宿命の姉妹
「歩みを始めたようですね。鏡。」
そは希望・絶望。
全てを投げる賽。
「姉上。御無沙汰しております。」
「・・・。」
まほろば郷の中心。
私と鏡は、ついにこの世界の始まりのページを開く。
今相対するは「日御女」。
私と同じ名を持つ女性。
その容姿は、まさに『神』。
私と違い、覚悟の光を纏った本物の現人神。
そのあまりの神々しさは、この戦いの結末を全て無意味なものに帰してしまいそうなほど、絶大・・・。
「・・・。なるほど。全てを理解しました。」
日御女は表情を崩さない。
それに対し、鏡も無表情だ。
両者の言葉の刃が静かに、だが激しくぶつかり合うのを感じる。
「姉上。今度、まみえる時は決着の時です。」
「・・・。」
「私は南へ戻ります。」
「・・・。」
「これも運命。いずれ私は姉上を超えます。」
「・・・。」
「それがどれだけ高慢であるか。それも理解しております。」
「・・・。」
「・・・。」
「そなたの気持ちは分かりました。もはや手向ける言葉は不要。私も容赦はいたしません。」
「・・・。」
「ただ、姉として・・・。元気でいてください。」
「ならば私も、姉上に手向けましょう。私と戦う時まで、御壮健であられますよう。」
二人の会話は終わる。
私も緊張感がみなぎる。
ここは神殿なのだろうか?簡素ではあるが、纏う気は荘厳。あまりにも高く、そして深い。
私はまほろば郷の全てを理解した訳ではない。
だが、この場所が全ての中心である事は分かる。
おそらく数年の内に周辺国を従え、さらに強大となっていくであろう。
「さぁ日御子。帰りましょう。」
鏡は努めて冷静に振舞っている。
だが、僅かに肩が震えているのを私は見落とさない。
「今は聞かぬ。だが、詳しい事は聞かせてもらえるのか?」
「勿論です。さぁ幕は上がりました。・・・早速ですが、ここは敵陣のど真ん中です。」
「・・・。」
「アハハ。そのまさかです。捕まるか、殺される前に逃げますよ。」
「おい!」
間髪いれず、部屋の外から兵士と思しき一団が乱入してくる。
「やれやれ・・・。」
私と鏡は予定通り、光弾を放ち、その場を脱出。
一目散に外に飛び出した。
「・・・。」
日御女はしばらくその場所に佇んでいる。
「御無事ですか。日御女。」
年の頃は、十四・五くらいだろうか。
まだあどけなさを残す少年が、その場に駆けつけてくる。
「剣流。・・・大事ない。」
「ハッ。」
「戦の準備を怠らぬよう。」
「ハッ。」
「賊は・・・。フフフ。思ったより力を持っている。」
「・・・。」
日御女はそれだけ話すと、静かに踵を帰す。
その神々しき表情の内には僅かに零れたものがあった。