第42話 夜染め
リンゴも食べたし、よし、黒ズボンを作るぞー!
って思ったんだけど、黒い布を持っていませんでした。
なので、トゥエの町に買いに来ました!
何度来てもトゥエって好きだなぁ。至る所で布やレースが売っているから見ているだけで楽しくて、何時間でも過ごせちゃうよ。
フラフラと、蜜に惹き寄せられる蝶のようにあっちの布を見たりこっちの布を見たりと彷徨っていたら、突然声を掛けられた。
「お、兄ちゃん。また来たのか。この間とはシャツが変わったな。それも自分で作ったのか?」
「……そうです」
…………って、あれ?! もしかしてここは、ゆらめきシリーズを買った場所では!?
記憶力悪くて、声掛けられても一瞬分からなかった。だけど、トゥエで刺繍を褒めてくれたお店の人だ。それは覚えてます。
うわぁ、適当に歩いて辿り着けるなんて運がいい。マップを良く確認して、次のときにはヨツバくんを案内できるように覚えておこう。
「良いシャツじゃねぇか」
「ありがとうございます」
「よし、良いもん見せてもらったからな。俺も見せてやらんとな」
「え」
店主は店の奥に引っ込んでいった。だけど、すぐに布を抱えて戻ってくる。
欲しい物がバレているのか、持っている布は闇を溶かした様に真っ黒な布だった。
「これは『夜染め布』だ。夜属性のマジックスパイダーの糸のみを使ったものだから、夜が得意な悪魔の兄ちゃんにはオススメだと思うぜ」
「!?」
夜が得意……なんですか私……!?
一度、夜に戦闘行ったら真っ暗すぎて怖くて逃げ帰ってきたというのに……!?!
「……悪魔は夜が得意なんですか?」
「いや? だが兄ちゃんは夜属性だろ。肌に色がないんだから。……間違ってたか?」
肌に色がない……灰色の肌だから、夜属性なの? そもそも、夜属性自体初めて聞きました。
「そう、なんですか……?」
「…………自分のことなのに知らないのか? 俺も悪魔には詳しくねぇが、そうだったはずだぜ。……ここだけの話、お得意様に悪魔がいんだよ。兄ちゃんはそいつと似たような色だから合ってるはずだ」
…………お得意様に悪魔、もびっくりな話では!?
……どうして、ほぼヨツバくんと一緒にいるのに、こういうことはヨツバくんがいないときに起きるんだろう。ヨツバくんだったら、もっと詳しく何を聞けばいいか分かってそうなのに、私はただ聞くことだけしかできないよ。
た、助けてヨツバくん! 何を聞けばいいの!
「それで、この布は買うか? そのシャツに合うズボンが作れると思うんだが」
あ、あぁ……悪魔の話は終わっちゃった。でも、私の目的はズボン用の黒い布だったし……仕方ない。何も情報を得られてない私を許して。
「……よく、黒いズボンを作りたいって分かりましたね」
「勘だ勘! 作品として、シャツだけじゃ中途半端に見えたからなぁ」
「やっぱりそう見えますか。……その布、買わせてください」
「おうよ。ちょいと安くしてやるよ」
そう言って、言われたお値段は3000Gでした。……安くしてもらわなかったらもっとお高い布だったの怖いね。前のときなんか、大量に色々買い漁っても全部で1万Gくらいだったはずだもん。一つで、は高いよ。きっと、かなりレアな物なんだろうなぁ。
「俺は、裁縫が好きな穏やかな悪魔を応援してぇんだ。頑張れよ」
「ありがとうございます」
少し、ジーンときた。住民に冷たくされる中、優しくしてくれる方がいると簡単に泣いちゃいそうだ。しかも、穏やか認定。『ネイビーくん』は顔は怖いし、悪魔の血が流れてるみたいだけど、そう評価してもらえるのは嬉しいなぁ。
◇ ◇ ◇
布も買えたし、マイルームに戻ってきた。
それじゃあ、黒いズボンを作っていこう。
型紙は『簡素なズボン』を使う。……まぁ、それしかズボン用の型紙持ってないからね。その型紙は細身のスラッとしたズボンだ。
作り方をよく読んで……、って、え? これってどうやって履くんだろう。シャツはレースアップになっていたけど、これは特になっていないし、ボタンをつけたりとか、ゴムや紐を入れたりもしないみたいだ。ベルト穴だってないし……。
まぁボタンも、ゴムも持ってないから、急に必要って言われても困るけどさ。そう言えば『旅人のズボン』は……と見たら、紐とベルトだった。紐でぎゅっと結んで、上からベルトで隠してあった。
…………ま、いっか! 装備を選択したら、どんな物だって装備できるんだから。よし、作り方を頭に叩き込んで、と。そしたらいつもと同じく、布に『型紙』を『転写』していく。
わ、すごい!
黒い布に転写をしたら、線が白色でした。普段は黒なんだけど、黒に黒じゃ見えないもんね。めちゃくちゃ助かる。それでは、布を裁ちましょう。ジョキジョキ、と小気味良く切っていく。なんだかんだ、切る作業も好き。
あ。布を裁ちながら思ったんだけど、お茶会用のテーブルクロスもなくない? お茶会なら白色のものがいいんだよね。それでいて、買ったばかりのあの丸いテーブルに合うものがほしい。……ズボンを作り終わったら、テーブルクロスも作ろう。
そんなことを考えながら裁ち終わりました。このズボンはポッケがあるので、ポッケの部分を縫うのが難しそうだなーって思った。洋裁初心者の意見です。
縫う前に、もう一度作り方を見る。……それにしても出来上がり線同士をまち針で留めていくのもめちゃくちゃ慣れたなぁ。今は、ウィンドウで作り方を見ながら、手は布にまち針を留めていっている。同時進行までできるようになっちゃった!
お次は縫い作業。縫い始めてみると、シャツよりもズボンの方が難しい作業が少なくてスイスイと進んでいけた。ひたすらチクチクと無心で縫い進めていくこと1時間、ついに完成しました。
「ズボンできたー!」
早速履いて、スクショを撮ろう。記念撮影です。
「わ、イケメン度が増した……」
可愛い大きなリボンのシャツに、黒のズボンを合わせることによって、可愛い甘さの中にクールな格好良さも含ませることができた。『旅人のズボン』ではぼやけた印象だったのが、黒のズボンに変えたことにより印象が引き締まり『ネイビーくん』のイケメン具合を惹き立たせる。
…………『ネイビーくん』ってなんでこんなにイケメンなんだろう…………自分のキャラメイクの腕に脱帽だよ。
格好良い衣装が作れたことが嬉しくて、椅子に座って格好良いポーズ……、詳しく言えば足を組んで首に手を当てて首痛めちゃったポーズをしたり、頬杖を付いて目線を外したりして写真を撮った。イケメンってどんな衣装も似合うし、どんなポーズも格好良くなるから罪だ。
◇ ◇ ◇
『こんばんは! お裁縫まだしてますか?』
写真撮影大会を開催していたら、ヨツバくんからメッセージが届いた。夢中になって自分のアバターを撮りまくっていたのが少し恥ずかしい。何事もなかったかのように、椅子に静かに座り直してから、返信を考える。
お裁縫、ね。シャツとズボンは作り終わっちゃったけど、テーブルクロスはまだ作ってないからね。
あと、椅子用のクッションを作っても良いかもしれないって、思った。テーブルクロスとお揃いの白で作ってレースもつけちゃう、とか。
普段遣い様に、いま使ってるテーブルクロスと同じ布でクッション、もありだなぁ。
…………というか、今気付いたけどヨツバくんがレベル上げをしに行ってから、6時間経ってる。
『これから、テーブルクロスとクッションを作る予定です』
『見に行っていいですか』
『いいですよ』
ヨツバくんが来ることが決定! メッセージが届いた時点で予想はしていたけど。
ヨツバくんが来る前に、『簡素なテーブル』をしまって、大きな丸いテーブル──気にしてなかったけど名前は『木製丸テーブル』と言うみたい──を配置して、椅子の場所も調節する。テーブルクロスが作りやすく、それでいてお話がしやすい位置へと変更した。
そんなことをしていたら、ノック音。扉を開いてヨツバくんをお出迎えする。
「こんにちは……、って、わぁすごい……!!」
ヨツバくんは仰け反るようにリアクションを取った。
「めちゃくちゃオシャレなシャツですね!? 大きなリボンが可愛い…………って、あ、ズボンまで変わってる! エッこれを作ったんですか。うわぁ、凄いですね! ほんと、見たかったです……、予定なんて忘れて見ていっちゃえば良かったです!!」
「えっと、ありがとうございます。…………ヨツバくんもレベル上げお疲れ様です」
「ありがとうございます! レベルアップしてきました!」
「……何レベなんですか?」
「それは……秘密です!」
やっぱり秘密なんだ。お口の前で指を交差させてバッテンを作ってるのが可愛い。……よし、今度パーティ組んだときにこっそり見ちゃおう。
「それで、どんな効果がついているんですかっ? ……そのシャツ、『木々のゆらめき』ですよね? 僕のワンピースよりレア度が高い布で、ネイビーさんが作った物なんて、絶対良い効果だと思うのでわくわくします……!」
効果……。
「…………確認してませんでした」
「エッ」
「その、見た目が良い衣装が作れた時点で大満足だったので…………」
「わぁ、ぁ……、流石ネイビーさんですね!」
うっ、胸が痛い。
写真撮影はあんなにしたのに、効果の確認はしなかったなんて、ね。…………よ、ヨツバくんと一緒に確認したかった、ということでどうでしょうか。




