第29話 魔法詠唱はルルル
「出来ちゃった…………」
綺麗になった机を前に、呆然と佇む。
本当にただの思い付きで、賑やかしくらいの気持ちだったのだ。なのに、唱えてみたら『洗浄魔法』が発動し、スキルも解放できてしまった。
ヨツバくんに「一番に取得できるように応援したい」と言ったその口で、一番に取得してしまった。
ど、どうしよう!?
恐る恐るヨツバくんを見たら、キラキラ……、いや、ギラギラした瞳と目が合う。ずいっと、顔を近付けてきたヨツバくんから逃げるようにあとずさったら、その分だけ近付かれて、手を取られる。
ぎゅっと手を握られてしまって、逃げることができない。
「よ、ヨツバくん……ごめん…………」
「謝らないでくださいっ! どうやったのかコツ?を聞いてもいいですかっ!?」
「コツ……!? き、いた通りに発音した、だけです」
「…………僕も、聞いた通りに発音している筈なんですが……」
「き、器用ステータスの違い……とか…………」
「………………ありそうですね」
うんうんヨツバくんは頷いて、やっと手を離してくれた。本当ごめんね……応援してるって言ったのに、一番を横取りしちゃった。いや、隠してる人もいるかもだから、正確に一番かは分かんないけどさ。
「折角ネイビーさんに良いワンピースを頂いて、しかも魔法を教えて頂ける機会にも恵まれたのに……活用できませんでした」
「いやっ、これは、わたし、……俺が、おかしかっただけですし……」
いやほんと、一発でできると思ってなかったし。そもそも、ワンピースあげたの3時間前くらいでしょ、そんなすぐに魔法を覚えられると思って私も渡してないし……、ないのに、私は覚えてしまった、ごめん。
…………それにしても、3時間が濃密すぎたな。生産して、露店開いて、悪意にも出会って、そして今は魔法を教えてもらってる。怒涛がすぎる。現実じゃ、この間に1時間も経ってないんだから怖いよ。
てか、魔法。魔法のことだけど、私は魔力自体動かせてないよ。なのに、何故発動したし。
「……あの、俺は魔力感知しか出来ていなくて、操作も何も出来ていないのに、どうして魔法が発動したんですか?」
「ん? 魔力操作は、効率を良くするのに必要なだけで、魔法の発動には必須じゃないぞ。……まぁ、余りにも魔力感知も何も出来ない状態じゃ詠唱をしても魔力が動かず発動はせんがな」
「なる、ほど……? あ」
その言葉に、ハッとして魔力……じゃなくて、MPをステータスから見たところ、0になっていた。旅人レベル16でそれなりに増えたMPが消し飛んでいた。
「…………え、あれ?」
良く見たら、HPまで減ってる。MPがなくなったから、HPを代わりに使った、とか? ……こういう考察苦手だからわかんないよ。
「ネイビーさん?」
「MPが全て無くなって、HPも減ってました」
「エッ」
「多分、MPが足りなくてHPも使ったんじゃないかなと思うんですが……」
「そうっぽいですね! …………これ、魔力操作を鍛えたら、MP消費を抑えることができそうじゃないですか? ネイビーさんは、魔力操作が……その……余りしてなかったので、HPまで使ってしまったんじゃないかなーって思うんですけど」
「なるほど」
その可能性高そう。
魔法を使うたびにHPまで消費されてたら、使い物にならないなぁ。やっぱり、魔力操作も鍛えないとだめなんだ……。でも、魔力操作……鍛えられる自信がない。
「あぁ、旅人たちは魔力の残量が分かるんだったな。俺達は体感でしか分からないが、魔力操作が上手いやつほどたくさん魔法を使えるぞ」
「なるほど……ありがとうございます」
やっぱりそうなんだ。魔力操作かぁ……。逆に、魔力操作のコツをヨツバくんに聞きたい私がいる。
「あのっ! 洗浄魔法って、一人でも練習したら使えるようになりますか?」
「ちゃんと詠唱ができればな。……あぁ、分からなくなったらそこの兄ちゃんに聞けばいいだろ。俺が教えなくても嬢ちゃんならその内使えるようになるさ」
と、言うことで。
洗浄魔法を教えてもらうのは終わりにして、私のマイルームに行くことになった。魔法を覚えるのに講師が絶対に必要だったら、このまま練習していくみたいだったんだけど、その必要はなさそうだったので、少しでも器用を盛るためにテーブルクロスを使える場所に行きたかったみたい。
因みに、ヨツバくんは他に器用を足せるものが、あのテーブルクロスしかないらしい。なので、じゃあなにか器用足せる装備作ってあげるよ〜って私が言ったので、練習場所が私のマイルームになりました。
勿論、こんなに軽くは言っていない。
それで、何作ろうかな。『タッセル付きのシュシュ』なら器用が上がったはずだから、それを作ろうかなあ。……え、布や刺繍糸を変えたら上昇するステータスが変わったりしないよね?! 怖いから全く同じ作りにした方が良いかも。
「……ヨツバくん、俺とお揃いでも大丈夫ですか? 作り方を変えて器用上昇が付くか分からないので」
「大丈夫です! 寧ろ、本当にわざわざ作って頂いて良いんですかっ?!」
「はい。ヨツバくんにも魔法を覚えて欲しいので、出来るだけ手伝います」
器用を上げたら、ヨツバくんも『洗浄魔法』解放出来るといいんだけどなぁ。
…………それにしても、ゲームで洗浄魔法って、使いどころ難しくない? 確かに、汚された商品を綺麗に出来る良い魔法なんだろうけど、汚れが発生しないゲームには必要ないよね。……まぁ、あの光景を目の前で見てしまったから、気持ち的には凄く重要な魔法なんだけどさ。
魔法を覚えた、ってことにはテンション上がるけど、良く考えちゃうと使い所がなさそうで、悩ましい魔法だよ。
──────とか言いつつ、『洗浄魔法』取得しちゃいました!
だって、魔法だよ!? それだけで楽しいじゃん?
必要なスキルポイントは6と重ため。だけど、裁縫以外に使わずずっと貯めていたので、困ることはない。
使い道はこれから探します。いぇい。
それじゃあ、『タッセル付きシュシュ』を作るぞー!
◇ ◇ ◇
一度作った物だから、作業はサクサク進む。この作り方で良いんだっけ、とか悩む必要がないので時間のロスがない。
シュシュの大きさだって、『型紙登録』して『転写』すれば良いだけだったので、楽ちんでした。
もうとっくにシュシュとタッセルを作り終わって、後はシュシュにタッセルを縫い付けるだけってところまできた。あと少し頑張るぞーと思ったら、ヨツバくんの様子がおかしい。
「エッ、ぁ、エッ? えぇ……」
ヨツバくんは、引き続き魔法の詠唱の練習をしていたんだけど、もしかして、魔法を覚えられた…………って雰囲気でもないな。
私の場合、作業中ってよっぽどのことがない限り顔を上げたりしないんだけど、流石によっぽどのことかなと思って顔を上げた。そしたら、まさしく大困惑!って風に顔を歪ませているヨツバくんがいた。
でも、顔を歪ませていても美少女だから安心していいと思う。
「……ヨツバくん?」
それで、一体全体何があったの?
「さ、先に『魔力操作』を覚えちゃいました……」
魔力操作!? たくさん練習していたもんね。
「おめでとうございます」
「…………ありがとう、ございます……?」
正直、私が今一番欲しい技能が魔力操作だ。
当然ヨツバくんは、魔法が欲しかったのだろうけど。
でも、おめでたいので、拍手を送ります。




