第5話 街歩き
よーし! 食料調達も兼ねて街をぶらぶらしてみよう!
……って思ったら、初っ端から詰みかけている。
「あ? あんちゃん何睨んでんだよ」
「えっ。……に、らんでません。元々こういう顔です」
ってことが起きたり、
「……っ、なにか、用かしら」
ってお店の人にびくびくした対応を取られたり。
えっ、えっ。私の見た目って、住民に対して心象が悪すぎる。逆に申し訳なくなるくらいなんだけど、ゲームでそんなことってある?? 僕、悪いお兄さんじゃないよ><
友好度、みたいなのにキャラメイクが影響してくるなんて、そんなばかな。マジか。作り込みが凄すぎる。周りを見てみると、全ての旅人が警戒されている、って訳ではなさそうなんだよね。ちょっとショックを受けた。
受けたけど、現実だと舐められガチだからね、逆に良かったかも。舐められることはないね。でも、悲しいのは悲しいや。
ゆっくりお店を見れないし、ちょっと目が合うと怯えられるか喧嘩が起きそうになるし……。もう一度言うけど、ゲームでそんなことってある??
敵意はないですよーって笑顔を浮かべてみても、何か悪いこと企んでますよ!って顔になっちゃうんだよね。困った。
…………でも、やっぱりとても好みの出来だから、私はこのアバター大好き。めちゃくちゃ気に入っているから、窓に顔が映り込むだけで、にやっとしてしまうナルシストをしています。へへ。
ぐぅぅ〜〜。
あ、やばいやばい!
点滅が激しくなってきたから、恐る恐る見てみたら『【満腹度】10/100』だって! かなり限界じゃん。何でもいいから、何処かで買わせてもらえないかな。
キョロキョロしてたら、道の端に果物屋さんが見える。私、りんご好きなんだよね。あるかな。……最悪なくても良いや、ってお店に近付いて見たらりんごが大量に並んでいる。嬉しい!
「よお、目付きの悪い兄ちゃんだな」
「……生まれつきです」
生まれたのはさっきだけど。
早速ご挨拶だなぁ。でも面白がってる感じのお爺ちゃんが店主だから、このアバターには良かったかも。本当は、もう少し友好的な態度で話し掛ければ何か変わるのかもしれないけど、ネイビーくんって無愛想が似合うんですもの。
りんご何個買おうかな。一つで満腹度っていくつ回復するんだろう。…………あ、果物より炭水化物系を探したほうが良かったかも。でも仕方ない、りんご食べたいんだもん。
「これ下さい」
5個にした。店先に並んだりんごを抱えてお爺ちゃん店主に話し掛ける。値段は一つ100Gだから、500Gだね。500G出したい、と思ったら手のひらにぽんっと出現した。べっんり〜。
「ん、……丁度だな。おら、持ってけ」
「ありがとうございます」
買えた! 実は『【満腹度】5/100』で限界だったので、マイルームに戻らずここで食べちゃおう!
変な人と思われても、餓死するよりかはマシ。……満腹度が無くなったら餓死するのか、どうなるかは流石に調べていないから分からないけど、どうなるんだろう。気になるけど、もし死ぬんだとしたら死にたくない!
がぶり、と噛み付いたら、瑞々しい甘さが口の中には広がって、りんごからじゅわっと水分が溢れてくる。歯応えはシャキシャキしていてかじるたびに良い音がするから、音からも空腹が刺激される。誰かに取られそうなわけでもないのに、私は詰め込むように無我夢中でりんごを丸ごと1個食べ尽くした。
甘さと酸味がちょうど良くて、蜜の多い素晴らしいりんごでした。
「うまっ……」
「ははっ、今食うのかあんた。だが、そうだろうそうだろう、自慢のリンゴなんだ」
嬉しそうに店主が笑う。
確かにこんなに美味しいりんごなら自慢にもなるだろう。大満足の味すぎて、買い足そうか悩んでしまうほどだ。でも、今はお金に余裕がないから更には買えないけど、定期的に買いに来よう、って決めた。
「凄く美味しかったです。また買いに来ます」
「おう、待ってるぞ」
ニカッ、と笑ってくれる。今日はずっと住民に邪険にされてきたから笑顔が沁みる。嬉しくて私も自然とニコっと笑った。……ちゃんと嬉しそうな表情になっていたかな。悪役みたいな笑顔は勘弁だ。
それで満腹度は……『【満腹度】35/100』。30も増えてる、良かった。でも、もう1個くらい食べておいた方が一安心かな。
流石にもう店の中では食べませんよ。ぺこりと頭を下げてお店を出る。そして、食べる。……うん、食べ歩きです。
りんごの食べ歩きって初めてだ。見たこともないよ。
うーん、やっぱり住民から警戒されている。
プレイヤーのお店とかないかな。そっちで済ませられるなら済ませたいんだけど、メニューを見てもマーケット、みたいな項目は見付からない。多分、プレイヤーランクを上げて解放とかだろう。序盤からプレイヤーから買えるところはないのかな。
調べ…………、るのは面倒だからワールドチャットで聞いてみちゃおう。
──────────────────────
・
・
・
ミニ:うわー!ワイルドウルフ強すぎる、負けたー!
ネイビー:すみません。マーケットみたいな、プレイヤーと取引ができる機能か場所ってありますか?
プラム:>>ミ二 わかる、ワイルドウルフ強すぎるよね!
アカドラ:>>ネイビー まだマーケット機能はないが、青空通りにプレイヤーの露店が並んでるからそこで取引すると良い。
プラム:>>ネイビー 追加情報!青空通りは西側だよー!マップの中央に噴水があるからそこから西に向かって青い屋根が続く道を進むと分かりやすくてオススメ!
ネイビー:>>アカドラさん>>プラムさん 詳しくありがとうございます!行ってみます。
────────────────────────
アカドラさんとプラムさん。即レスありがたすぎて拝む。西側にある青空通りかー。今現在はどこにいるんだろう。
マップを確認してみると、南側の朝顔通りにいるらしい。……朝顔? マップを拡大して確認してみると、南側は更に昼顔通りと夕顔通り、夜顔通りの通りがあるらしい。夕顔通りが一番広い通りで、後は細めの通りだ。
ちょっと、名前がファンタジー感薄くない? 青空通りでも思ったけど。まぁいいや。
因みに、この通りは、白い屋根の家が並んでいてとてもオシャレだ。
言われた通り、まず中央の噴水広場に向かった。余り遠くなかったみたいで10分ほどで辿り着いた。……あ、ここマイルームから出てきて一番に来た場所じゃん。そこから西側を見ると、確かに青い屋根が多い通りがある。
……青いから、青空? 安直すぎる。…………まぁ髪の色から名前をネイビーにした私が言えたことではないけれどね!
青空通りは、初めは住民の家らしき建物しかなかったけど、奥に進んでいくと露店が広がる広場のようになっていた。真ん中に立て看板があったので、文字を注視して見ると、ぽんっと音を立ててウィンドウが開く。
『露店を開くには登録が必要です。登録をしますか』
今は売る物もないし、いいえ、を選択する。よく見ると隅にヘルプの文字があったので、見てみよう。
ヘルプの内容は、露店を開くのにはお金はかからないけど売買が成立すると手数料を取るよ、よっぽど悪徳な商売はAIの取り締まりがあるよ、とかそんな感じの内容だった。出店したくなったら、もう一度ちゃんと読もう。
よーし、露店探索だ!
残り1500Gの所持金で何が買えるかな。一番は装備で、二番は生産の材料が欲しいんだよね。……あ、流石に、ゲーム開始から6時間……いやもうすぐ7時間か。それだけの時間じゃ、プレイヤーメイドの装備はまだ売ってないかな?
何はともあれ、露店を楽しむぞー! おー!