第46話 お茶会
「これクッションです。ウサギさんにどうぞ」
たくさん写真を撮って満足した私は、ようやくクッションを作っていたことを思い出した。持ち物から取り出してヨツバくんに渡したら、ウサギさんは鳴き声をあげて興味を示している。
……めちゃ今更だけど、ウサギの同族?毛皮クッションって嫌われないかな……。
「ラビッラビッ……!」
「待って、置くからっ! 引っ掻かないで!!」
ヨツバくんが慌てながらクッションをその場に置いたら、ウサギさんはクッションの上にすぐに乗って何度か身じろぎした。少し経ったら、いい場所を見付けたのか、ウサギさんは大人しく丸くなる。
可愛い……! これは写真撮影タイムだ。
既にいっぱい撮ったのに、角度を変えて何枚かパシャパシャ撮った。
それにしても、毛皮クッション嫌われなくてよかったなー。
「クッションありがとうございます。ラビが落ち着いて良かったです」
「…………お名前ラビ、っていうんですか?」
「そうです! ……安直なのは分かってます……」
「大丈夫です、可愛い名前だと思いますよ。……安直度で言ったら、俺も髪色からネイビーなので同じです」
「……そうだったんですね。ネイビーさんの名前の由来まで知っちゃいました」
えへへ、安直名前です。
それにしても、ラビちゃんかわいいなぁ。
「……あ、椅子にどうぞ。紅茶、淹れますね」
「ありがとうございます! ……わ、これが買ったカップとポットですか!? リンゴ柄で可愛いですねぇ……」
ティーカップとティーポットをじっと見詰めて、おめめをキラキラさせているヨツバくんも可愛い。
「クッキーが乗ったケーキスタンドもいいですね! 美味しいクッキーが更に美味しそうです」
「ありがとうございます」
…………ふぅ、紅茶を淹れるの緊張する。
ちゃんと調べてきたんだよ。
他のゲームでのお茶会なんて、出来上がったアイテムな料理を用意するだけだったから、手ずから淹れるなんて初めてです。
まずは、ティーポットとティーカップを温めるらしい。100度のお湯をティーポットに注いで、そのお湯をティーカップにも注ぐ。……温まったら、お湯を捨てる。
ティースプーンで茶葉をすくったら、2杯分ティーポットに入れる。そしたら、お湯を勢いよく320ml分入れる。量は、『キッチン』の機能から設定できたので測る器具とか必要なくて楽々でした。……因みに、一人分が160mlの計算。
お湯を注いだら、3分間蒸らします。タイマーのセットをして……と。この時に、ティーコジーっていうポットに被せて保温できる物があるといいらしいんだけど、準備不足です。次までには買うか、作ろう。
……うん、作ろうかな、リンゴ柄の刺繍とか入れたい。
「いい匂いがしますね」
「アップルティーです。リンゴのドライフルーツチップまで入っているそうです」
「うわぁ美味しそうですね! 僕、リンゴ大好きです。リンゴ柄のカップとポットで、アップルティー飲めるの最高ですね」
「ありがとうございます」
ヨツバくんがリンゴ大好きで良かった!
………………って、え、待って、お砂糖とミルク用意してなくない? 忘れてました、用意するべきでした。
「…………あの、お砂糖もミルクも用意するの忘れたんですが大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だと思います。多分! クッキーもありますし!」
「すみません」
「謝らないでください。初開催ならこういうこともあるあるですよ! ……それに、僕もお茶会のマナーとかよく分からずここにいます……大丈夫ですかね」
「大丈夫です。俺も格式高いものは分かりませんし、俺がしたいお茶会って、美味しいものを食べて楽しくお喋りがしたい、ってことなのでもう達成出来ているようなものです」
「良かったです……! 僕も既に楽しいです」
自然と笑顔になってしまう。ヨツバくんも、私も、にこにこだよ。
「あ、3分立ちました。注ぎますね……」
茶こしで茶ガラをこしながら注ぐんだけど、上手くできるかな……溢しそうで怖い。そっと、そっとだよ。ゆっくり、丁寧にいく。
なんとか、ヨツバくんの分と自分の分を注ぎ終えて安堵の息を吐き出したら、ヨツバくんからもふぅと聞こえてくる。私の緊張が伝わってしまっていたみたいだ。
〈『料理』のスキルが解放されました〉
「……淹れられました」
「美味しそうですね!」
淹れ終わったら、『料理』スキルが解放された。こういうのも料理に含まれるんだ。
いそいそと座ったら、ヨツバくんといただきますと言い合って紅茶の入ったカップを持ち上げた。鼻孔をくすぐる華やかなリンゴと紅茶のいい匂いに感嘆のため息が漏れる。そっと、熱い紅茶を味わった。
「美味しい……」
リンゴの甘みと紅茶の渋みが口の中に広がって、幸せを感じる。リンゴのドライフルーツチップが入っているからか、砂糖を入れていなくても甘くて美味しい。紅茶って美味しいよね……大好き。
…………実を言うと、現実でカフェインを摂ると体調が悪くなるから、味は好きでも飲むことが難しいんだよね。だから、自由にたくさん飲めるゲームって大好き。
ふと顔を上げたら、ティーカップを持ったまま困った顔をしているヨツバくんがいた。
「ヨツバくん大丈夫ですか? やっぱり砂糖ないとでした?」
「あっそうじゃなくてっ。その……僕、猫舌で……まだ飲めませんでした……」
そう言って「えへへ」と笑う美少女の可愛さよ。そっか、そっか、猫舌なんだ。猫舌な美少女って可愛いと思う。火傷しちゃっても辛いもんね。
「それじゃあ、先にクッキーでもどうぞ」
取り皿を手のひらで示して勧める。私もクッキー食べよう。どのクッキーから行くか悩んで、全種類取り皿にとった。…………本当のお茶会ってどういう感じに取り皿を使うんだろうか。こういう感じでいいのかなぁ。
でも主催は私です。うちのお茶会は、こうです! 自由に飲食可能!
私のやり方をみたヨツバくんも全種類クッキーを取り皿に盛っていた。いっぱいお食べ。もっと取っていいんだよ。
「……忘れてました、僕もお菓子持ってきたんです。もし良ければ、これどうぞ」
ぽんっ、と譲渡されたものを見て私はびっくりした。『ショートケーキ』だって!!
持ち物から出してみたらシンプルな皿に乗ったイチゴのショートケーキが出てきた。
「美味しそう……。ありがとうございます。……ヨツバくんの分もありますか?」
「あ、持ってきてます。……これです、食べましょうか」
ヨツバくんもイチゴのショートケーキを取り出して、テーブルに置く。気が付いたら、お互いもう一度いただきますと言っていた。
……このショートケーキ、ちゃんとフォークまで付いていてとても助かる。……うちにフォークの用意はないんだよね。お菓子のラインナップを増やすときには用意をしておこう。
「美味しい……ショートケーキを食べたあとに、紅茶を飲むと更に幸せです」
「ショートケーキ美味しいですね。僕もそろそろ紅茶飲めるかな…………あ、いけそうです」
コクリ、と飲み込む姿を固唾をのんで見守る。どうだろう、準備した紅茶は気に入ってもらえるかな。
「ん、美味しい……! リンゴの味がちゃんとしますね。しかも甘いクッキーとショートケーキに良く合う、程よい渋さで丁度良いです。美味しい紅茶をありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます」
よ、良かった〜〜〜〜〜。一安心です。
「美味しいお菓子と美味しい紅茶、って幸せな時間ですねぇ……」
「そうですね」
暫く、無言でクッキーと紅茶を食す時間が続いた。だって、美味しいんだもん。
「……あ」
「ヨツバくん?」
「その、ラビのこと話そうと思ってたのにお菓子と紅茶に夢中になってました。……あと、お茶会にこんな話題ってだめですかね?」
「俺も気になりますし楽しい話でしょうから大丈夫です。うちのお茶会は、楽しく、さえ守ればなんでもおっけーって…………今決めました」
「なるほど……。ならびっくりはしても楽しいと思います!」
そうして、ヨツバくんはラビの事を話してくれた。
元々、モンスターに『洗浄魔法』を使う、という試みはしていたらしいんだんけど、使うと何かが気に障るのか怒らせてしまっていたそう。
だけど、『洗浄魔法』が10レベルになってから使ってみたところ、『ホーンラビット』が綺麗になって、あのラビみたいに可愛らしい姿になったそうだ。
綺麗になった『ホーンラビット』は敵意を消し撫でさせてくれて、しばらく可愛がっていたらヨツバくんの通知に〈『テイム』のスキルが解放されました〉と表示されたそうだ。
ヨツバくんも状況は掴みきれていなかったけど、急いで『テイム』スキルを取得して、スキルを使ってみたら無事に捕まえることが出来た、ということらしい。
そして、捕まえてすぐに名前をつけてください、と言われたから、『ラビ』しか浮かばなかったんだそうだ。
「もしSPが足りずにスキル取得が出来ていなかったらどうなっていたのか……って今でも不安になるんですよね。本当取得できて、ラビをテイムすることが出来てよかったです。……もう、このラビ以外考えられません」
「良かったですね」
月並みな言葉しか出てこない。でも、本当に良かった。こういうのって、一期一会みたいなところがあるから、この機会を逃していたら同じ『ラビ』は捕まえられなかっただろうからね。
喋って疲れたのか、ヨツバくんがごくごくと紅茶を飲んでいる。幸せそうな表情にこちらまで幸せになる。
「ふぅ……この紅茶ほんとに美味しいですね! 僕も買いたいくらいです。……キッチンを買う予定がないので無理ですが」
「飲みたくなったらいつでも飲みに来てください。…………今おかわり作りますね」
「い、良いんですか……! 嬉しいです」
自分の分も一緒におかわりを作る。一度やったから、さっきよりは手際よくできた気がする。3分間蒸らすのを待っていたら、ラビが私の足の周りをうろちょろしだした。少し、くすぐったいし踏みそうで怖い。
ウサギ、といってもモンスターだから中型犬くらいの大きさはあるから踏み潰すことはないんだけどね。
「……もしかして、ラビも飲みたいんですかね」
「エッ」
「飲めると思います……?」
「…………あ、今気が付いたんですが、ラビにも満腹度機能があるみたいで、お腹が減っているみたいです。なので、多分飲んで、食べられる……はずです。……ラビ。飲んでみたい?」
「ラッビィ!」
「……飲んでみたいそうなので、貰ってもいいですか?」
「良いですよ」
丁度、3分経ったので、ティーカップに注いでいく。もちろん、ラビはティーカップでは飲めないので、ラビの分はヨツバくんが持ち物から取り出したお皿に、溢れないように注いだ。
ラビは満足げにすぐ飲み干した。
「ラッビィ、ラッビィっ!」
「な、なに? 次はどうしたの? 紅茶のおかわり……は違うんだ。……あ、もしかしてクッキーも食べてみたいの?」
そう言って、クッキーをラビに食べさせているヨツバくんを見守る。ラビは否定のときには首を横に振って、肯定のときには首を縦に振ることが、できる頭のいい子です。
…………それにしてもヨツバくんのタメ口って新鮮〜〜ニヤニヤしちゃった。ギャップを感じる。
そんなこんなで楽しいお茶会は進んでいく。ヨツバくんは私が知らなそうな情報を教えてくれたり、ラビを撫でさせてくれたりとしてくれる。この機会にと、何が好きかとか、スキルは何を取ってるのかとかも聞いてみた。
楽しい雑談に興じれて幸せな限り。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
気が付けば開催から4時間経っていた。
現実ではそろそろ22時なので、お開きにしようかとどちらからともなく言い出した。
「────お茶会って緊張もしていたんですが、なんだかいつもの安心する空間、って感じがして楽しかったです。僕って気が付くと戦闘に明け暮れちゃうので、ネイビーさんとこうやって過ごす穏やかな時間ってとても楽しく幸せです」
「……ヨツバくん、俺も楽しくて幸せな時間でした。…………既に2回目の開催を目論んでいるくらいには楽しくて仕方がないです」
「わぁ、2回目! ぜひやりましょう」
初めてのお茶会は、不備が何箇所かあったりもしちゃったけど、全体を見たらとても楽しく大満足な出来でした。
ヨツバくんも楽しかった、幸せだった、と言ってくれたのが嬉しい。
絶対次もやるぞーー!!!
次は、今回よりも良い出来にしたいと思います。
これにて1章が終わりです!
明日ワールドチャットと掲示板を投稿したら、その後から2章が始まります。
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