだまだ一緒なら、アップルティーを淹れよう。
「……アップルティー淹れてきますね」
「ありがとうございます。……あ、僕はその間に一度帰って、ラビ連れてこれないか様子見てきます」
「! 連れてこれるといいですね。俺もラビに会いたいです」
ヨツバくんがマイルームに飛ぶのを見送ってから、テーブルの上を見る。
ティーカップとティーポットは、リタくんがいたときのままテーブルに置きっぱなしだ。…………そう言えば、前回そのまま持ち物にしまって、今回軽くゆすぐくらいで使っちゃったんだけど、汚れていたりしたんだろうか……。今更考えても仕方ないんだけど、汚れてたら申し訳ない。
で、でもゲームだしきっと持ち物にいれたら綺麗になるよね、うん。そう信じよう。
……でも今回は一応綺麗にしてみよう。綺麗にと言ったら『洗浄魔法』です。よし、スキルから『洗浄魔法』を使って、と。自動で歌い出す口に、どぎまぎしながら詠唱が終わるのを待つ。
「……多分、綺麗になったはず」
MPの消費は20だった。ヨツバくんは10だった筈だから、『魔力操作』の練度による違い……とか? 私のは、装備故の物だしねー。劣らないとずるいよね。
考えるのをやめて、ティーポットとティーカップを見るとピカピカ輝いているような気がする。きっと綺麗になった!
まぁゲームだし、きっと細かいことは大丈夫!
…………大丈夫、だよね? このゲーム結構細かいからなあ。




