第36話 ティーカップ&ティーポット
やってまいりました夕顔通り。
場所は果物屋さんがある朝顔通りの、隣の隣の通りでした。因みに、朝顔通りの隣は昼顔通りで、東から朝顔通り、昼顔通り、夕顔通りと並んで、最後に夜顔通りが並んでた。
全部、噴水広場から繋がっていて、その中で一番大きい通りが夕顔通りだったのでとても分かりやすかったです。
それではティーカップとティーポット探しだー!
◇ ◇ ◇
えーん、住民に警戒されているよ〜。
警戒はまだ良いんだけど、怯えられると悲しすぎる。
あと、ゲーム内では深夜すぎるのも要因かもしれない。現在の時刻日付回ってド深夜1時です。ゲームなので、時間に関係なく買い物は出来るんだけど、更に心象が悪くなっていそうだ。…………あまり気にしてなかったけど、昼間と夜で店番って違う人なのかな?
そういうの細かく設定されてそうだよね。
早く買い物を終わらせたくて、早足にお店を探しているんだけどそれっぽいお店が見付からない。紅茶系専門店があるのか、食器類が売っているお店に置いてあるのかも聞けばよかった。
プラムさんにもう一度聞いてみようかなぁ。
…………うーんでも、警戒されているけど、私だって、この世界の住民と交流を持ってみたい。喋りかけてみて逃げられたら諦めるけど、一度声を掛けて見よう。果物屋のおじさんみたいに大丈夫かもしれないし。
それに、こういうお店の細かい場所は、地元民の方が詳しいだろうからね。
ええっと、怯えている人はやめよう。親の仇、みたいに睨んでいる人もやめて、警戒がまだ弱そうな…………、あ、あのお店にしよう。そのお店は服屋さんで、店主はおばあさんだった。腰も曲がっておらずシャキッと立っている姿は強そうだ。
服屋に入って思い出したけど、私、既製服に刺繍したい、とも思ってたんだよね。道を尋ねる前に商品を買おうとは思ってたけど、刺繍が似合いそうな服を真剣に選ばせてもらっちゃおかな……って。え?
シャツが1枚300G? あ、ワンピースも同じ値段だ。リンゴ3つ分と同じ値段って安すぎない? それとも、果物が高すぎるのかな。
それに、このシャツはボタンで前を留めるシャツだ。旅人の服も、解放された型紙も、紐で縛るレースアップタイプだったから、ボタンのシャツって新鮮。ボタンも買いたいなぁ。
…………あ、というか、ここで買った服に刺繍して、それを露店で売る、ってやっても良いことなのかな? 失礼かなあ。
……よし、聞いちゃえ!
今日の私は、当たって砕けろ戦法です。
「あの、この服に刺繍をして露店で売りたいんですが、大丈夫ですか?」
「わたしゃそのくらい気にしないね。勝手にしな」
「ありがとうございます」
簡単に許可が取れてしまった。ありがたい。でもこの言い方は、人によっては許可が取れない、ってことだろうから気を付けないと。問題は起こしたくない。
シャツを5枚と、ワンピースを5枚買った。10枚買っても3000Gで安い。
「……すみません、ティーカップとティーポットなどが売っているお店ってこの近くにありますか?」
「は、ぁ? あんた、そのなりで探してるのがそんなもんなのかい? わたしゃ、人を殺す道具でも探してるのかと思ってたよ」
「!?」
そんなもの探してると思われてたの!? 怖いが!?
な、何故……、どうしてそんなことに……?
「服に刺繍がしたい、とも言うし、あんた変わってるねぇ」
「そう、ですか?」
「ティーカップとティーポットだったね。そうだねぇ、表通りにも売ってはいるが、そこの小道に入った先にある店の方がオススメだよ。看板に『ティー』とだけ書かれている店さ。…………地図にもマークしといてやったよ」
そう言われてマップを見ると、ピカピカ光っている地点があった。きっと、この場所のことなのだろう。
流石ゲーム。めちゃくちゃ便利。
「ありがとうございます」
店を出て小道を探す。小道なんてあったかなぁと思いながら見てみたら、建物の敷地だったはずの場所に小道が出来ていた。……住民に教えてもらえないと見えないパターンかぁ。一応交流しようと思えば、私でも交流出来たからいいんだけど、大変な仕組みだ。
その道をてくてくと歩いていくと、聞いていた通り看板に『ティー』だけ書かれたお店があった。広いあの通り──服屋のおばあさんが言うには表通り──は、オープンなお店が多くて、大きくて立派な露店、って感じの様相で見やすかったんだけど、この小道のお店は自分で扉を開けないと行けないタイプだった。
現実世界でも、欲しい物は仮想空間で試してみてから通販でポチる、が主流な現代っ子には、扉を自分で開けてお店に入っていくのは大変勇気がいります! ハードルが高すぎる。
でも、ティーカップとティーポットのため……!
カランコロン。
そっと扉を開けたら、綺麗なベルの音が迎え入れてくれた。店内はアンティークな食器が数多く飾られていて、そのオシャレさに感嘆してしまう。
それと同時に、小心者の私は、これにぶつかって割ってしまったら一体いくら支払わなければいけないのか、と考えてしまい身震いした。
「あら。珍しいお客さんね。何を求めてきたのかしら」
「! ティーカップとティーポットが欲しくて来ました」
声を掛けてくれたのは、マダムと呼びたくなるような気品のある佇まいをした女性だった。
「ティーカップとティーポットね。それをどう使うの?」
「……お茶会に使います」
「あら。普通の使い方なのね……もっと、特殊なことに使うのかと思ったわ」
特殊なこと、ってなに? さっきみたいに人殺し、みたいなことを仄めかされてます???
「ちょっと待ってね」
そう言って、その人は口笛を吹き始めた。
何故に口笛? と思ったけれど、その口笛はプロの音楽の用に美しく奏でられていて、聴き惚れる。凄く綺麗……ずっと聴いていたいくらい。
「出来たわ。この中に気に入るものはあるかしら」
「わ……凄い…………」
周りには色んな食器があったはずなのに、それらの物が全てティーカップやティーポットに置き変わっていた。置いてある物は、シンプルな物から華やかな物まで多岐にわたる。こんなにたくさんの素敵な物の中から選べるなんて嬉しいな。
「これって魔法ですか?」
「そうよ」
「こんな魔法もあるんですね……」
「あら、あなたは使えないの?」
「まだ洗浄魔法しか使えません」
「…………まぁ、大人に見えていたのだけれど小さな子どもだったのかしら」
「……いえ、大人ですが…………」
あ、煽られてる!? 『ネイビーくん』が子どもに見えるわけなくない? 子どもでもそのくらい簡単に使えるのに、って意味……?
でも、言い方が心の底から不思議そうで、嫌な感じはしないんだよね。子どもなら仕方ないわね、って雰囲気を感じるし、ずっと少し警戒されていて声音が硬かったんだけど、急に柔らかい声音に変わった。
「お茶会がしたくてここに来た子だものね。特殊な子なのかしら。もしかして、追い出されてきちゃったの?」
「いえ、ただの旅人です。大人です」
「そう……可哀想に。追い出されて旅人になるしかなかったのね。少しお安くしてあげるわ」
「と、特に追い出されてませんが……!?」
「良いのよ、隠そうとしなくて。大丈夫、私はあなたの味方よ」
「…………。……はい」
もう良くわかんないよー! 話が通じない!
追い出された可哀想な子どもだって思われて、値引きをしてもらえることだけは分かった。値引きは嬉しいし、これ以上言っても無理かもって思っちゃって説得を諦めちゃいました。私はこういう押しに弱い。
「…………本当に値引きしていただいていいんですか? 追い出されて困ってる子どもでもなく、ただの大人なんですが」
「良いのよ。…………憎くっても子どもに罪があるわけではないものね。私たちと同じ人間種族みたいな感性をお持ちの子だもの、優しくするべきだわ」
「…………? 俺も人間種族ですが?」
「何を言っているの?」
心底不思議そうにマダムはいった。
「────あなた、悪魔の血が入っているでしょう? それじゃあ、人間とは言えないわ」




