第34話 露店主
「あ! 店主さんだ!」
「ヒッ……?!」
ワープした瞬間、私は声をかけられて素っ頓狂な声を上げそうになった。…………上げかけたけど、叫びはしなかったのでセーフ。うん、危なかった。
「この『ウサギリボン』と『クマリボン』可愛いですね〜! これって、『ラビットベア』の毛皮ですか? あの毛皮って毛が長くて縫うの難しくありません? 毛を変に巻き込んじゃってこんなに綺麗に縫えないんですよね、どうやったらこんなに綺麗にできますか? もし良かったら、コツとか知りたいんですけど、そういうのって秘伝、的な感じで無理ですかね。無理なら大丈夫なんですけど不躾に聞いてごめんなさい」
早い早い早い。
怒涛の勢いで捲し立てられて、言葉を挟む隙間もないまま、謝罪までされてしまった。前に、ヨツバくんにも怒涛の勢いで謝罪までされてしまったのを思い出しちゃったよ。
えっと、『ラビットベア』の毛皮の縫い方のコツだっけ……? ええっと……。
「勢いと気合いで……縫いました………」
「勢いと気合い!?」
うん、勢いと気合いしかない。あとは、なんとなくの勘で縫ってる。毛皮って縫いにくいなー、とは思ったけど、可愛いので勢いで始めて、気合いで縫いきりました。
寧ろ、大変さで言えば『ホーンフロッグ』の皮をインソールにするために縫ったときの方が大変だった。硬かったなぁ。
「勢いと気合い……。『ホーンラビット』と『ホーンフロッグ』の場合は、力技で縫うようなもんじゃないですか。『ラビットベア』だとそんなに力がいらない分、繊細な作業が必要なのに、勢いと気合い……。それでこんなに量産してあるの凄いですね、プレイヤースキルの違いを感じています。店主さんすごいですね」
「そう、なんですかね……???」
めちゃくちゃ褒められているが、実感がない。だってほら……私の初めての『裁縫』が『ラビットベア』で作った『ウサギキーホルダー』だったし……。チラッと、自分の腰に装備してある初めて作ったキーホルダーを見てみたら、うん、……確かに不格好だった。
初めて作った物だから、良く見たら毛が綺麗に出ていないとこもあるし、少し歪だった。でもそこまで気にならない。だって、プロじゃないし。作ってみたいから、作ってみただけである。
チラッと、今度は商品の方を見てみた。それは綺麗に毛がもふもふ出ているし、形が歪な物もない。気が付かなかったけど、確かにこの方が言うように、私って毛皮を縫うのが上手すぎるかもしれない!
うん、かなり上達が見えて、自分で自分の仕事が嬉しくなった。私、こんなにも上手く縫えるようになってたんだ! たくさん作るって大事。
「あとは、器用ステータスの恩恵じゃないですか?」
「えー! 器用上げてるつもりなんだけどなあ……まだ足りないんですかね?」
「た、多分???」
聞かれても分からない。
「……うぅくやしい、もっと頑張ります! また来ます!」
そう言って、『ウサギリボン』『敏捷+5』と、『テーブルクロス』『器用+2』、『シュシュ』『器用+3』をお買い上げしていってくれた。
「お買い上げありがとうございます」
初めての接客は、嵐みたいでした。……嵐みたいな人と関わりがちでは?
ヨツバくんは言わずもがなだし、アカドラさんに『脱兎の習得速度上昇』を売ったときだって嵐みたいだった。あ、そう言えばアカドラさんの時のことも接客に含まれるなら、2回目の接客だった。
因みに、売上項目から買ってくれた人の名前が分かるんだけどガーベラさんと言うそうだ。また来てくれるそうなので、覚えておこう。
「……猫ちゃん…………」
露店の椅子に座って、歩く人達を見ながら売上確認をしていたら、歩く猫ちゃんがいた。二足歩行のふわふわもふもふ猫ちゃんだ。その猫ちゃんに声が聞こえてしまったのか、猫ちゃんが振り返る。
「にゃーっ、だよ〜」
可愛い。猫ちゃんかわいい。
「わ、可愛いお店だね。見ていい?」
「猫ちゃん……。あ、どうぞ」
やばいやばい、『ネイビーくん』が私のせいでキャラ崩壊している。落ち着け私。でも等身大猫ちゃんかわゆすぎる。キャラメイクで猫獣人選んだんだろうなぁかわいいなぁ。赤紫色の毛並みはファンタジー感満載でとても可愛いです。
「握手する?」
「え、良いんですか」
差し出された手をそっと握った。もふもふふわふわしていた。
「……もふもふ……」
「みんなそう言うんだよね! もしかしたら、中身はおじさんかもしれないのに、それでも良いの?」
「良いです。今は猫なので…………」
「わ、面白い〜! みんな、これ言うと手を離すんだけど、お兄さん面白いね!」
「………………あ、すみません。離します」
「あっ、離してほしい、とかの意味で言ったんじゃないからね!?」
「いえ、初めましてなのに馴れ馴れしい握手でした。ごめんなさい」
猫ちゃんにテンション上がりすぎて、失礼なことをしてしまった。可愛い猫でも、中には人間がいるというのに……。人懐っこい猫ちゃんだったから、ついね。……人懐っこい、も失礼だね。
「お兄さん、顔に似合わず面白い人だね」
「すみません……?」
どう返せばいいか分からなくって疑問形になってしまった。猫ちゃんは、謝らないでって言いながらうちの商品を見ている。最初は、直接どんな物が置いてあるか見ていたけど、途中から性能を見るために売買ウィンドウを出して見ているようだ。手の動きでわかった。
こういうのって、大体視線操作が多いんだけど、猫ちゃんは手動操作だった。ウィンドウを操作するたびに可愛いお手々が動くから、猫が猫じゃらしで遊んでいるように、私の頭も猫ちゃんのお手々が動く度に追い掛けてしまう。
抗えない。
「えー!! 効果付いてる物がこんなにたくさんっお兄さん凄いね! しかも、難しい『ラビットベア』のアイテムまで売ってる〜! ……あれ、効果なしはないけど、もしかして生産ギルドに売っちゃってるの? こんなに可愛いから、効果なしでも売れると思うよ!」
「…………効果なし?」
「…………? もしかして、効果なしは出たことない、とか言わないよね?」
「………………ええっと?」
「あ、マジの反応だこれ。えっ、ガチですごいね?!!」
話が見えてこなくて、私は首を傾げた。それを見た猫ちゃんは「説明してあげるね」ってウインクをくれる。可愛い。ずきゅんとハートに刺さりました。
猫ちゃんが言うには、大半の人が、生産品全部にステータスアップが付くことはないらしい。ステータスアップ──効果が、8割付けば良い方らしく、付かなかった物はオシャレ着装備という分類になって、付けることも売ることも可能。……だそうだ。
効果が付く確率を上げるには、器用と生産スキルレベルを上げること、集中力を切らさず丁寧に作り上げること、作製に慣れること。そして、一番はプレイヤースキルが高いかどうか、だそうだ。
「お兄さんはプレイヤースキルが高いんだね〜」
「ありがとう、ございます……」
…………全く知らなかった。
えっ、そんな仕様があったの? 常に何かしらプラスされてた気がするんだけど…………???
「普通は、途中で集中力が乱れて効果なしになっちゃったりするんだよね」
「そう、なんですね」
呆然だよ、呆然。
私って、実は結構凄いプレイヤーだった……???
「何買おうかな〜。『ウサギリボン』は欲しいし、『テーブルクロス』も便利そう。えーでも他も全部可愛いなぁ……。よーし、全部一つずつ買っちゃおうっ」
「!? お買い上げありがとうございます」
全部買ってくださった……。チラッと、お名前を確認をしたら、そこには、知っている名前が。
「え、プラムさん?」
「えっ、私のこと知ってるの?」
「ワールドチャットで質問に答えてもらったことがあります。あの時はありがとうございました」
「わ、わ、そんなに畏まらないで! あれは趣味みたいなものだからねー!」
「…………何か、お礼にオマケを付けたいんですけど、全部買ってくださったので……付けられるものがないです。2個目欲しい物とかありますか?」
「え、……そんなことしなくていいって言いたいんだけど、お願いしたいことがあるな〜……言ってもいい?」
「……はい」
先にそう言われると怖くて、少しだけ身構えながら頷いた。でも、プラムさんの頼みだし、しかも猫ちゃんの頼みだし、出来ることは叶えたい。
「えぇっとね。──私とフレンドになって欲しいなっ!」
「! ぜひ!」
「やったぁよろしくね!」
凄い勢いで猫ちゃん、もといプラムさんのお手々が動いて、フレンド申請が飛んでくる。それにつられて、私も自分の手で『承認』をポチッと押した。
やったー!
プラムさんとフレンドになれました! いえい。
いつもお読みくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます!
なんとVRゲーム日間一位&ブクマ200こえました!皆さまのおかげです!記念に本日3話目の投稿です。




