第32話 それより生産がしたい気分
ヨツバくんは目の前でずっと死にそうな顔をしている。時代劇だったら、「切腹します」とでも言いそうな顔だ。
ひたすらごめんなさい、と繰り返していて、私の方が申し訳なくなる。
私も何が起こったか分からなくて混乱して慌てていたけれど、自分以上に慌てている人を見ていたら落ち着いてきた。
そのおかげで、なんとなく状況が掴めてきた。
ヨツバくんに聞かせるためにした洗浄魔法の発音が、そのまま発動してしまったんだろうね。軽率すぎました。
そして、そのせいでHPもMPも尽きかけて死にかけたところを、恐らくヨツバくんが回復薬をかけて助けてくれた、ってことだろう。
飲んで使うものだと思ってたけど、かけてでも、使えるんだね。しかも、濡れるけどすぐ乾く便利仕様。
…………うーんでも、ギルドでMPが尽きてHPが減っても、頭痛とかの症状は起きなかったのに、どうして今回はこんなことになったんだろう。
HPの方は、尽きかけると頭痛が起こるとか?
正直、頭が痛すぎて、HPがどのくらいだったか、とか見れてないからわかんないんだよね。
あ、一応今のHPとMPも確認しておいたほうがいいかな。今は…………うん、殆ど回復してるね。貴重な回復薬を使わせてしまって申し訳ないや。…………まって、貴重かどうかすら知らないや私。回復薬ってどこに売ってて、いくらなんだろう。
「本当ごめんなさい……」
「そんなに謝らないでください。俺は大丈夫ですよ。……というか、MPが尽きても大丈夫だったのに、今回は倒れたのが不思議なんですが、何故か分かりますか?」
「それは────」
とヨツバくんが話し始めて、詳しく教えてくれた。
HPが1になっても体調は悪くならないし、魔力が0になっても体調は悪くならない。
だけど、両方が著しく減ると体調が悪くなるらしい。
もちろん、HPが0になったら、MPの有無関係なく死に戻るそうだ。
ワールドチャットや掲示板では、『体力がなければ気力でなんとかしろ』『気力がなければ体力でなんとかしろ』『どっちもなければ死ぬしかない』みたいな風に言われているらしい。
細かく言うと両方合わせた数値が、8分の1以下になると体調が悪くなり、10分の1で動けなくなるそうだ。
「例えば、HPとMPが共に40だとして、足して80。その場合、HPとMPの合計値が10になったら体調が悪くなり、合計値が8を切ったら動けないほどの体調不良に見舞われるそうです」
「…………つまり、私の合計値は10分の1以下だったと」
「そうです」
「ヒェッ…………その、助けてくださってありがとうございます。回復薬を使ってくれたんですよね?」
「回復薬は使いましたけど……焦っていて丁寧なかけ方も出来ませんでしたし、そもそも僕が殺しかけたようなもんですからね!? ネイビーさんはもっと怒ってくださいっ!」
怒ってください、って言われても……。私が軽率だったし、最終的にはヨツバくんが助けてくれた、私は助かった。それで良くない? だめ?
「……じゃあ、怒ってるので回復薬代は支払いません。それを認めてくれたら、今回のことはチャラにします」
「エッ何言ってるんですかっお金はいりませんよこのくらい当然です!! ネイビーさんはもっと要求してください」
えーー。
びっくりしたけど、もう治ったことだし、もう良くない? 一応、被害者の私がそう言ってるんだし、いいじゃんそれで。うん、それで押し切ろう。
「被害者の俺が、これでチャラになったと思ってるんで、諦めてください」
「…………はぁ、ネイビーさんって顔は怖めのイケメンさんなのに、中身は優しすぎますよね…………」
「優しくないです。…………正直、ゲームなので死に戻るのも一興だったかもって思い始めてるだけです」
「な、にいってるんですかっ?!」
だって、ゲームなんだから、死に戻ることくらいよくあることじゃんって思ってきちゃってさ。ほら、私、運動音痴なのにVRMMORPGなんていう、体を動かすゲームが好きだから、他のゲームでは戦闘に負けて良く死に戻った訳ですよ。
死ぬと悲しいし負けて悔しいけど、まぁそんなもんかと慣れてくる。別に、そんなに痛いわけじゃないし────。
「…………ネイビーさん、FJOは他のゲームと違って、死ぬと痛いし吐き気がします」
「死なないようにします」
手のひらくるくる。だって痛いのは嫌。吐き気も嫌。バッドステータスは我慢できるけど、何故、ゲームで体調不良にならないかんのだ。
「ネイビーさん、今死にかけたときも頭が痛そうだったじゃないですか。死に戻ると、動けはするけど、頭痛と吐き気に襲われるそうです。睡眠を取るか、時間が経てば治るそうですが」
僕もまだ死に戻ったことはないので実体験ではありませんが、と続く。
「…………それじゃあお互い死なないように頑張りましょう。体調悪くなるのも嫌ですし、ヨツバくんが体調悪くなったら心配します」
「僕もです! さっきは本当に心配しましたっ今は元気そうなので良いんですが、健康が一番ですからねっ。僕も、ネイビーさんに心配をかけないように、死に戻らないよう更に気を付けます!」
うんうんそうだね。私絶対死なないって決めたよ。
もし強敵を倒さないと進めない、とかなっても過剰なほどにレベルを上げてから、倒そうって決めた。
レベルこそ全てを解決する。プレイヤースキルなどない!
◇ ◇ ◇
ヨツバくんは、それでも私が死にかけたことを気にしてたんだけど、私が「生産しながら話を聞くのでも良いですか?」って言ったら全てを諦めた顔をしていた。えへ、『生産しながら聞く』ってほぼ聞けてないのも知ってるだろうし、全く気にしてないよって伝わっただろうから、私の勝ちだね、ピース。
…………だって、あとゲーム内で3時間くらいしか出来そうになかったからさ、生産がしたくって。
詳しく言うなら金策になるものが作りたい。
ヨツバくんは作業を見ながら『洗浄魔法』の練習をするそうです。なので、私はメッセージで発音を送ってあげた。今度は軽率に詠唱しなかったよ。……流石に繰り返したらおばかだよね。
それで、生産。意外とテーブルクロスが売れたから、まずはテーブルクロスを作ろうかな、って思ってる。
あと、『水のゆらめき』って布を使ったリボンも作りたいんだよね。2つ作って、ヨツバくんの耳元につけて三つ編みカチューシャを更に可愛くしても良いだろうし、おさげの結び目に付けても可愛いと思う。
……まぁ、まだヘアピンが見付けられてないから、リボン作ってゴムを付けておさげに、かな。
ヨツバくんに聞かずに勝手に決めてるけど良いのかなぁ。でも、付けてるとこ見たいしなぁ……あ、もし嫌がったら、今回の贖罪?として付けてってお願いしよう。そうだそうしよう。
そう言えば断れないだろうし、私も悪よのう。
よーし、テーブルクロスもリボンも何度も作ってるし、簡単だからどんどん作っていくよ! 目指せ大量量産!
◇ ◇ ◇
〈裁縫レベルが9に上がりました〉
・
・
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〈裁縫レベルが12に上がりました〉
「できたー!」
「やったぁ覚えました!!」
ヨツバくんと声が被って、ぱちくりと顔を見合わせる。はしゃいじゃったのが恥ずかしいのか、ヨツバくんは少し照れ臭そうにしている。
「何を覚えたんですか?」
「洗浄魔法です!!」
「! おめでとうございます」
ぱちぱちと拍手をして祝う。ヨツバくんは更に照れくさそうに頬まで掻いて、落ち着かないように目をキョロキョロしだした。可愛い。
…………一応、魔法を覚えたのか聞いて違ったら辛いかなーと思って配慮してみたんだけど、特にいらない配慮だったね。
「MPは……10減ってます! 思ったより少なく済みました。やっぱり『魔力操作』の影響ですかね」
「そうぽいですよね。…………俺も、覚えないと」
……ううん、でも急がない急がない。気楽に、気長にやっていこう。あんまり無理しても疲れちゃうもんね。
「あっ僕のことはいいんですよっ。ネイビーさんもですよね! 完成、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
私に倣ってか、ヨツバくんもぱちぱちと拍手をしてくれる。嬉しい。
「それで、何が出来上がったんですか?」
「えぇっと。……テーブルクロス、髪ゴム付きリボン、ウサギリボンとクマリボン、アクセサリー枠のシュシュに、あとは…………」
「ま、待ってくださいっ多くありませんか!?」
「何度か作って慣れてますからね。あとは、『お袖留め』も作って見ました。腕装備です」
「お、袖留め……ですか?」
「装備してみたほうが分かりやすいです」
「エッ」
サクッと譲渡。
本当に付けちゃって良いんですか、と心配しながらも、ヨツバくんの瞳は期待に輝いている。なので、付けてみてくださいと背中を押してあげた。
「わぁっ、かわいい! レースがふわふわフリフリでとても可愛いですっ」
装備をした瞬間、ヨツバくんの両方の手首がレースに包まれて、とても可愛いことになった。えへへ、レース大量のお袖留めにしちゃいました。
レースの長さは、手の甲側は指の第一関節までの長さにして、手のひら側は手首までの長さに調整してあるので動くときも余り阻害されることはないだろう。ワンポイントの手首についたリボンもキュートだ。
ほんっと、手の甲側のレースが長いから、角度によって指先がチラチラ見えたり隠されたりと、とても可愛い!
本当は『お袖留め』って、姫袖みたいに広がってる袖を、汚れないように手首で抑える物みたいなんだけど、手首につけるアクセサリーとしても可愛いから良いなーって思ってたんだよね。
それもあって最初はアクセサリーとして作ろうと思っていたんだけど、「腕装備でもいけそうじゃない?」と途中で気が付いて腕装備になれ〜って念じながら作ったら、無事に腕装備になりました。
「お袖留めって可愛いですね! …………あっ、どういうものか分かったので返します」
「いえ、あげます」
「エッ」
「あと、『水のゆらめきリボン』も送りますね。これは頭装備です。……あ、お金はいりません。えーっと、魔法覚えたお祝い、ということで」
「エッ、エッ。……だ、だめですよっ! 払います」
わ。送った『水のゆらめきリボン』──その名の通り『水のゆらめき』という布を使って作ったリボン──と『お袖留め』が秒で送り返されてきた。
ちらっとみたら、キッと睨まれるが小動物の威嚇みたいで可愛い。
「駄目ですからねっ!」
「…………これじゃあ、俺の押し売りじゃないですか。勝手に作ったのに」
「いえ、買いたくない物は買いませんが、どちらも僕が買いたい、と思ったので買います。ネイビーさん作の物は絶対性能良いですし……、なので、押し売りじゃありません!」
「…………」
…………こうなったヨツバくんに勝てる気がしないので、潔く諦めて露店で値段を確認しようと思います。




