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紅の魔女  作者: 橋本禰雲
4/7

4.死霊の軍団

 その日の夕刻に紬は解放された。魔獣鷹より小さいものの、人の使役によく耐える魔獣鴨を一羽与えられ、紬はアドリス城を飛び立った。城を離れてしばらくのうちは護衛役の空兵が三騎付き従った。

 護衛役たちとは無言のまま別れると、陽が落ちる前に鉤爪小砦に辿り着いた。この小砦は討伐軍が入ったアドリス城と抵抗軍の本拠地である五竜山砦の中間地点にあり、狭隘の要衝で討伐軍に一矢報いようと抵抗軍の兵士が準備をしている最中だった。

 抵抗軍の中でも有能な魔術士として知らえていた紬は、アドリス城を脱出してきたと言って小砦に迎えられ、一室を与えられて休んだ。

 小砦を守る軍団長は有能な男のようだし、紬が見たところ魔術士が張り巡らした魔法フィールドは、狭隘である地の利もあいまって、討伐軍を数日間に渡って足止めできるだろうと思わせた。この砦の準備具合を見て感じた余裕は紬を少なからず安心させた。翌朝、日の出とともに小砦の与えられた一室で目を覚ました紬だったが、正木との戦闘で負った怪我は鈍く胸の痛みに現れていたし、溜まった疲れも取れていなように感じ、少し休む時間を取って昼近くになってから出発しようと考えた。

 陽が高くなるころ、紬が兵糧であるパンをかじりながら準備をはじめていると、砦中に大きな炸裂音が鳴り響いた。

「ええ!?もう?」

 紬は思わず声に出してしまった。

 討伐軍はこの日の夜明けとともにアドリス城を出発すると言っていた。その通りだったとすれば昼前にこの砦にやってくるのは早すぎると思った。

 紬は急いで武装を整え部屋を飛び出した。砦の壁伝いに設置された階段を駆けるように登った。

 鉤爪小砦の周りを一望できる櫓に登るとそこにはすでにこの砦を守る軍団長がいた。

「大丈夫ですか!?」

 紬は大声で問うた。敵が放った魔法砲弾が飛来してきて大きな炸裂音が鳴り響いたからだ。

「紬さんか!国軍がやってきた。思ったよりも早かったな」

 紬はエミール王子らがこの日の夜明けに出発する予定であることを昨晩のうちに軍団長に伝えていた。敵軍が襲来するのはさらに一日後になるだろうと予想していたのだが、そもそも紬がいる場で出発の時刻を発言していたのが罠だったのかもしれない。

 しかし砦の軍団長は油断せずに準備していたようだ。

 紬は砦を守り魔法フィールドがうまく作用しているのを見て取った。

 魔法防壁は砦の上空に張り巡らされ、空挺部隊の侵入を許さない。今砲撃を受けているが、それらの魔法砲弾からも、遠隔魔法攻撃からも魔法防壁は大幅に威力を落とす効果が得られるのだ。

「あれは……なんだろう」

 レンズを組み合わせて遠くを視認できる単眼鏡を覗きながら軍団長が言った。

「見せてください」

 紬が申し出る。紬は軍団長から単眼鏡を手渡してもらいそれを覗き込んだ。

 小砦から少し先の丘の上に敵の魔術士隊が並んで魔法砲撃を射出しているのが見えた。その丘の麓にはエミール王子の旗を掲げた一団がいた。

「左のほうだ」

 軍団長が言い川を挟んだ森があるほうを指さした。紬は片目を閉じて単眼鏡をそちらに向けた。

 森の中からなにかがうごめいているのが見えた。

 紬は嫌な予感がしてきた。

「あの森の中には何があるんですか?」

 紬は単眼鏡を覗き込みながら言った。

「特になにも。森の中を少しすすめば開けたところに小さな教会と墓地があるがね」

「墓地……」

 それを聞いて森から姿を表しつつある異形の者たちの正体が分かった。

「グール(屍食鬼)だわ……」

 埋められていた死体を死霊を操る魔術を使って動かしているのだろう。死体どもはグールとなってこの砦に向かって来ている!

 人骨が奇妙な動きの歩き方でグールの周りに数体いるのが見えた。彼らは欠けた刃の剣を振り回してもいた。

「スケルトンまでいる……あ、あいつは…!」

 死霊の一軍を率いているようにも見える黒い影が見えた。あの姿は忘れようとしてもなかなか忘れられるものではない。「正木め……ネクロマンサーだったのか」

 死霊系の魔術は適正を持った者が少なく、あったとしても目指す者が稀なので、あまり見ないものだったが、そのため魔法による防壁を張ることも難しいため、戦争では非常に強力な武力となる。

「五十体はいる。死霊魔術士が何人いるんだっ」

 紬は叫んだ。死霊魔術士❘❘ネクロマンサーとも呼ばれる❘❘が召喚できる死霊モンスターはせいぜいがニ体、技力のある者で四体ほどなのだが、元々は死霊魔術士の才を買われて地球から魔法界の中心地に連れてこられた正木は、五十体すべての死霊モンスターを彼一人で召喚したのだった。

「魔法防壁を死霊魔術に対応できるように張り直したほうがよいです!」

 紬は軍団長に言った。軍団長は部下に命令を下し伝令が数人走り去った。しばらくすると砦のあちこちの櫓に魔術士たちが登り魔法を唱えはじめた。一応の防壁を巡らせられたようだが紬が見た感じだと十分とは言えなかった。あれでは死霊モンスターの力を少しは減じられる程度だ。

 やがて死霊モンスターたちは砦に接近してきた。正木はモンスターの後ろに陣取っているようだった。抵抗軍側の兵士たちが魔法弾をモンスターたちに打ち込みはじめて戦闘がはじまった。魔術士たちが櫓の上から炎や氷の攻撃魔法を繰りだしていく。

 紬はその様子を凝視した。死霊の軍団にも有利になるように魔法フィールドが張られたようだ。砦側からの遠隔魔法攻撃は弱体化されてしまった。しかも相手は死霊の怪物たちである。少々炎に焼かれてもおかまいなしに突き進んでくる。砦の門は彼らに取りつかれ破壊攻撃を受けた。

 グールたちは通常の人間よりも二まわりほど大きな者もいた。そいつらが砦の門を素手で殴りつける。黒く皺だらけの拳と腕が損傷するのも構わずに門を破壊しようとした。門の木製の部分は味方の魔法により石のように固く、火炎の攻撃にも燃えないようになっていたが、グールたちの攻撃には無力だった。バラバラに破壊されてしまった。

 数日、うまくいけば十日以上は持ちこたえられると抵抗軍が思っていた砦の防御門は、ものの一時間ほどで破られてしまった。グールやスケルトンが砦内部に侵入してきた。抵抗軍の魔法剣士、魔術士たちとの乱戦がはじまった。死霊のモンスターの中にひときわ大きな異形の者が二体いた。黒いローブをなびかせ目深にかぶったフードの奥には骸骨の顔と光る目があった。大きな鎌を持ち抵抗軍の兵士たちを薙ぎ払ってゆく。強力な魔力を有しているのか魔法攻撃に当たってもほとんど効果がないようだ。

「幽鬼だ……あれを倒すだけでも何人が犠牲になってしまうか……」

 魔術士らしい軍団長の側近が言った。

「紬さん、あなたは今のうちにここを離れたほうがいい」

 軍団長が言った。彼は紬がエミール王子の軍書を携えて抵抗軍の本拠地五竜山に赴かなければならないことを知っていた。

 紬は軍団長に向かって頷き、ここで何と言ってよいか分からずに、無言でその場を後にした。櫓を急いでおりて魔獣鴨が繋がれている厩舎に向かう。剣や盾が当たる音や遠隔魔法攻撃の炸裂音が砦内に響き渡っている。幸い厩舎は無事だった。急いで自分が乗ってきた魔獣鴨を外に誘導して跨った。空を守る抵抗軍側の魔法フィールドはまだ有効だった。砦から飛び立ち、目立たないように低空飛行で飛んだ。戦闘が行われていた方面とは逆側の門からは砦を脱出しようとする兵が何人か見えた。


 紬は何も考えずに飛んだ。

 冷たい風にさらされて体が冷え切ってから、冷風を遮る魔法をかけ忘れていたことに気付いた。

 最悪のケースを考えて抵抗軍の上層部に報告すべきだと思った。あの様子では鉤爪小砦は今頃はもう陥落しているだろう。そうすると最短で明後日には抵抗軍の本拠地五竜山砦に討伐軍が殺到するかもしれない。死霊使いたちが魔獣鷹で飛来するとなると、明日にはあの死霊の軍団の攻撃を受ける可能性だってある。

 急がなければならないと思ったが少しの寄り道で自分の村に立ち寄れることに抗うことはできなかった。この一帯では有名な二つの滝が並んで流れ落ちているのを眼下に見てからしばらく飛ぶと、生まれ育った農村が見えてきた。その集落に近づくと紬は違和感に気付いた。

 村の上を低空で旋回してみた。

「ひとけが……ない……!」

 不安で胸がいっぱいになる。

 村で一番大きな家から一人の男が出てきた。紬の乗る魔獣鴨の翼のはためく音でも聞いて出てきたのかも知れない。

 紬はいそいで男の傍に魔獣鴨を着陸させた。

「おや、紬の嬢ちゃんか」

 男は壮年で、村長の下僕の男だった。

「茂蔵!村の、村のみんなは!?」

「グラボーさまの軍勢がやってきてみんな五龍山に連れて行っただよ」

「……!」

「おらだけ村の様子を見るのに残るのを許された」

「畑は?畑はどうなったの?」

「早めに収穫した分はあらかた軍に持っていかれてしまっただよ。残りは儂一人でもいでいるんだがなあ」

「なんてこと……!」

 紬は村民たちが無事なのを知ったがこれから正に戦場になってしまう五竜山にいると知ってどうしようどうしようと思った。

「水を。水を一杯ちょうだい。おねがい」

 紬はカラカラの喉を抑えながら言った。

 茂蔵は心配そうな顔で紬を見つめてから踵を返して家の中に入っていき、コップに水を汲んで戻ってきた。

「ありがとう」

 紬は水をごくごくと飲んだ。井戸から汲んでおいたであろう水は冷たかった。

「茂蔵、よくきいて」

 茂蔵は姿勢を正して紬の言葉を待った。「明日か明後日には討伐軍がここにやって来るわ」

「やつらが来たら逃げろと言われてるだ」

「ダメ!逃げたら追われて殺されるわ。村で大人しくしていれば何もされないはず。村人は五竜山に連れて行かれたと正直に話してもいいわ」

「……分かった」

「収穫は続けてちょうだい。私が必ずみんなを連れて帰るから」

 茂蔵は何度も頷いた。

「急がなくちゃ」

 紬は呟いてから気を取り直して歩き出した。ぶらぶらと村長宅の庭をうろついている魔獣鴨のところに行き、それに跨った。茂蔵を振り返ると彼は弱々しく腕を振っていた。紬も一度手を振ってから魔獣を飛び立たせた。

 村人たちを守らねば。父は早くに亡くしていたが祖母と母が村にはいたはずだ。年寄りまで連れていくなんて何かがおかしい。抵抗軍の首領グラボーに問いただす必要がありそうだ。


 不安を胸に紬は飛んだ。風向きは追い風で、急ぐ紬にはありがたかった。日が暮れる前に目的地の五竜山が見えてきた。狭隘の地に築かれた城塞で、本来であれば東の国境を接したファリス王国との戦いで良く使われる要衝だったが今は領主ロイドに反旗を翻した抵抗軍の本拠地になっていた。

 激しい流れの川沿いを薪を運ぶ人々が砦に向かって歩いているのが見えた。五竜山砦の内部は意外に広く、多くの人々が籠城することができるように、木造の大きな宿所や岩をくり抜いて作られた洞窟内部にも宿所を設けることができた。

 紬は魔獣鴨を高く飛び上がらせて砦の内部の様子を見下ろした。魔法フィールドによる防壁が張り巡らされていて厳戒態勢だ。内部には篝火が多く設置されていて、人々がごったがえしていた。アドリス城から引き上げてきた抵抗軍は途中の村という村、かたっぱしから住人を連れてきたに違いない。そうでなければ説明がつかないくらい多くの人がいるように見えた。

 紬は手綱を操って魔獣鴨を一度砦から離れさせ、低空を飛ばせて再度ゆっくりと砦に近づいた。砦の魔法弾が撃てる砲塔が自分を狙うのを感じながら砦の空兵着地帯に降りた。

 近づいてくる兵士が「お前は、紅の……」と言った。

「紬です。敵軍のエミール王子からの軍書を持ってきました。グラボーさまはどこにいますか?」

 魔獣鴨から飛び降りながら言った。

「そうか。首領は指揮所においでだ。よし、ついて来い」

 着地帯は砦内部に木材を組み上げた高所に作られていたので兵士はそこに設けられた階段を降りていき、紬もそれに続いた。地上に降りると、

「あの、私……」

 紬はそう呟いてからぱっと村人と思われる多くの人々がいる広場のほうへ走り出した。

「こら!どこへいく」

 それを見て兵士が怒鳴った。

「村のみんなの様子をみてきます。すぐ戻ります」

 紬はそう言い残すと上空から砦内部を見下ろしたときに見当をつけていた方向へ走った。広場は行き交う人々でごった返していた。紬はすぐにその人々の中に紛れ込んだ。たとえ先程の兵士が追いかけて来たとしても、もう紬を見つけ出すのは難しいだろう。

 広場では周辺の村々から連れてこられたであろう普通の農民がいた。村ごとに固まって、火を起こして夕食の準備をしている者が多かった。しかしその集まりのどれもが女、子供だけであった。

 いくつかの集まりの先に見知った顔を見つけて紬はほっとすると同時に足を速めてそちらへ向かった。

「母さん、ばあば!」

 母と祖母を見つけて紬は叫んだ。そして驚いた顔を見せる母の胸に飛び込んだ。

「紬!よかった!無事で」

 ひとしきり抱擁を交わした後、紬は尋ねた。

「男の人達はどこ?」

「男はみんな武器を持たされて砦を出ていったの」

 紬は辺りを見回した。男は小さい子供しか残っていなかった。今回のことがなくとも紬のように戦えるものは村から駆り出されていたのだ。今となっては老人やまだ若すぎる者ばかりしか男は残っていなかったからたいした戦力にはならないはずなのに。女子供は砦に残されており、男たちを戦わせるための人質のようなものなのかもしれない。紬はそんなふうに感じた。

「私行かなきゃ」

「……」

 紬の母は娘が強力な魔術使いであるから戦いに行くものだと思い目に涙を浮かべた。「紬……気を付けて」

「まだ戦いは先よ。グラボーさまに報告を済ませたらすぐ戻るから」

 母はそれでも心配そうに頷いた。

 紬は村のみなのもとを離れ、砦の中心部分にある指揮所に向かった。

 歩きながら紬は考えた。

 アドリス城の戦いでそんなに打撃を受けたのだろうか。一戦して叩かれただけで抵抗軍は本拠地まで逃げ戻ってきたし、砦に拠って籠城するにもこのように村人たちを多数呼び込んでは多くの食料が必要になって不利だ。グラボーは元軍人のはずだったが戦いには不慣れなのかもしれない。そう紬は思った。

 指揮所に入り抵抗軍の首脳陣の前に立ったときに疑問だったことは少し理由が分かった。グラボーは負傷していたのである。五十歳代の元軍人で司祭をしていたグラボーだったが領主ロイド伯爵の圧政に対抗するように立ち上がった。不満をかかえていた周辺の人々を巻き込んで旗揚げするや、山賊たちの戦力も吸収し、ロイド伯爵を苦しめる戦いをしていたが、今のグラボーは頭部に包帯をぐるぐると巻き付けており、片目には眼帯をつけ顔色はすこぶる悪かった。辛そうな顔で指揮所の中心にある椅子に座っており、紬が指揮所に入ったときにもちらりと視線を向けただけだった。

 この怪我を負ったせいで本拠地まで軍を戻したのだろう。もしかしたら正常な判断ができる状態ではないのかも知れない。

「空兵隊長であった紬。お前は王子軍に囚われたと報告があったが?」

 グラボーの側近の男が言った。背の高い魔法剣士だった。

「はい。空中戦に敗れ敵に囚われていました。敵のエミール王子がグラボーさまへの軍書を書いて、私に届けるように言ったのです」

 グラボーはそれを聞いて紬を見た。

「軍書だと?見せてみろ」

 グラボーはしわがれた声を出して言った。

 紬は腕上げて腕輪を皆に見せた。軽く魔法をかけると腕輪の飾り石から蝋で封がされた手紙が現れた。紬はゆっくりとグラボーに近づいてそれを手渡した。それから後ずさりして元の位置に戻る。

 グラボーは腕にも怪我をしているのか、痛そうに顔を歪めながら軍書の封を取り除き、中から紙を取り出して読みはじめた。

「我に投降せよと言っている」

 書簡に目を通しながらグラボーは不満そうに言った。

「グラボーさま、加えての報告があります。鉤爪小砦のことです」

 紬は言った。グラボーと側近たちの反応から見て、その件についてはまだ情報が到達していないことに紬は気付いた。「私がアドリス城の営倉から解放され、ここへ来る途中、鈎爪小砦で休ませてもらったのですが、敵軍は小砦を包囲、砦門は破られ陥落寸前となってしまいました」

「なにっ!そ、それはいつのことだ」

 グラボーは眉をひそめただけだったが側近の男が言った。

「今日の早朝です。敵軍にはたくさんの死霊使いがいるのです。死霊が五十体以上砦に襲いかかってくるのを見ました」

「死霊使いが……!」

 グラボーの側近たちは色めきだった。

「私は門を破られたところで砦を後にしたので、その後どうなったのかは見てはいないのですが、あの状況ではすぐに陥落してしまうと思いました」

「しょせんは小さな砦の話しだ」

 グラボーが吐き捨てるように言った。「我には必勝の作戦がある」

 今度は紬が驚かされる番だった。負傷したグラボーの様子は痛々しかったが、発した言葉には力が込められていて、彼の側近たちは先程まで敵軍に死霊使いがいることに憂慮していた様子だったのに、グラボーの言葉を聞いて自信を取り戻したように見えたからだ。

「そうだ、苦労して村人どもを集めてきたんだしな」

「さすがはグラボーさま。先見の明がおありだ」

 側近たちが口にした言葉を聞いて紬は不安になってきた。

「どういうことですか?どんな作戦があるんですか?」

 紬はグラボーや側近たちを詰問するような口調で聞いてしまった。

 グラボーは側近の一人に目配せした。その側近は言った。

「この者を捕らえよ。敵に通じているかもしれん。我らの作戦について情報が漏れてもまずい」

 すぐさま衛兵たちが紬を取り囲んだ。

 紬がその気になれば、この衛兵たちを、鍛え抜かれた魔法の技で倒すことができたかもしれないが、直前まで仲間だと思っていた者たちにそのようなことはできなかった。もしできたとしても、衛兵は無数にいる。結局は捕らわれてしまうことだろう。

 縄で腕を縛られ、魔法を封じる術を身に受けながら紬は「またか……」と唇を噛んだ。

「ここは五竜山。いまだ二匹の竜が眠りについているのだ」

 グラボーの側近の中でリーダーであろう男が言った。「我らはすでに竜への生贄とする者どもを送り込んだ。生贄によって我らの願いは竜に聞き届けられるだろう」

 紬は唖然とした。まさか村の男たちを戦いに赴かせると思わせておき、実際は竜への生贄とするのだろうか。

「私たちの村の者のことではないですよね!?」

 紬は鋭く訪ねた。

「だったらどうなのだ」

 側近リーダーの男は冷たく答えた。

「本当!?本当ですかグラボーさま!?」

 縛られて床に這いつくばらされた紬をグラボーは椅子の上から冷ややかに見下ろしていた。

「やめて!やめてやめて!何のための戦いなのですか!?民を救うための戦いではなかったのですか!」

 紬は叫んだが衛兵たちは紬を黙らせるために、紬の頭や胴体に蹴りつけた。紬は胸部に痛撃を受けて息もできないくらいに苦しんだ。

「営倉にぶちこんでおけ」

 側近の声が聞こえた。

 そしてグラボーが何か言っているのも。

「死霊の軍団だと……まあいい。この砦を餌に差し出してくれる。死霊どもを引き付けておいて背後に竜を放って叩きのめすのだ」

 紬は縛られ叩きのめされ、引きずられるようにして指揮所から運ばれてしまった。

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