53.それぞれの戦い(6)リラ
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(一人称・リラ視点)
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お師匠様の命が消えようとしていた。
私は涙を流し、パドはうつむく。
アル王女や教皇達も集まってきていたようだが、正直知ったことではない。
「お師匠様!!」
叫ぶパド。
そんな私達に、お師匠様が語りかける。
「……なんて顔をしているんだい、この馬鹿弟子どもが」
最後までこれだ。
「どうしてよ。どうしてこんな……皆私のために。お父さんも、お母さんも、みんな、みんな……」
「僕が、僕がもっと早く来ていれば……ううん。そもそもお師匠様のところに転がり込まなかったら……転生なんて望まなかったら……」
私達の言葉に、お師匠様は右手を挙げる。
そして、私たちの頭をゴツン。
いつもとは違って、ずっと力のない拳骨。
「まだそんなことを言っているのか、この馬鹿弟子ども!!」
叫ぶお師匠様。最後の力。
「お前達の命はね、ご両親が、友達が、そしてこのアラブシ・カ・ミランテが命を賭けて護ったものなんだっ!! お前達だけのもんじゃないんだ!!」
血を吐くように叫ぶお師匠様。
「だけど、だけど……」
「僕は……」
パドと私の涙が、お師匠様の頬の上で混じる。
「お前達に最後の教えだ。
自分を呪うな。それは麻薬だ。誰が否定したとしても、自分で自分を否定してはいけない。
神託がなんだ。禁忌がなんだ。神がなんだ。闇がなんだ。
パドの力は人を救えるし、リラは獣人と人族とを結びつける鍵になる。
自分を肯定しろ。他の誰が否定しても、お前達だけはお前達を嫌いになってはいけない。
わかったか!?」
それはとてもとても厳しい言葉だった。
4ヶ月前のあの日から、私もパドも、どこか自分を否定して生きてきた。
自分たちさえいなければ、誰も不幸にならなかったんじゃないかと。
だからこそ。
お師匠様の最後の教えは。
これまでのどの教えよりも、ずっと厳しく、そして優しい言葉だった。
『はい』
私とパドは泣きながら頷く。
そうだ。
お師匠様はこの4ヶ月、ずっと私達に生きる力を授けてくれた。
この4ヶ月の教えは難しい学問や、魔法なんかじゃかった。
お師匠様が本当に王城の魔法使いだったというなら、そういう教え方だってできただろうに、ほとんどはもっと基礎的な、生きるのに必要な技術だけ。
お師匠様は分かっていたのだ。
私とパドに本当に必要なのは何か。
足りない物は何か。
自分を肯定すること。
生き続けようとする意思。
自分を卑下しないこと。
お師匠様の教えは、つまり生きること。
お師匠様は次に、レイクとラミサルに語りかけた。
「レイク、ラミサル、あの時は悪かったね。私は自分のことで精一杯で、お前達のことまで頭が回らなかった。
まだガキだったお前達を王城に残して、とっとと逃げ出しちまった。
大人の私でも嫌気がさすような場所に、お前達を残した」
10年以上昔、私やパドが生まれるより前の話。
「今度もまた、この馬鹿弟子達を置いて逝っちまう。私は駄目な師匠だね。
だから頼むよ。2人それぞれ立場はあるだろうけどさ。この馬鹿な弟弟子、妹弟子を助けてやってくれよ」
お師匠様は言う。
「アラブシ先生」
「師匠」
レイクとラミサルもお師匠様の元に駆け寄る。
「わかりました」
「師匠の最後の言葉、しかと受け取らせていただきます」
その言葉を聞き、お師匠様は満足げに笑う。
「ああ、そうかい。 色々あったけど、最後にこうして弟子4人に囲まれて逝けるなら、私の人生も捨てたもんじゃなかったのか……も……」
お師匠様の言葉は最後まで聞き取れなかった。
私たち4人のお師匠様は、今、息を引き取った。
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「うん? 皆、気をつけろ!!」
私達がお師匠様の死にむせび泣く中、叫んだのはキラーリア。
「どうやら、まだ終わっていないようだな」
そう言って、大剣を抜き放つアル王女。
私もハッとなって周囲を見回す。
いつの間にか、私達は『闇の獣』に囲まれていた。
いや、それだけではない。
左右両方から1体ずつ、人型の『闇』が計2体出現。
さらに上空には『闇の鳥』とでも表現すべきものが大量に旋回している。
まだ、来るのか。
お師匠様を奪っただけでは足りないというのか。
「リラ、お母さんとお師匠様を頼む」
パドが厳しい顔をして立ち上がる。
いくら彼の力が凄くても、漆黒の刃の魔法とやらを持っていても、この数を相手にできるとは思えない。
それでも、彼は立ち上がった。
ならば、私も立ち上がらなくてはいけない。
「大丈夫、任せて」
あたしは言う。
「我々もできる限りのことはしましょう」
レイクとラミサルもうなずき合う。
「結界魔法は私が張ります。もはやレイク殿やラミサルは限界でしょう」
教皇が言って、パドのお母さんを連れて駆け寄ってくる。
「キラーリア、先ほどと同じようにやるぞ」
「はい。ですが……」
「空まで囲まれては、さすがに逃げるのは難しいだろう」
「ですね」
二人の言葉にはまだ戦う意思があった。
だが、同時に悲壮さもうかがえる。
「待って、コイツらに剣は……」
言うパドに、アル王女は『闇の獣』の1体をなぎ払った。
「何か言ったか、小僧?」
「いえ。じゃあ、獣タイプはお願いします。僕は、人型をやります」
パドはそう言って、左手から漆黒の刃を出した。
3人はよく戦ったと思う。
アル王女やキラーリアは『闇の獣』を何体も倒したし、パドは2体の『闇』相手の奇跡的なまでの立ち回りをして見せた。
何体か討ち漏らした『闇の獣』や『闇』の指が私達を襲うが、教皇の結界魔法に阻まれる。
だが。
「くそっ」
パドの顔に疲労が増える。
ここにくるまでにも漆黒の刃を使っているのだろう。
もう限界のはずだ。
「キリがないなっ」
「ええ」
アル王女とキラーリアの顔にも焦りが見える。
「まずいですね、これは」
教皇の顔にも汗が浮かぶ。
老齢の彼にとってここまでの魔法の連続使用は体に堪えるのだろう。
このままじゃ、ジリ貧だ。
どうする。
どうしたらいいの?
私には何の力もない。
パド達のように戦うことも、教皇達のように魔法を使うこともできない。
このままじゃ、何もできない。
その時、ふと、地面に寝かされているお師匠様の顔が目に入る。
お師匠様。私はどうしたらいいの?
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業を煮やしたのか、『闇』達に新たな動きがあった。
これまでは空を旋回しているだけだった『闇の鳥』達が私達に襲いかかったのだ。
これによって、なんとか維持していたアル王女やパドの戦いが一気に不利になる。
『闇の鳥』自体の攻撃力はそこまで高くないようだが、無視できるほど弱くもない。
そして、教皇の結界魔法への攻撃も激しくなる。
「くっ。皆さん、すみません。このままでは……」
教皇の顔に焦りが浮かぶ。
だめだ。
このままじゃ、皆死んじゃう。
嫌だ。
せっかくお師匠様が護ってくれたのに。
私の命は、私だけのものじゃないのに。
結界魔法にひびが入る。
「ラミサル、あなたの魔力はまだ回復しないのか?」
「まだです。レイク、君の方は?」
「まだだ。だが、それでも……」
レイクとラミサルが言い合う。
ついに、結界が破れ、『闇の鳥』と『闇の獣』が私達に襲いかかる。
「リラ!!」
パドの叫び声。
私は。
私は。
私は。
生きる!!
私の中で、熱い何かが生まれる。
声でも息でもない何かが、お腹から口へと上がっていく。
そして。
私の口から閃光がほとばしった。




