雪山に住む男の事情
私はそこそこ売れてる小説家。
雪山の中腹に建てた別荘に10年以上住んでいる。
好きでこんな山奥の雪山に住んでいる訳では無い、やむを得ない事情があるのだ。
今家族は全員出かけているから教えてあげよう。
別荘を建てた初めての冬、私は何か面白い物は無いか? と雪山を彷徨いていた。
雪山の天候が変わりやすいなんてこれポッチも考えずにね。
朝は晴天だったのに気がついたら空は雲に覆われ終いには猛吹雪になってしまう。
吹雪の中、帰り道が分からくなりその場でビバークする事にする。
偶々リュックに入っていた簡易テントに潜り込み寒さに震えていたら、テントの外から人の声が聞こえて来た。
「寒い!」
「寒いって、あんたが獲物を1匹でも仕留めるんだと駄々を捏ねたから、帰りが遅くなったんじゃない」
「ゴメンって、あれあそこテントがある。
誰かビバークしてるのかな? 私たちも入れてもらいましょうよ」
その言葉が終わらないうちにテントのジッパーが外から開けられる。
テントの外にいたのは等身大の猫。
二本足で立つ猫の写真を見た事があるが、手足を人の物に変え服を着せたらこうなるって感じの猫が立っていた。
「あら人だわ、ま、良いか、お邪魔します」
そう言いながら等身大の猫がテントの中に入って来る。
その後ろからもう2匹の猫がテントに潜り込んで来た。
最初に入って来た猫が私に抱きついて来る。
狭いテントの中は私と彼女たちでギッシリと埋まった。
狭いテントの中で彼女たちと密着していたら、彼女たちの色香に迷い年甲斐も無くいたしてしまう。
翌朝目覚めるとテントの中に彼女たちの姿は無く、夢だったのだと思った。
否、夢だったら良かったのだ。
それから1年くらい経ったある日、別荘の扉がノックされる。
編集者が来たのかと扉を開けたら3匹の等身大の猫が立っていた。
彼女たちはそれぞれ子猫みたいな3人から5人の小さな赤ん坊が入った籠を携えている。
そしてそれぞれ籠の中の赤ん坊たちに、「皆んなこの人がお父さんだよ」って言いやがったのだ。
それから彼女たちじゃ無くて、家内たちや沢山の子供たちと共に此処に住んでいる。
家内たちは異世界人で、雪山の何処かに異世界と此方の世界を繋ぐ通路があるらしい、家内たちや子供たちは行き来出来るがこちらの世界の住人は私を含め行き来出来無い。
家族と別れ別れに暮らす訳にいかないから、仕方なくこんな辺鄙な雪山で暮らしているのだよ。
これがやむを得ない事情なのさ。