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神様、ちょっとチートがすぎませんか? ~大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!!~  作者: ななくさ ゆう
【番外編】 心弱き子ども達の決意

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【番外編17】心弱き子ども達の決意

パドくんをとりまく6人それぞれの決意の話。カクヨム版では3話にわけていたものを1話にまとめて。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(その1:桜稔の場合)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 結局僕は、勇太お兄ちゃんがうらやましかったんだと思う。

 小学校に入る前に病気のお兄ちゃんのことを教えられて。

 それまで僕だけのものだと思っていたお父さんやお母さんを、お兄ちゃんに取られたような気分になって。


 だから、勉強や運動を頑張った。

 お父さんやお母さんを安心させるためにやっていると思っていたし、それも嘘じゃない。

 だけど、本当は2人を僕に振り向かせたかったのだ。

 お兄ちゃんよりも僕を見てと、そんな恥ずかしい我儘な気持ちだったと、今なら分かる。


 お兄ちゃんが亡くなって、お父さんとお母さんと僕の3人家族になったとき、僕はようやく自分のそんな浅ましい感情に気がついた。

 自分がなんて子どもっぽい意地を張っていたのかと泣きたくなった。


 だから、僕は決意した。


「お父さん、お母さん、お願いがあります」


 お兄ちゃんが死んで、半月後。

 僕はお父さんとお母さんの前に座って言った。


 改まった様子の僕に、2人が少し驚く。


「XX高校附属中学を受験したいんです。お兄ちゃんの治療でお金が大変なのは分かっています。受験勉強は自分でやります。だから、入学金と授業料をお願いします」


 僕の言葉に両親は顔を見合わせる。僕はさらに続けた。


「僕は、将来医者になります。20年後、勇太お兄ちゃんと同じような子を助けられるようになるために。そのための第一歩として、受験しようと思います」


 僕の言葉に、2人は涙を流して頷いてくれた。

 僕は勇太お兄ちゃんに何もしてあげられなかった。

 その代わりに僕はくだらない意地を張って両親を困らせた。


 そんな僕を、両親は優しく抱きしめてくれた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(その2:リラの場合)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私はずっと世の中を恨んでいた。


 私自身を禁忌と呼ぶこの世界が憎かった。

 禁忌の子として私を蔑んだ人族の祖父母が嫌いだった。

 私の半身である人族を忌避する獣人達が恐かった。

 子どもの苦労も考えずに私を生んだ両親のことも、やっぱり少し恨んでいた。


 そしてなにより、そんな風にしか考えられない自分が嫌で嫌で仕方がなかった。


 だからあの時。

 ラクルス村近くでブルフ小父さん達に追いつかれたとき。

 私は本当に、心の底から死んでもいいと思ったのだ。


 だけど。


 パドが私を助けてくれた。

 獣人達からだけじゃない。


 世の中全てが恨めしかった私に、好きだと言えるモノをくれた。

 私の心を闇の中から引っ張り出してくれた。


 そして、お師匠様が生きる力を授けてくれた。

 命を賭けて、私の考えを矯正してくれた。


 私の命は、パドとお師匠様にもらったものだ。


 だから無駄にはできない。


 私は生きる。

 生きて、生きて、幸せになってみせる。


 世界が私を禁忌と呼ぶならば、世界を変えよう。

 人族が私を忌避するなら、人族が認めざるをえないほどの人物になって見せよう。

 獣人達が私を許さないというなら、それに負けない力を身につけよう。


 パドとお師匠様が、私にその力と機会をくれた。


 私は『闇の獣』に襲われるエルフの前に立つ。


「早く避難して」


 そう告げて、私は浄化の炎をで『闇の獣』を撃退する。


 人族と、獣人と、エルフと、龍族と、あるいはドワーフも。


 それぞれが互いに色々な感情を持っているだろうけど、私はそのどれもをつなぐ。

 それは人族と獣人のハーフである私がやるべきことだ。


 私の一生をかけてそれをなす。


 私と同じように生まれた子が禁忌の子と呼ばれないように。

 いつの日か、全ての種族が一緒に暮らし、家族を作る世界が来るように。


 私は、パドとお師匠様にもらった命をそういう風に使いたいと思う。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(その3:アルの場合)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 幼い私にとって、大人の男とは醜いものだった。

 幼い私にとって、大人の女とは汚いものだった。

 幼い私にとって、私という存在はゴミくずだった。


 男と女の1番醜いところが露呈する街で、幼い私は全ての人間を嫌悪していた。

 だからこそ、盗賊という本来ならば卑下すべき存在が、むしろ自分に合っているとすら思えた。


 剣を振るい、酒と肉を喰らい、金持ち相手に颯爽と戦う盗賊女帝(ロバー・エンブレス)と呼ばれる生活は、つまり私にとってとても気持ちの良いものだった。

 ゴミくず同然の自分を蔑む気持ちから、刹那的でも逃避できたから。


 自分が実は国王の隠し子だなどと言われても、全くピンとこない。

 諸侯連立と王家の確執を聞いても、ならば気にくわないヤツラを斬り殺せば

いのにとしか思えなかった。

 私の父だという国王は、絶大な権力を持ちながら何故そうしないのか、サッパリ理解できなかった。


 そんな私に知識をさずけてくれたのがレイクという男だ。

 最初はつまらない貧相な小男だと思ったが、私がどんなに脅しても私に知恵を与え続けた。

 彼のおかげで、気に入らないモノを斬ればいいという私の生き方が、どれだけちっぽけな思想に基づくものだったか、何となくだが分かるようになった。


 リリィは私を慕ってくれた。

 我儘で五月蠅くて甘ちゃんのどうしょうもない娘だが、それでも私のことを好きだとハッキリ言ってくれた。

 そういえば、私は男にも女にも親にも、あんなにハッキリ好意を向けられたことはなかった。


 パドという少年を初めて見たとき、まるで昔の自分を見ているかのようだった。

 何もかもを恐れ、嘆き、それでいて無茶苦茶に戦う。

 性格も考え方も私とはまるで違うのに、その芯の部分は同じだと思った。

 彼はつまり、自分に自信が無いのを必死に隠していたのだ。


 昔の私と同じように。


 それでも、彼は昔の私よりは頭が良かった。

 アラブシ・カ・ミランテの言葉と命を受け取り、少しでも前に進もうと努力を重ねているのが分かる。


 そのパドが言った。


「『闇』はリリィでした。ごめんなさい。『彼女』を助ける方法は分からなくて、僕は……」


 不思議と疑う気にはなれなかった。

 パドがそう言うなら、そうなのだろうなと思っただけだ。


 どんな形であれ、自分を慕ってくれたリリィをパドは殺した。

 彼女を悼む気持ちはあったが、パドを恨む気持ちは沸かなかった。

 彼がリリィを悼んでいると伝わってきたからだろうか。


 むしろ、この子どもを護らなければと思い、アラブシ・カ・ミランテができなかった分も彼を導かなければならないと決意した。


 だから、私は言った。

 彼にやるべき事を教えるために。


「今はリラを助けるときだ」


 彼は力強く頷いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(その4:ダルトの場合)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ダルト・レストア。レストア家三男として産まれた彼は、つまりは家にとってあまり必要ではない子どもだった。


 長男は家を継ぐ。次男は長男に何事かあったときのための代わり。


 では三男は?


 もちろん、兄2人双方に何かあれば自分の出番ということにもなろうが、もともとダルトには家を継ぐ意志などなかった。

 レストア家は王家派の重鎮スラシオ家の与力であるブルテ家の、そのまた与力である。


 現在の日本で言えば、下請け会社のそのまた下請けのようなものだ。

 そもそも、王家が元請けと考えれば、もっと下ということになる。


 要するに、貴族としては下級であり、兄と争ってまで跡継ぎになりたいと思えるほどの家ではない。

 ダルトはそう考えていた。


 ゆえに、幼き日の彼は特に目標もなく暮らしていた。

 毎日脳天気に生きてゆくことが許されていたのは、魔力の素質を多少なりとも持っていたからだろう。





 彼にとって転機となったのは、9歳だった7年前。聖歴515年のことである。


 父よりブルテ家のご令嬢の世話役を命じられた。

 回復魔法が使えることが高く評価されたらしい。

 万が一の時、お嬢様を護れということなのだろうか。


 令嬢の名前はリリアン・ブルテ。通称リリィ。


 挨拶をしたその瞬間殴られた。それも花瓶で。

 どうやら新しい家庭教師だと思われたらしく、勉強嫌いな彼女はいつもそうしているらしい。

 無茶苦茶である。

 そのまま家に帰りたくなったが、父の手前それもできない。


 とりあえず、自分自身に回復魔法をかける。

 直接の雇い主となるレイク・ブルテは、その様子を見てダルトの採用を決めた。


(回復魔法を使えることが評価されたのは、自分にかけるためのものか)


 そう納得したのは間違ってはいなかった様子で、その日からブルテは殴られ、蹴られ、2階から突き落とされ、剣で追いかけ回された。他ならぬ世話をする相手、当時6歳のリリィに。


(命がいくつあっても足りない)


 ダルトはそう思いつつも、彼女の世話をした。

 そうしているうちにだんだんと分かってくる。


 彼女は本当は寂しいのだと。

 彼女の両親は彼女が3歳の時に共に病没している。

 伯父であるレイクは色々忙しいらしく彼女の相手をほとんどできていない。

 メイドに世話をさせようにも、あまりにも乱暴な彼女に女性は近づきたがらない。


 彼女の孤立は彼女自身の責任だが、それでも6歳の子どもがいつも1人でいるのは不憫にも感じた。


 10歳の彼は彼なりに必死にリリィに接した。

 彼女は少なくとも誰かを殺すような致命的なことはしない。

 メイドさんに対しても、そこまで酷い対応はしていない。


 ダルトに対する行為は、どうせ回復魔法が使えるんだから大丈夫でしょという考えに基づいているっぽい。

 そこまで分かっても、対応策は思いつかなかったが。




 それから1年後、リリィが興奮した声でダルトに言う。


「ねえねえ、盗賊女帝(ロバー・エンブレス)って知っている?」

「まあ、名前くらいは」


 当時ちまたで話題の女盗賊だった。恵まれた者からしか盗まないがゆえに、義賊などと呼ばれているが、襲われた貴族家では殺された人間もいる。とても手放しで褒め称えられるような相手ではない。


 だが、リリィはどこからか聞きつけた盗賊女帝(ロバー・エンブレス)に首っ丈(くびつたけ)になった。


「私も盗賊になりたいわ。どうしたら盗賊ってなれるの?」


 まくし立てるリリィに、ダルトは苦笑いし、また半殺しにされるのだった。



 本来なら、リリィの盗賊女帝(ロバー・エンブレス)への憧れは、憧れというだけで終わるはずだった。

 まさか、レイクがアル王女を国王として即位させようとするとは。

 しかも、そのアル王女がリリィの憧れた盗賊女帝(ロバー・エンブレス)だというのだ。


 正直、ダルトはレイクの正気を疑いかけた。

 だが、他の様々な証拠をみても、彼女がまだスラシオ侯爵がご存命だったころに王城から密かに出奔したとされるメイドの子で間違いなさそうだった。


『まさか、憧れの盗賊女帝(ロバー・エンブレス)に会えるなんて』とはしゃぐリリィに、ダルトは複雑な思いをいだくのだった。


 レイクと共に2人の前に現れたアル王女は、思ったより理知的な人物だった。

 確かに盗賊女帝(ロバー・エンブレス)の名の通り、力こそ正義と考えている節はあるが、少なくとも無為に暴力を振るったりはしない。

 リリィはあっという間に彼女に懐き、彼女の旅に付き合うようになった。


 ダルトは思う。

 リリィは危うい。だが、護りたい相手だと。


 父に命じられたからではない。芯の部分の弱さを知ってしまったからだ。

 だが、リリィのその弱さを彼が受け入れてしまったが為に、彼女は大きな間違いを犯すことになるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(その5:リリィの場合)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 リリィは自分に貴族の娘が求められる能力が無いことをよく自覚していた。


 貴族の女に求められるのは、つまるところ、良き淑女となり、家のために嫁ぎ、良き妻となることだ。

 だが、彼女には女としての才能が皆無だった。


 炊事や針仕事など大っ嫌いだし、舞踏会で踊るのも苦手だ。

 芸術方面には全く才能が無く、何よりも貴族のパーティ会場でお愛想笑いを浮かべている女達には嫌悪感しか覚えない。


 その意味で、彼女はキラーリア・ミ・スタンレードと近かった。が、キラーリアのような男をも黙らせる剣術の天才というわけでもない。

 だからだろう。両親亡き後貢献となったレイクも、自分には何も期待していない様子だった。


 アルの隣に立つ、キラーリアを見て、カッコイイと思った。

 私もアルお姉様の横に立ちたいと願った。


 実際、料理や踊りに比べれば、剣術の方が自信があった。

 だが、すぐに自分には剣術の才能も無いということも知ってしまった。

 実際にはそこまで下手なわけでもないのだが、異能の天才のキラーリアや、ルシフとの契約で10倍の力を持つアルにはとても敵わない。

 それでも、それは2人が大変な苦労を詰んできたからだと、まだ納得できた。


 だけど。


 パド少年。

 彼の力を見たとき、世の中努力ではどうにもならない壁があるのだと知った。


 巨大芋虫のモンスターに、自分はなすすべもなかった。

 それなのに、大した努力をしてきたようにも見えない7歳の彼はあっさりそれを叩き潰した。


 アルお姉様は、私には何も期待していないのに、パドには期待している。


 そう考えると、たまらなかった。

 砂漠をダルトやキラーリアと共にとぼとぼと歩きながら、彼女の心の中には暗い影が渦巻いていた。


 それは結局の所、つまらない嫉妬でしかなかったのだろう。

 パド少年はパド少年で苦労しているとか、そんなことは全く考えず、自分がダルトやアルやレイクにどれだけ大切にされているかにも頭が回っていない。


 彼女はせめてもう少しパド少年かリラ少女と話をするべきだった。

 あるいは、ダルトかキラーリアかレイクに相談すべきだったのだろう。


 だが、思い詰めた彼女の心の暴走は選んではならない決意を彼女にさせてしまった。

 彼女を想う存在ではない、もっと別の声に耳を傾けてしまった。


 それは、パド少年やアルが最も警戒している相手。

 諸侯連立なんかよりも、ずっと悪意にまみれた相手。


 黒き世界の住人、ルシフの声だ。


『力が欲しいのかい?』


 囁くその声に、彼女は頷いてしまった。


『パドくんは狡いよね。神様にもらった力だけで、キミの居場所を奪おうとしている』


 パドの前世の弟を模した姿でそう囁くルシフ。


『ボクならキミに力を与えてあげられる。契約さえすればね』


 そして、彼はこう言った。


『君を思ってくれる誰かの命を、ボクに捧げなよ』


 それは悪魔の囁きで。

 リリィは頷いてしまった。


 彼女の決意は、彼女自身を『闇』へと変え、彼女自身を滅ぼすことになる。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(その6:バラヌの場合)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 人族とのハーフの魔無子(まなこ)。

 それがバラヌが背負った宿命だった。


 エルフは自然――とくに植物を操る魔法に優れた存在だ。

 人族のように契約することなく、ある程度生まれながらに植物を操れるのが当然だ。意図して操ろうとしなくても、その魔力は自然とエインゼルの森林を維持する力となる。


 逆の言い方をするならば、エインゼルの森林はエルフの魔力によって支えられており、エルフ達の食料はそこで育つ果実や木の実であり、住む場所は森林の木々を変形させて作るし、服は草木を編んだ物だ。


 エルフが魔力絶対主義なのは、つまり彼らの生活を支える根底が魔力の存在だからだ。

 人族や獣人のように自らの手足を動かして何かを生産するのではなく、エルフは自らの魔力を使って衣食住に必要なモノを生産している。


 しかるに、そこに魔力が0の存在が住もうとしたらどうなるか。

 答えは簡単。

『役立たず』『不出来な子』という評価になる。

 しかも、その子供の血の半分は、エルフではなく人族のものなのだ。


 バラヌが同年代の子ども達から虐められ、大人たちから蔑まれるのは当然であった。


 だが、バラヌにどうしろというのか。

 魔力の有無は潜在的なものだ。努力でどうにかなるわけではない。

 魔力が少しでもあれば鍛えることもできるが、魔力0で産まれた者が魔力を後天的に身につけることはほぼ不可能である。


 厳密には(バラヌは知らぬ事だが)、神やルシフとの契約により後天的に魔力を身につけることは可能である。が、その結果リリィやパドやアルがいかなる目にあってきたかは、読者諸氏もご存知の通りだ。


 あるいは彼がもう少し大きくなれば、エインゼルの森林を出て、人族の街に移住する道もあったかもしれない。

 だが5歳児が1人で越られるほど砂漠は甘くないし、そもそも住んでいる地を1人去るなどという発想がない。


 バラヌは生まれの理不尽を嘆くことすらできず、魔力の無い子供、魔無子(まなこ)としての徹底的に差別される運命を受け入れるしかなかった。


 そんなときにバラヌの前にパド達が現れた。

 バラヌの異母兄弟だというパドは、人族でありながらありえない魔力を秘めていた。

 その事実にバラヌは驚愕したし、嫉妬もした。


 だが、その複雑な感情を整理する間もなく、今度は『闇』がエルフ達を襲った。

 バラヌの母、ミラーヌは彼を庇い、重傷を負った。


 そこに駆けつけたパドとリラが、彼を救ってくれた。

 しかも、『闇』とパド達が顔見知りであるかのような会話が交わされたのだ。


 何が何だか分からないまま、バラヌはパドに言った。


「敵(かたき)、とってくれるんじゃなかったのかよ!?

 だったら、どうしてお母さんの敵(かたき)に、呼びかけたりするんだよ!? おかしいじゃんか。

 あんたがやらないんだったら、僕がやるっ!!」


 自分にそんな力が無いことは重々承知の上で、バラヌはそれでも叫んだ。


 母のことは、別に好きだったわけじゃない。

 他の大人たちと同じように、自分を蔑んでいると思っていた。

 それでも、最後の瞬間、彼を救ってくれたのは母ミラーヌだったのだ。


 兄のパドは言った。


「バラヌは1人でもたくさんのエルフを助けられるように、リラを案内して」


 バラヌは戸惑った。

 まだ幼く、魔無子として蔑まれるばかりだった彼は、他人に何かを頼られるなど初めての経験だったのだ。


「僕は、魔無子で、役立たずのいらない子で……」

「魔力なんて関係ないよ。僕の友達には魔法なんて使えないけど、一生懸命村の復興を頑張っているヤツもいるんだから。

 今、リラを案内できるのはバラヌだけだ。だから、十分役に立つ」



 パドのいう友達というのが誰なのかは分からない。

 それでも、魔力が無くてもできることがあるという発想を、バラヌに初めて与えてくれたのはパドだった。


 もし。

 もしも、魔無子(まなこ)の自分でも里の皆の助けになれるなら。


 バラヌは「わかった」と兄に頷いたのだった。

 それはこれまで自らを蔑むしか出来なかった少年が、一歩を踏み出したその瞬間だった。

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