第13話 服に刺繍をしよう!
【空腹度】→【満腹度】の変更に伴い、満腹に関する文言を追加しました。
起きました。そして脱げました。
何がって旅人シリーズの服たちが。もちろん、服を脱いだら全身裸になっちゃった! ……なんてことはなく、体のラインすら分からない謎素材インナーを着ていました。これで安心だねっ!
装備欄から『外す』『付ける』で着脱が可能なんだけど、気になって手動で脱いでみたらこれまた脱げましたーやったね!
そしたらなんと、『旅人のシャツ』ってシャツとベスト一体型、みたいなデザインだったんだけど、手動で脱ぐとシャツとベストも別々になりました。すごくない?
因みに、起きたらまた満腹度が減っていたので、りんごを食べちゃいました。これで全部食べきっちゃった。でも満腹度の値が90を超えたから長く生産しても大丈夫だろう………ってあれ!? 満腹のバッドステータスがついてる……。
バッドステータスは『移動速度減少』だって。……ヘルプを読んでみたら、81以上で満腹になるらしい。腹八分目までに抑えろ、ってこと?
……確かにお腹いっぱい感ある……。
まぁでも、生産するくらいならなんとかなるかな、って思うので、そう信じて旅人のシャツに刺繍をしようと思います。
あ、『旅人のシャツ』を分解したシャツだけね。ベストはまた今度。
図案はまた蔓草にしようと思ってる。襟と袖口に蔓草の刺繍があったらオシャレで可愛いかなって。あと、裁縫セットに初めから入っている刺繍糸の色数が少なくて、あまり派手なのは出来なさそうだった。……顔に似合わない気がするから、派手なのはしないだろうけどね。
それで、入っている刺繍糸に落ち着いた緑色があったから、蔓草モチーフを刺繍する後押しになったんだよね。あと、髪色ぽいネイビー色の刺繍糸もあったから、緑から紺色のグラデーション蔓草もオシャレかなーって考えていて、頑張る予定。
綺麗にグラデーションできたらいいな!
よーし、刺繍するぞーっと思ったら、ぴこんと通知の音が。なんだろうと思ったら、ヨツバくんからだった。
『今何してますか?』
『刺繍中です』
まだだけど。でももう刺繍枠にシャツを嵌めたあとだし、あとは刺繍糸を刺繍針に通すだけ。刺繍糸は好みの長さに切ってから、1本ずつ引き抜いて使う。うーん今回は、2本取りでやろう。
因みに私は、何度も変えるのが面倒だから長めに糸を切っています。
そして、糸を通すのはめちゃくちゃ簡単だった!
流石ゲーム、糸を通すっていう機能が『裁縫』スキルについていて、それを選択するだけで秒で糸を通すことができた。……やばい、リアルで刺繍やるときイライラするようになるかも!
なんて考えていたら、また、ぴこんと通知の音。
『刺繍してるとこみてみたいです。行ってもいいですか』
『いいよ』
「……アッ素で返しちゃった」
やらかしたやらかした。余所事を考えていると、ロールプレイとかやっていられないよね。…………正直、ヨツバくんも僕っ娘になっちゃってるし、私も素でもいいかなーーとか考え始めてるよ。初志貫徹できる人間になりたかったよね。
『今から行きます!』
「…………触れないでくれるの有り難すぎる。あ、」
『椅子持ってきたほうがいいと思います』
よしよし、これで、ヨツバくんを立たせて私だけ座ってるのを回避できる。
『わ、天才ですか! 持っていきますね!』
◇ ◇ ◇
テーブルを挟んで椅子で向かい合わせ。
ヨツバくんのお話をBGMに、刺繍を刺していく。落ち着いた一定のトーンで続く話は、BGMとしてとても優秀だ。
そう、BGMとして優秀なので、全てを聞き流してしまっている。その代わり、刺繍の進みはとても良い。カーブとかも綺麗に刺せたし、クオリティもかなり高くて自慢できそうだ。
「……あの聞いてます?」
「あんまり聞いてない」
「…………そうですか。というか、お兄さんロールプレイはどうしたんですか?」
「…………アッ。……でも、僕っ娘には言われたくない」
「………………それはそうなんですけど」
「…………」
「…………。……あっ、もちろんネイビーさんの素も好きですからね。文句を言ってるわけじゃないですからねっ?!」
フォローが入るけど、そんなことは気にしてない。
ごめんね、ヨツバくん。集中すると他のことって入ってこなくなるから、ステータスについてとか、今の攻略の進み具合とか、たくさん教えてくれても聞いていられないんだよね。
ほんとごめん。
あ、『マジックマジゴリラ』がマジ強い、だけは覚えてる。魔法が使えて、勝負に真剣なゴリラ型モンスターなんだって。インパクトが強すぎて、刺繍中でもばっちり聞こえてきたし、「え?」って反応もしちゃった。
因みに、今のこの会話も刺繍を刺しながら行っているから、顔を上げてない。一度始めたら一気に終わらせちゃいたから、途中で止まるとか嫌なんだよね。
私の生産作業を見せるのは構わないんだけど、それは覚悟して来てほしいなって思う。……今更だね。
「ごめんね、ヨツバくん」
「……大丈夫ですけど、『くん』付けなんですね……」
「…………ヨツバさん、すみません」
「いやなんか、凄い他人行儀っ……! もう『くん』付けで大丈夫ですからっ」
「ありがとう」
やったー! ヨツバくん呼びゲットだぜ。
「……っいて」
そんなことで集中力を乱していたら、手元が狂ってぶすりと針を指に刺していた。痛い。こういう痛みはリアルなんだね。でも、血までは出て来なかった。ゲームだからかな?
「だ、大丈夫ですかっ……!?」
慌ててる。それはもう、飼い主の周りをくるくる周って、僕はどうしたらいいですか、って荒ぶる犬みたいになってる。可愛い。
「大丈夫。少し刺しただけ」
「刺しただけ!? や、やばいですよ……」
「手芸してたら、たまに良くあることだよ」
「たまになんですかっ? 良くなんですかっ!?」
「……たまに良く、だよ」
大丈夫だよーって手をひらひらさせてアピールする。
それにしても、私は結構な頻度で使っちゃうんだけど『たまに良く』って言うよね?
使っている感覚としては、殆ど起きないんだけど、その物事が起きるとまた起きた!って思うから、良く起きてるなーみたいな。実際にはたまになんだけど、自分の感覚としては良くあることなので、『たまに良くあること』って感じ?
今回で言うなら、ほぼ刺さないんだけど毎回一度、二度はあることだよ、って意味で使った感じ! ……こんなのどうでも良いか。
「できたー」
〈旅人レベルが5に上がりました〉
〈スキルポイントが2付与されます〉
〈裁縫レベルが2に上がりました〉
指に針を刺すっていう事故も乗り越えて、ついに完成。
襟元と袖口に刺繍が煌めいていて、初期からはかなり見違えた。刺繍糸が、角度を変えるたびに光を帯びて輝く姿は、まるで森の木漏れ日のよう…………なんちゃって。
でも、そんな感じにキラキラしていて、オシャレだ。初期生産セットなのに、かなり良い刺繍糸だったから大満足。
刺している時も、絡みやすいとかもない刺しやすい糸だったからね。刺繍糸ももっと種類が欲しいし、買えるお店を発掘したいなあ。
「わぁ……凄い…………初期服じゃないみたいですね!!」
そうだろうそうだろう。もっと褒めたまえよヨツバくん。装備欄から『付ける』を選択して、着る。……今までインナー姿だったのは突っ込んではいけない。ゲームだし、体のラインすら分からない謎素材インナーだからセーフだってことで。
「わぁっ、格好良いです!!」
「ありがとう」
ふふっ、いっぱい褒められて嬉しい。絶対ドヤ顔してる。人間誰しも称賛の声に弱いもの、仕方ない。
そして、時間を見て驚いた。3時間も経ってる。……まぁ、刺繍をしてたら仕方ないんだけどね。刺繍するところが狭い範囲だったおかげで、これでもかなり早く済んだ方だし。
「…………3時間も刺繍見てるだけでつまらなくなかったですか?」
「いえ! 楽しかったです!! 僕、不器用なので自分では出来ないので、こういうの見るの大好きなんです」
ヨツバくんは、普段もハンドメイドの作業動画をよく見ているらしい。だから、ゲーム内とはいえ、生で見れて凄く嬉しかったそうだ。……そんなこと言われたら、私まで嬉しいよ。
「また暇なときは見においで」
「! 良いんですかっ僕来ちゃいますよっ……!」
「いつでもおいで」
……それにしても、イケメン声の『おいで』って破壊力高いなあ。自分で、喋ってるのに声音が違うの脳みそがバグる。




