8.爆破(ばくは)事件
・前回のあらすじです。
『和泉が、宿舎の廊下で葵にたのみごとをされる』
和泉に葵のたのみを「ことわる」という選択肢はなかった。
学院長の史貴 葵とは、おたがいが学生時代のころに、ちょっとしたきっかけで知りあった。それが少々やっかいな事件に深入りする契機となったのだが、和泉は悪い思い出とはとらえていない。
だが、茜の『お姉さん』に対して、苦手意識を助長する結果とはなっていた。先述の『事件』でめいわくをかけたこと、それに『史貴 葵』という人物に対して恩義があるにもかかわらず、一時期に【学院】内で飛びかった誹謗中傷について、なにもかばいだてしなかったということ。
それらが錘のようになって、和泉の内にわだかまりつづけている。
葵とシロが、不審そうに和泉に言った。
「そう身がまえないでちょうだい」
「和泉さあ……なんでうちのご主人と話すとき、いつも戦闘態勢なの?」
シロの言うとおり、和泉は半身をまえにして腰をひいていた。【学院】では『フィジカル・トレーニング』に格闘技を組みこんでいるが、和泉の体勢はまさに、組手のときにおける構えだった。
警戒モードであったことに気がついて、和泉はとたんに背筋をのばす。
葵にむかって、直立姿勢をとる。
「ちがうんです。べつに、学長をこてんぱんに伸してやろうとか、そういう意図はぜんぜんなくて」
「わかっています」
葵は、視線を和泉から床にやった。めんどうそうに。
彼女は話しをもどす。
「たのみというのは、わが校の魔術師についてなの」
「なにか問題でもおこったんですか?」
「おこしているのよ。現在進行形で。【トリス】の町で、最近破壊活動が頻発していてね」
「はあ……」
和泉は気のないへんじをした。破壊活動とは……。
(茜がまたなんかやらかしたのかな?)
「はいこれ。見てみ」
シロがわきにはさんでいた新聞をよこしてくる。受け取って、第一面の見出しを和泉は読んだ。
『家出ライオンぶじ保護。近所の小学生ゆうくん大活躍』
「すごいですね、小学生」
「それではありません、和泉先生」
葵がにがわらいをする。シロが半眼になる。
「三面だよ、和泉……」
「あ。じゃあ、ちょっとしつれいして」
葵に許可を取り――ゆるしを乞う必要はないのだが――和泉は新聞をひろげた。
あけたページに、こっそりとした見出しと、ちいさな写真(カメラのような【マジック・アイテム】で撮影したものだ)がついて、掲載されている記事を読む。
「トリスの町でまた爆破事件。今月にはいって延べ……一三六件!?」
和泉は葵を見た。「学長もたいへんですね」とつづけようとすると、葵は凍てついたほほえみをしていた。和泉にくぎを刺す。
「言っておきますけれど、私の妹のしわざではありませんからね」
「は……ははっ。わかってましたよ。もちろん」
シロが和泉をのぞきこむ。
「顔色わるいよ?」
「うるせいっ!」
ウサギの耳をゆらしてにやにやする少女に、和泉は一喝した。
葵が、事件の概要を説明する。