眠りより冷めた大地
まほろば郷・・・。
太古の昔より、ここはそう呼ばれているらしい。
「眺めは如何ですか?」
鏡が静かに尋ねてくる。
彼女の案内で、この世界が一望出来る「青天の頂」と呼ばれる丘に、私「日御子」は佇んでいる。
まぁ私からは一言。
現世なのに、この世のものとは思えない。
心の底からそう思うしかない。
ただそれ以上に穢れがないというか、現実味がないというか・・・。
清らか過ぎて、人が住んでいると信じる事も出来ない。
「まもなくこの世界は修羅の国と化します。」
「!」
鏡はそんな私の感傷を感じる事もなく、絶望的な一言を言い放つ。
「この世界は、永遠とも思える眠りから目覚めました。力のある者は、それに相応しい対価を求めて、動き出すでしょう。」
「・・・。」
「百は十となり、十は三となり、三は一となる。」
「それはつまり王となるものを定める過程・・・。」
「察しのよい事ですね。でも・・・。」
「でも?」
「貴方が王になる事も可能ですが?」
「私が?」
「神の力を使えば造作もないかと。」
「・・・。」
確かにそうかもしれない。
だが・・・。
「それは君が望む未来なのか?」
「!」
「私にはそのつもりはない。この世界の事はこの世界の人が決めるべきこと。」
「・・・。」
「でも、この世界が眠りより覚めたのは、そんな人の心に干渉した者達がいるのだろう?」
「!」
「それは人ですらないのではないか?」
「・・・。御名答です。」
彼女の声は弾んでいる。
我が意を得たり・・・なのだろうか?
ならば私がなすべき事は決まっている。
近いうちに、それらは姿を現すだろう。
私は静かに目を閉じる。
この目を開けた時、私の幕も上がる。
運命を呪うか?はたまた感謝するか?
それは『神』のみぞ知る。
でも、『私』は知らない。
「では・・・。会いに行きましょうか。」
「?」
「この舞台に上がるべき配役達に会いに。」
「・・・。」
「私にとっては明確な敵。貴方にとっては・・・。」
「・・・。会って決めるさ。」
「御心のままに。」
運命の幕は開く。
朝の光は、ほんのり赤く染まっていた。
私の心も同じであるかのように・・・。