第1話 月曜日の会社
「あかね〜! 一緒にお昼食べよ」
社員食堂でかけられた同期からの言葉に、私は一瞬戸惑って、それから頷いた。
…………土日の間は『ネイビー』としか呼ばれていなかったから、本名である茜────針野 茜として生きていることに違和感を覚えている。
4倍加速で何時間もあの世界にいたから、自分は『ネイビー』であると深く認識してしまっていた。まだ、現実では2日──ううん、今日の仕事前にも遊んできたから3日しか経っていないというのに、どっぷりゲームに嵌まり込んでしまった。
「みおちゃん」
「…………あかねってば眠そうだね?」
「うん。……ちょっと朝からゲームしちゃって」
たった30分しか遊んでいないんだけどね。
でも、4倍加速を取り入れた『Fantasy Journey Online』、通称FJOだと、たった30分で、ゲーム内では2時間過ごすことになる。
朝から2時間、はちょっと疲れちゃったみたいだ。私はまたあくびを噛み殺した。……明日からは、1時間遊んで、1時間ゲーム内睡眠してこようかな?
「え! ……もしかしてだけど、FJOだったりする??」
「えっそうだけど……。もしかしてみおちゃんもしてるの?」
「してるよー! えーっあかねがしてるとは思わなかった。あんまり戦う系は得意じゃないでしょ?」
「うん。……でも、グラフィックも良かったし、得意じゃないけど戦うのも好きだからね。しかも、のんびり遊ぶことも出来そうだったから買っちゃったんだ。今ものんびり楽しんでるよ」
「そっかそっか! ……あかねが嫌じゃなかったらフレンドにならない?」
「わ、ぜひなりたい!」
ゲーム外でのフレンドのなり方は、FJOの公式サイトにログインして、フレンドコードを打ち込めばフレンドになれる。みおちゃん──森田美緒ちゃんからすぐにフレンドコードが送られてきたので、すぐに打ち込んだ。
これで、フレンドになれたはず!
「あ」
「どうしたの?」
「……その、えっと…………男性アバターだからびっくりしちゃうかも」
「なんだそんなこと? うちも男性アバターだよ」
そう言ってみおちゃんはピースを作って、指をちょきちょき、と動かしている。顔もどやぁ、って感じで可愛い。
「因みに、どんな見た目? うちはエルフの可愛いショタっ子〜〜」
「私は……。ええっと、一応人間の怖いお兄さん……?」
「一応なの?」
「肌の色を灰色にしたんだけど、そしたら悪魔、らしくって……人間かは怪しいんだよね」
「あー悪魔……。未だよく分かってないやつね」
「うん。悪魔で警戒されるのに、目付きの悪いイケメンにしちゃったから目付きの悪さも警戒されて結構大変」
「…………それでのんびりプレイできてるの?」
みおちゃんが心配そうに私の顔を覗き込むので、私は慌てて言い募った。
「だ、大丈夫だよ! 昨日も初めてのお茶会開催できたし、かなり楽しんでる!」
「お、茶会……!? …………あーなるほど、あの綺麗な世界でそういう遊びをするために買ったんだ。というか、2日目にお茶会できるって……、おぬしかなりやりこんでおるな?」
「……えへへ」
じとーっと見られたので誤魔化すように笑う。思い返せば、食事と睡眠以外はゲームに土日を捧げたもんなぁ。
……そんなことを思い返したら、昨日の楽しかったお茶会のことも思い出してしまって、にやにやしてしまう。本当に昨日は楽しかった。いつもよりヨツバくんとたくさんお話できたし、ラビも可愛かったし、紅茶やお菓子も美味しかった!
大満足なお茶会だったなぁ……。普段は、余りお話出来ないから色んなことを話せたのが嬉しかった。雑談しながらお茶を飲む、ってなんて幸せな時間なんだろう。
……まぁ、普段お話できないのは私が生産に集中しすぎて、ヨツバくんのお話を聞いてられないからなんだけどね。ごめんね、ヨツバくん。
「あかね?」
「あ、ごめん。昨日のお茶会楽しくって……思い出してた」
「そんなに楽しかったんだ。今度、私も一緒にやりたいなあ。…………男同士って花も何もないけどね」
そう言ってみおちゃんが笑うから、私も一緒に笑った。ふふ、みおちゃんがどんなアバターでプレイしてるのかも楽しみだなぁ。
「あかねって今日の夜もやる?」
「やるよ」
「もし暇だったら一緒にどう?」
「! ぜひ、一緒に遊びたい!」
今日の予定は決まっていないから大丈夫。
…………本当は、朝の続きをしようと思っていたんだけど、いつやっても良いものだからね!
朝の2時間は、露店用のテーブルクロスを作っていた。ほら、服を作っても『木々のゆらめき』が余ってたら作りたいなぁって言っていたあれです。
殆ど完成していて、テーブルの短辺は垂れ下がらないようにピッタリに作って、テーブルの長辺の方には垂れ下がるように作ったんだけど……。
垂れ下がる部分にタッセルを付けまくりたい、って思っちゃったんだよね。今はタッセル作りが残ってるだけ。
…………多分、気合いでやり続けていれば朝の内に出来てたんだけど、途中で飽きてサボっちゃったので出来上がっていない。クッキー食べながらサボるのは至福の時間でした。今は露店に品物もないしのんびり行きたい所存。
「何して遊ぼっかあ。……軽く戦闘とか?」
「いいと思う。みおちゃんは何の武器使ってるの?」
「うちは弓だよー。あかねは?」
「片手剣、かな?」
…………自信持って答えられないよ!
だって、武器スキル取ってないし下手くそだし!
「片手剣かぁ。前衛出来そう?」
「前衛……」
「……無理だったら私も片手剣か杖装備して、一緒にタコ殴りするよ! がんばろね」
「うんっ」
みおちゃん優しい。私の運動音痴が分かっているからこその発言に安心してしまう。他のゲームでもご一緒したことあるけど、私と遊ぶときは緩く遊んでくれるので本当に大好き。
でも、出来る限りは私も頑張るからね!
前衛片手剣、後衛弓ってバランス良いだろうし!
……たぶん、ね。
ついに『ネイビー』の中の人の名前が判明!
2章は1日1回お昼の更新でいきます。




