第16話 クリティカルとトゥエの町
「刺す行為がクリティカル率アップですかーー。うーん、レイピアとかがあれば片手剣でも刺せますけど、うーん」
──似合いませんよね。
「…………」
バッサリと切られた。でもそうだね、似合わないと思います。寧ろレイピアはヨツバくんの方が似合うと思いますね、はい。
「投げナイフ、とかなら似合いそうですよね! ……使い捨てになりやすいので金銭面が大変なんですが」
「投げナイフ……って走りながら投げますか?」
「…………そういう場合が多いですね」
ヨツバくんがあーって顔してる。運動音痴がバレていて恥ずかしいよ。格好良いお兄さんとして、投げナイフを走りながらビシバシ当てられたら凄く格好良かったのにな、残念。
因みに、投げナイフの分類は装備ではなく道具なので、職業関係なく誰でも使用可能だ。
「あっ……! もしかして、刺繍でも上がるんじゃないですかっ!? 刺しますからっ!」
「! た、確かに……。え、でも、クリティカル率上がって何になるんですか?」
「それは、……そうですね」
ヨツバくんが頭を抱えてしまった。本人である私よりも頭を悩ませていて、ちょっと申し訳ない。
「…………考えすぎて分からなくなってきました。クリティカル率が上がることによって、何の恩恵があるんでしょうか。戦闘においてはクリティカル率アップによってクリティカルが出やすくなるので、強い一撃や急所攻撃がでるかも、みたいな感じですよね?? つまり、強い一縫いが出来るって事ですか??? ……クリティカルってなんですか?」
混乱してる。わかる、私も混乱してきた。
そもそもクリティカルってなに、って気持ちになってくるよね。……いやそれにしても、『強い一縫い』って言い方が面白い。
「…………ふふ」
「エッなんで笑うんですか!?」
「………………楽しくて?」
「たの、……楽しいなら良かったです?」
ごめんヨツバくん、誤魔化しました。でも、楽しいのは本当だよ。ヨツバくんと遊ぶのすごく楽しい。
ラビットベアがぶっ飛んできたのは怖かったけど、今は串刺しにしたのも楽しかったなと思ってる。称号までもらっちゃったしね。全部が予想外で私は大満足です。
「はぁ……これ以上クリティカルについて考えても分からないので、今は忘れることにします!」
「そうですね。……モンスターも出てきましたし」
「わぁ、ワイルドウルフですねぇ。ワイルドウルフは重たいので、思いっきり殴っても飛びそうになくて良いですね」
「…………そう、ですね」
マジでもう飛ばさないでほしい。いや、飛ばしてもいいんだけどモンスターを飛ばすなら私がいない方向にしてほしい。マジで。予想外って楽しいけど、そんなすぐに起きなくて良いんですよ、お願いしますヨツバくん。
願いが通じたのか、その後は特にモンスターが吹っ飛ばされる事もなく道程を進んでいく。モンスターは、ヨツバくんが強いので秒殺だ。
あと、ラビットベアはあれ以来、出て来ていない。ヨツバくんもラッキーだって言っていたもんねぇ。……それにしても、ヘアセットのお礼でもらったラビットベアの素材はどう手に入れてきたんだろう。
あれだけ溜まるほど倒すなんてどうやったのか気になるし、レアモンスターの素材をこんなにも受け取ってよかったのかなって思っちゃう。まぁ今更返してって言われても困るので、口にはしないけど。
「わぁっワイルドウルフがいっぱいですよ! 倒してきますね!」
「…………」
5体のワイルドウルフを前に、ヨツバくんは嬉しそうに歓声を上げて走り出す。普通だったら苦戦すると思うし、大変だと思うんだけどなぁ。
……多分、ヨツバくんはバトルジャンキーなんだろうね。おさげに清楚さを求めていたというのに。
「あ、見えてきましたよー!」
「……あれがトゥエの町ですか。なんというか……」
「こぢんまりしてますよね!」
私が言うのを躊躇ったことを躊躇いもなくヨツバくんが口にする。うん、ファルシュトを見たあとだと凄く小さく感じる。
ファルシュトは石造りの壁に囲まれていて全体が見えないくらい広大だったけど、トゥエは木の柵に囲まれている町で、ここからなら大まかな大きさが把握できる。
「でも、トゥエの特産は…………、アッ実際に見たほうが楽しいと思いますっ!」
「…………」
途中でやめられると気になるよ、ヨツバくん!!
もし、楽しくなかったら文句を言ってやろうかな、なんて。…………もちろん、楽しくなくても言わないけどね。特産も気になるし、少し足早に向かおう。
「ようこそ、トゥエの町へ。旅人さんが来るのは聞いていますよ。歓迎いたします」
「ありがとうございます」
「わぁっありがとうございますっ」
にこやかに歓迎された。とりあえず、私だけ警戒される、とかも今のところはない。
「ギルドまでご案内いたしますね」
「よろしくお願いします」
至り尽くせりすぎる。門番の一人が案内を買って出て、代わりに奥から一人出てきて交代している。……旅人に対するにしては、手厚すぎない? VIP対応じゃん。
因みに、案内されてる時にヨツバくんが小さな声で教えてくれたんだけど、ストーリーを始めていないと怪しい旅人は通せない、って門番に言われるんだって。
だから普通は入れないんだけど、試してみた凄い人の情報では、町を囲んであるのがただの木の柵だから不法侵入もできるにはできるらしい。でも見付かった瞬間、即刻捕まるんだって。……当たり前だよね。
不法侵入を試してみようだなんて思わないよ。
そんなこと、考えもつかない。
「ここがギルドです。私は戻らせていただきます」
「案内してくださりありがとうございました」
「ありがとうございましたっ!」
そんなこんなで、ギルドに辿り着きました。ここのギルドは、ファルシュトと比べて小さい。ファルシュトでは、冒険者ギルドと生産ギルドは別々の建物であったけど、ここでは一体型のようだ。
よし、ファルシュトのギルドから預かった物を届けてサクッとストーリーをクリアしよう。
そう思ってギルドに入った瞬間、自動で体が動いて受付の前まで歩いていく。受付の前に辿り着いたあとは、またもや勝手に体が動いて、持ち物欄から預かった物──小さな木箱を取り出していた。
「ファルシュトからのお荷物ですね、確認いたします。……はい、問題ございません。こちら、完了の印とお礼のお品です」
〈プレイヤーランクが6に上がりました〉
お、プレイヤーランクが上がった!
オンラインサービス開始してからだと、初めてのプレイヤーランクアップだね。上がるまで色々あって長かったなぁって気持ちになるけど、ゲーム内が濃密だっただけで、現実じゃまだ初日なんだよね。4倍加速ってすごい。
あと、プレイヤーランクの経験値以外にも、お金を少しもらいました。ヨツバくんにたくさん貰ったあとだと、はした金に感じちゃってだめだね。
「それでは、トゥエの町をお楽しみください!」
その言葉を皮切りに、体が動かせるようになった。そのまま隣にいるヨツバくんを見たら、視線がパッと合う。
「ストーリークリア、ですねっ! ……わぁ、もう18時ですよ。お時間大丈夫ですか?」
「……まだ大丈夫ですが、キリが良いので夕飯にしてきます」
「そうですね! 僕もそうしてきます!」
よーし、ゆうはんだー!
手を振ってくれるヨツバくんに手を振り返してマイルームに飛んだ。そして、ログアウト、をぽちっとな。




