第37話 悪魔の血
「悪魔の血、ですか……?」
「あら、知らずに育ってしまったの? だから悪魔らしくないのかしら」
心臓がドキドキする。悪魔、ってどういうこと?
なに、何の話? …………視線操作でステータスを開いて確認したら、『【種族】人間』と書かれていて安心した。やっぱり、『ネイビーくん』って人間だよね?
「悪魔はね、みんな好戦的なのよ。だから、お茶会用の道具を求める悪魔なんて、私は初めて見たわ」
「…………悪魔じゃ、ありません」
「そう、そうよね。あなたは知らないんだものね。教えてくれる同族もおらずに、一人旅人として生きてきたなんて可哀想だわ……」
めちゃくちゃ可哀想がられている。マダムは話しながら悲しくなったのか、瞳に涙が浮かんで煌めいている。それを指先で拭っていて、なんだか申し訳なくなってしまった。
────悪魔、なんだって。
今まで怖がられているのは目付きが悪いお兄さんだから、だと思っていたんだけど、悪魔に見えるからだったのかな? 悪魔に見える者が我が物顔で歩いていたら、そりゃあ怖いし警戒もするよなー。住民のこと、知らないことばっかりすぎる。
…………真面目に冗談を言うと、実際『ネイビーくん』が生まれたのはゲーム内で5日前ですし、まだ何も知らない赤ちゃんも同然ですしおすし。
そう考えたら、マダムによる子ども扱いも理にかなっているかもしれないよね。実際、教え導いてくれる人はおらず、何故か嫌悪され警戒される場所で生きている。
プレイヤーなので全く一人じゃないし、素敵なフレンドはいるし、楽しく生きてはいるけれど、これがゲームじゃなかったら…………、生後5日で自分を人間だと思いながら大人のふりをして生きている悪魔、って涙を誘われるかもしれない。
悪魔の子どもかー。一応、悪魔要素への心当たりはある。『ネイビーくん』の肌色って灰色に近いからさ、それのせいかなって思ってる。キャラメイク時は、人外ぽくてテンション上がってたけど、正しく人外でしたかー。
悪魔のこと、もう少し知りたいな。
「もし良かったら、悪魔について教えていただけませんか」
「えぇ、えぇ。あなたの血に関わることだもの、もちろんいいわ」
◇ ◇ ◇
「詳しくありがとうございました」
悪魔は人類の敵、だそうだ。
そして、魔法を扱うのが得意で、息を吸いながら発動し、息を吐きながらまた発動することができると言い伝えられている。
その能力を良いことに使ってくれれば良いのに、好戦的で手に負えない者が多く、残酷非道。「あなたたちみたいな存在も無理矢理拉致されて生まれてしまったのよ」とまた泣かれてしまった。
悪魔と人間の子どもは、人間とは認められていないし、性格も悪魔に良く似ているそうだ。かなり血が薄まっていても、悪魔の血が流れていれば肌に色が現れるし、性格も悪魔らしく、魔法を扱うのだって得意なのだそうだ。
……やっぱり、肌の色が問題なんだね。
そして、ファルシュトなどの人が住む場所は、『聖女』様のご加護に守られているから誰かを殺すことも拉致することもできない。なので、悪魔が入り込んでも警戒は怠らないが、身の危険はないから警戒だけで済んでいるのだそうだ。
……だから私も、警戒はされても買い物させてもらえてたんだなーって思った。そうじゃなかったら「出ていけ!」って石を投げられてたかも。
あとFJOってPK出来ないんだけど、ちゃんとそれも理由付けがあったんだなあってびっくりしてる。
それにしても『聖女』だって! ヨツバくんに教えてあげたい!
……まずは、ティーカップとティーポットを買ってからだけどね!
「ふふ、話してしまったからティーカップとティーポットを決められてないわね。…………あなた、好きな果物はある?」
「果物なら……リンゴが好きです」
「素敵ね。そしたらこれとこれはどうかしら」
差し出されたものは、リンゴモチーフのものだった。全体的にリンゴの白い花の方が大きいデザインなのもあって、パッと見は、赤い実が描かれてる、って思えるのだけど、よく見るとリンゴなそれは遊び心を感じられて可愛い。
ティーカップの方は、上部1センチに赤が一周塗られていて、縁には金で縁取りされているのがとてもオシャレだ。そして真ん中に、先程あげたリンゴと花のデザインが一周巡っている。
ティーポットは、真ん中に円を描くようにリンゴとりんごの花が配置されている。ソーサーも同じように配置されたデザインだ。
もちろん、ティースプーンもセットだ。持ち手の端の部分がリンゴの形でキュートだった。
「とても可愛いですね。気に入りました」
「ふふ、よかったわ。でも、勧めておいてなんだけど、他も見てから決めるのよ」
「はい、そうします」
白一色でおうとつによってデザインが表現されているものや、透明でオシャレな形をしたものなどにも心を惹かれた。花柄が美しいものや他の果物モチーフのも可愛かったし、シンプルな白に金の縁取りのみの物も大人っぽくて良かった。
だけど、どれを見てもリンゴモチーフの物がチラついてしまって、これだ!とは思えなかった。リンゴ……可愛いじゃん……? うん、リンゴのセットにしよう。
「これにします」
「やっぱりリンゴにしたのね」
「はい。一番気に入ったので。……あ、こちら何客セットですか?」
「6客よ。足りるかしら」
「はい、大丈夫です。……いくらになりますか?」
お高そうでドキドキする。払えなかったら、急いでお金稼ぎをしてくるから、取り置きとかしてもらえないだろうか。
「全部合わせて……そうね、4万Gでどうかしら。これ以上は安くできないの」
「大丈夫、です」
うぅ、高い。でも買える!
稼いだお金の大半が消えてしまったけど、いい買い物をしました! ほくほく。
「……これもどうぞ。私がブレンドしたアップルティーなの。ドライフルーツチップが入っていて、リンゴの華やかさが良く引き立つ紅茶よ。もし良かったら飲んでみてね」
「ありがとうございます……!」
アップルティーだって。めちゃくちゃ嬉しい。
早く飲みたいな。お金を使っちゃって、キッチンが買えなくなっちゃったから、まだ飲めないけど…………。うん、お金稼ぎ頑張ろう。
「また来てね」
「はい、また来ます」
初めと同じくカランコロン、と軽やかなベルの音を聞きながらお店を出た。
よーし、ヨツバくんに連絡しよう。悪魔のことも聖女のことも伝えたい。でも、なんて、なんて書こう……! 上手くまとめられる自信がないぞ……。もう、勢いで書くしかない。
『ヨツバくんへ。俺には悪魔の血が流れているらしく、流れていると魔法の覚えが早いらしいです。あと聖女が、実際に住民の中にいるそうです』
『エッ』
返信はやっ。
『ちょ、え……ネイビーさんのマイルーム行ってもいいですか?』
大混乱しておられる。ごめんね、大分端折った分かりにくい説明だもんね……。それに、私もヨツバくんの顔を見て安心したい気分なので、大歓迎です。
私は急いでマイルームに飛び帰ってから、返信した。
『いつでも大丈夫です』




