第40話 エンジョイ勢
ヨツバくんと一緒に露店巡りは続く。
装備品が置いてある無人の露店の前を通ると、「性能を見てみると良いですよ」ってヨツバくんが言うから売買ウィンドウを開いて見てみたら、なんと、オシャレ着装備が多くて、ステータスを上げられる装備品自体少なかった。
付いていても、『+1』とかで切ない。
……プラムさんも言ってたのこういうことかー。効果付きを作るのが大変だって言ってたもんね。
あ、私の場合、プレイヤースキルのおかげじゃなくて、『串刺し』効果のおかげだったりして。攻撃とは違って、何度も刺して一つの物を作り上げていくから、何百回と刺す内にクリティカルが何回も発生していて、必ずステータスアップが付いている、とか。
え、可能性としてかなり高そうじゃない?
忘れてたけど『串刺し』も秘匿状態だよね。悩むけど、これは情報出しちゃってもよくない?
もしも、私が毎回ステータスアップの装備を生み出している理由が『串刺し』のおかげだったらさ、知られたときが怖いじゃん。
しかも、あんまり、隠しておきたい、って気持ちもないんだよね。…………そもそもの話だよ。私はエンジョイ勢なのに、私の物がかなり上位の性能……、って状況は困る。
今は分かんないけど、突然裁縫に飽きて、戦闘に大夢中し始めるかもしれないじゃん? 今だって「裁縫師一本でやっていくぞー!」っていう強い気持ちもないし……、でも断われない性格だから、戦闘がしたいのに頼まれていやいや生産する……とか凄い嫌だし。
でも、私の生産品が普通かそれより少し上、くらいに落ち着いていれば、そんなことは起きないわけですよ。私は、自分が楽しいことのためにしか頑張りたくないので……、えへへ、怠惰です。
今回だって、『お茶会』っていう重大な目的があったから金策のために頑張ったけど、もう必要分は稼げちゃったからね、暫くはゆっくりのんびりくらいの生産にしようと思ってる。
ふふふ、これは欲しい物を買えるだけのお金を得た者の余裕です。
よし、後でヨツバくんに相談しよう! 今は周りに聞かれても困るので、露店を楽しみます!
◇ ◇ ◇
「え」
「わぁ……」
「やばくないですかあれ」
「やばいですね」
そう話しながらも、その露店に近付いていく。その露店はなんと、露店テーブルの上に、下より大きいテーブルが乗っかっていた。
近付いてわかったけど、テーブルの脚が乗っかり切っておらず、4本の脚の内2本しか乗っかっていないというのにぐらぐらすることもなくテーブルの上にテーブルが鎮座している。
「凄い……」
「面白いですね……」
…………どうしよう、買おうかな。
木製の大きい丸テーブルなんだけど、その大きさがお茶会にぴったりな気がするんだよね。テーブルのことは意識になかったんだけど、配布の『簡素なテーブル』じゃお茶会をするには小さくて不適格だと思うから、買うべきな気がする。
しかも、装飾が、私もよく多用する蔓モチーフで親近感が湧くし、オシャレで可愛い。うん、買おう。
「わっ?! 突然無くなりました……」
「……すみません。俺が買いました」
「買ったんですか!?」
「お茶会に丁度いいな、と思って……」
「なるほど。……即断即決で凄いですね」
買っちゃいました! 1万Gでした!
ケーキスタンドよりは安かったので、セーフです。何がセーフか分からないけど。取りあえず、このお店も、お気に入り登録しよう。
…………流石に衝動買いしすぎかも。いやでも、不必要な物は買ってないもんね。だから大丈夫。
だけど、これ以上お金使うのはどうかと思うからそろそろ帰りたい…………常にお財布の紐が緩い人間だからさ……。
ヨツバくんに露店巡り終わりでも良いかと尋ねたら、軽く「良いですよ」と言ってくれたので、終わりになりました。
だけど『串刺し』について相談したいので、まだ解散じゃない。そのことも「良いですよ」と優しく請け負ってくれたので、私のマイルームに飛んで話すことになりました。
えーん、ヨツバくんが優しくて命助かる。
◇ ◇ ◇
結論から言うと、『串刺し』の情報を書き込むことに決まりました。勿体ない、とは言われたんだけど、最終的には私の気持ちを理解してくれて、それじゃあどうしたらいいのか、細かく相談に乗ってくれた。
例えば「『串刺し』を手に入れて裁縫をしても、ステータスアップが付かなければ批判される可能性がある」だとか。全く思い付いてなくて、目から鱗、だったよね。
あとは、『串刺し』自体誰も取れなかった時だ。どこまで深く刺すのかわからないけど、ぶっすり突き刺す、ってメンタル的に難しい作業だと思うんだよね。
私のはたまたまだから、あれを再現、は更に難しいだろうし…………、と言う事を考えていくと、『串刺し』自体誰も取れないんじゃないかとも予想が出来るそうだ。
それでも、誰かの役に立つ可能性が0%ではないので、情報は出すことになった。勿論、批判は怖いので匿名で使える掲示板にしよう……、と思ったらヨツバくんが「僕からワーチャに流しましょうか?」と言い出した。
「よ、ヨツバくんが……!?」
「はい!」
「それは流石に申し訳ないです……批判されるかもですし、嘘つき扱いもされるかもしれません」
「良いですよ、そのくらい気にしません。それに、『串刺し』は本当にあることなので、僕の名が売れます!」
「名が……売れる…………」
凄い事考えるなこの子。そんな視点なかったよ。
「だから、僕にとって得しかありません!」
「……無理してないですか?」
「してないですよ。嫌だったら、言い出さなきゃいい事じゃないですか」
そう言って、明るく笑ってくれるのでお願いすることにした。
「ありがとうございます、ヨツバくん」
「いえいえ! ……あの、折角なので『洗浄魔法』のことについても話していいですか? …………今更ですが取得できた、って書き込みたい、とか思ってます?」
「思ってません」
「即答ですか。…………僕はちょっと心惹かれていますよ。でも、もっと理解して扱えるようになるまでは秘匿したいんですよねー」
「なるほど……。『洗浄魔法』についてはヨツバくんの好きにしてください」
「エッ、ネイビーさんが一番に覚えたのに!?」
「え、はい……」
凄く驚かれて、こっちがびっくりする。
だって、書き込みについて考えていたら不安になってきた……、というか面倒になってきたんだよね。批判は怖いし、嘘扱いされたら嫌だし……、情報を出すのって面倒なだけだなぁって、気付いてしまった。
ヨツバくんに書き込みたい、って気持ちがあるならお任せしちゃいたいです。押し付け、とも言います。
自分から『串刺し』は言い出したのに、既に面倒になっている自分がいるよ。本当、その書き込みもヨツバくんにお任せできるのめちゃくちゃ助かる。
お礼になにか作りたい……!
「……というか、同じ日に覚えましたし、同率一位ってことで良くないですか?」
「だめですよっ」
えー、良いじゃんそれで。
その気持ちを見透かされて、もう一度「だめです」って言われた。ちぇ。
「ネイビーさんって、あれから『洗浄魔法』は使いました?」
「……使ってないです」
「そうなんですね! 『洗浄魔法』をスキルから使うと、口が勝手に歌いだして魔法を発動するので、面白いですよ」
「へぇそうなんですね……。びっくりしそうです」
「えへへ、僕はびっくりしました! 詠唱終わるまで動けないので、余計にです」
魔法って、そんな仕様なんだ。でも一度取得したら、詠唱を覚えていなくても使えそうなのめちゃくちゃ便利そう。……正直、ルだったってことしか覚えてないよ……。
「……あ、『魔法習得速度上昇』はどうしますか?」
「…………それは、出来るならもう少し隠しておいてほしいです……!」
「分かりました、隠しておきます」
「い、いんですかっ……! 絶対その効果がついた装備は秒で売れますしお金になりますよ」
「大丈夫です。元々、ヨツバくんにワンピースを作りたくて買った布だったので、もう満足してます」
「さ、流石、自称エンジョイ勢……」
「──自称じゃないですが!?」
何故、自称扱い。こんなにもゆるゆるエンジョイ勢なのに。…………まぁ、作った装備は何故か上位性能だし、魔法も覚えちゃったし、エンジョイ勢ぽくないかもしれないけど、心はいつだってエンジョイ勢だよ。
…………もしも、食事と睡眠以外の全てをゲームに充てているのはエンジョイ勢じゃない、って言われたら自分が何かは分からなくなるけど。




