第23話 トゥエの布とお茶会
【空腹度】→【満腹度】に変更。
また、19以下で【空腹】の文字が点滅、81以上で【満腹】の文字が点滅する仕様になりました。
それに伴い、13話に満腹に関する文を追加しました。
「『マジックスパイダー』の魔法糸で織られた布を、『精霊花』で染めた布…………魔力の通りが良い…………」
読み上げながら、これってやべー布じゃん、と私でも気付いた。因みに布の名前は『水のゆらめき』だそうです。
「…………ど、どこで見付けてきたんですか!?」
「え、……普通にトゥエの町に売ってました…………」
「そんな布の情報ありませんでしたけど!? 普通じゃないですよ!!」
で、でも。普通に売ってたもん……。
「そのお店に連れていってもらえませんか?」
「つ、連れて…………?」
えっ、どう行ったら行けるんだろう。道覚えてないよ私。無我夢中で手芸店ぽいとこ全巡りして、気になるものを買いまくったので、細かい道がわからない。
と頭を悩ませていたら、ヨツバくんがしょぼんと落ち込んでいた。
「駄目ですか……」
「駄目じゃないですよ! 駄目、じゃないんですけど……、どこにあったか覚えてないなって」
「エッ。……ま、まぁトゥエもそれなりに広いですもんね! 店も多かったですし」
うぅ、ごめん。フォローに胸が痛くなるよ。
「あ、」
そう言えば、この布を買ったお店で、おまけで青緑の布をもらったのを思い出した。
「……どうしました?」
「同じお店でおまけをもらったんですよね。そっちも確認してみていいですか?」
「! ぜひ、見てみてください!気になります!!」
それじゃあ見てみましょう。えーっと、どれだ青緑のネイビーくんらしい布だったんだけど…………あ、あった。
「この布です。素材は……同じ『マジックスパイダー』の糸で、染めた物が『精霊葉』になっています。同じく魔力の通りが良いみたいです。……それで、布の名前が『木々のゆらめき』でした」
「…………なる、ほど。もしかして、他にも『○○のゆらめき』って布があるんですかね? ゆらめきシリーズは魔法、というか魔力に効果アップぽいですねぇ」
確かに、ゆらめきシリーズありそう。グラデーションのことをゆらめき、って言っているのかなぁ。
「あ」
「……ネイビーさん?」
「これ、『水のゆらめき』より品質が高いみたいです。『木々のゆらめき』でなにか作ったら『魔法習得速度上昇』より良いものがつくんですかね?」
「付きそう……ですね…………」
何か作って確かめてみるのもやぶさかではないが、今からもう一着作るのはつらい。流石に服を作るのなら明日にしたい。
「……あっ!!! 『串刺し』!!!!」
「っ? 串刺し…………?」
突然の大声に私はびくりと肩をはねさせた。しかも、放たれた言葉に今まで話していた事との関連性を見出だせなくて、首を傾げる。
「ネイビーさんの『称号』ですよっ! その効果もあって、レアな効果が付いたんじゃないですか!?」
「あ、『称号』……忘れてました。確かにありそうですね。……でも縫うって、『刺す』でいいんですか? 刺繍が『刺す』は分かるんですが」
「…………えぇ……、でも、こう、布に刺して縫っていくので、刺す行為で良いんじゃないですか……? たぶん」
やっぱり、ここでも多分。
正直私達だけで話し合っても答えは見付けきれないんだよね。
「ネイビーさんの腕が良いのもあると思いますが、布の性能が良いのと称号の効果も強いんじゃないかなーって、僕は予想します。……本当、そんな服をタダで頂いちゃって良いんですか……」
「ワンピースはお礼ですからね。お礼が認められないなら、着てほしい、という押し付けですからね。返品不可です」
「…………はい……分かりました……。僕、恵まれすぎでやばいです。髪の毛も結んで頂きましたし、可愛い服もほしいと思っていたら頂いちゃいましたし、ネイビーさんにやりたいこと叶えてもらいっぱなしです。……ネイビーさんも僕にしてほしいことがあったら何でも言ってくださいねっ!」
何でも、って簡単に言わないほうがいいと思うな〜。
まぁ、無茶振りをする気はないんだけどね。でも、お姉さんは心配だよ。素直で良い子なヨツバくんが。
「ネイビーさん。ネイビーさんがFJOでやりたいことってなんですか?」
「俺は……」
聞かれたことについて考える。……ううん、考えなくてもやりたいことは決まってる。
「……俺は、誰かと仲良くお茶会みたいなことして遊びたかったので、もう既にヨツバくんに叶えてもらってるようなものですよ」
そう言いながら、お菓子を一つ指先でつまみ上げて食べた。リアルに再現されたこの世界はお菓子のクズすら指につく。だけど、ゲームだから軽く指を振るだけでクズは消えて汚れは落ちていく。なんて、便利な世界。
今食べたのはジャムクッキーだ。食べてから、リンゴジャムだということに気が付いて、幸せを感じる。リンゴって大好き、美味しいよね。
うん、なんて良いお茶会なんだ。
お茶会に美味しいお菓子は必須だもんね。あとは、お茶。
「────もし、オシャレなティーポットとティーカップ、それに茶葉も用意できたら、お茶会にお誘いしても良いですか? ……そういう遊びが、好きなんです」
少し緊張して、喉がカラカラに渇いたような心地だ。ゲームだから、きっと気の所為なんだけど、どこまでもリアルに五感を再現されたこのゲームでは喉が渇くこともあるかもしれない。こういうときこそ、お茶で喉を湿らせられたらいいのにね。
望んでも、飲み物は何も持っていないから無理なんだけど。持ち物で、一番飲み物に近い物は『HP回復薬』くらい。『HP回復薬』は緑色の液体だ。……これって味は何味なんだろう。まだ飲んだことがないから分からない。
そう言えば、このゲームって満腹度はあっても喉の渇きの数値はないんだね。両方摂取しろ、はかなり辛いから当たり前なんだろうけど、現実だと食べ物より水分の方が大事じゃん?
なんて、現実逃避。
余り、ヨツバくんを直視できない。
緊張で、心臓がばくばく言っている。こんなとこばかりリアルに寄せなくても良いのに。
と考えていたら、俯いていた視界にヨツバくんの手が入ってきた。そう気が付いた時には、その手は私の手を──顔に似合うように男性らしくごつく作った手を、掴んでいた。私の手とは対象的に、ヨツバくんの手は小さくて細く華奢だ。
「…………わッ?!」
いきなり掴まれた事にびっくりして声が漏れる。驚いた勢いで顔を上げたら、キラキラと、水面が光を受けて反射するかのような瞳と目が合った。
「良いですねっお茶会……!!」
「…………!」
言われた言葉を口の中で反復して転がす。
「そういう遊び方もあるんですねっ、楽しそうですねっ! 準備ができたら絶対、ぜーったい誘ってくださいね!!」
そう言って、ヨツバくんはニッと笑った。今までみたことのある花が飛びそうな笑顔とかではなく、無邪気な少年みたいな笑顔だった。
そのまま、ヨツバくんの期待を煮詰めたような瞳と声に圧倒されて、私はぽかん、と間抜けに口を半開きにしたまま呆然としていた。
でも、じわじわとヨツバくんの言った言葉の意味が分かってきて、全身を嬉しさが包む。
「っぜひ、お願いします! 絶対誘いますね!」
──多分『ネイビーくん』にはなれていない。
だけど、『お茶会』は『ネイビーくん』がしたいことではないから。『私』がしたいこと、だから素でも良いんじゃないかなって思った。きっと、ヨツバくんは私が『ネイビーくん』をしていても、ただの素で接していても気にしない。受け入れてくれるだろうから。
「わぁ楽しみに待ってますっ!」
そう言ってくれた言葉が、凄く嬉しかった。
◇ ◇ ◇
未だニッコニコ笑顔が眩しいヨツバくん。それを見守りながらどんなお茶会が良いかとかのお話をしていたけど、そろそろ指摘しても良いかな。
「………………。あの……」
「? なんですか?」
「…………手が……」
「……へ、エッ、あ、あぁっ! ごめんなさい、ごめんなさいっ手握りっぱなしで! あの、いきなり手を握ちゃって、しかもずっと握っててっごめんなさいッッ!!」
「……いえ、大丈夫です」
大丈夫、減るものじゃないし。これが、現実だったらとっくに振り払っていたけれど。…………でもヨツバくんの手、現実との境目が分からなくなるくらい温かくてリアルな体温だったなぁ。
なんだか落ち着かなくて、離された手のひらを閉じたり開いたりしながら、謝り続けるヨツバくんを宥める。
…………それにしても、セーフガードオンにしてあっても、手には触れられるんだね。知らなかったや。




