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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 一方(いっぽう)そのころ 編
59/59

  先生はつらいのよ




 ※注意です。

 ・この物語は、『先生もツライよ』のつづきです。

 ・ショート・ストーリーです(でも、三部構成です)。

 ・本編のほうの、キャラクターや、ストーリー、世界観のイメージを、こわす可能性があります。

 ・以上の点に、抵抗ていこうのあるかたは、【もどる】をおすすめします。


 ・・・・・・


 〇登場キャラクターです。


 ・史貴しき あおい:21才の魔女。魔術の名門校・【学院がくいん】の学院長。

 ・ジョン・ダルク:30代の、男魔術師。【学院】の助教授。

 ・クララ・モリス・ビー・カリオストロ:16才の魔女。【学院】の高等部、一年生。ジョンのクラスの生徒。愛称あいしょう・クラリス。







 ・・・・・・・・・・



「――はっ」


 洗浄せんじょうされた匂いがする。れないエタノールの香りに、あおいは目を覚ました。


 白い天井てんじょうに、ぬうっと人の顔が映りこむ。医師であり、【学院がくいん】の病棟で医務員をつとめる男性魔術師(まじゅつし)――ガレノスだ。


自衛団じえいだんの人が、つれてきてくれましたよ」


 ガレノスは、中年期特有(とくゆう)の、けだるげな顔つきをフイとそむけて、パイプ・ベッドから離れた。葵は身を起そうとして、背中や胸が、ひどく痛むのを感じる。派手(はで)にやられたらしい。


「全身を強く打ってるから、痛むよ。三日みっか安静あんせいにたのんますね」


「ダルク先生は……?」


「おとなり」


 愛想あいその欠落した声で言って、ガレノスは、ブルーのパーティションを引いて、出ていった。医師の背中と、葵との視界が遮断しゃだんされる。


 あおいは、小さく回復の呪文じゅもんをつぶやいた。詠唱えいしょうをともない、声の無い時より、いくらか効力こうりょくを上げた治癒魔術ちゆまじゅつが、全身の打撲だぼくいやす。かわいたのどを押さえようとして、首に包帯ほうたいの巻いてあるのに気がついた。しばらくは、チョーカーでもつけて、ケガを誤魔化ごまかそうかと思う。


 身体からだを起こすと、服は、診察時しんさつじに着る白い装束しょうぞくに変わっていた。くろ法衣ほうえは、ベッドのそばのキャビネットにたたんで置いてある。それを羽織はおって、いくらか格好をつける。


 骨折こっせつがなかったのがさいわいで――ジョンがかばってくれたからだろうが――点滴てんてき支柱しちゅうを支えに、ベッドからおりた。


 クラリスとの戦いから、数日がっている。法衣ほうえの近くに、ポイとあてつけがましく放られていた新聞しんぶんの日付が変わっていた。


 隣りとの仕切しきりを開ける。かくしてそこには、頭から足の先までを包帯でグルグル巻きにされた、大柄おおがらな、ミイラ男が横たわっていた。


「ダルク先生……」


 もうしわけていどにつくられた、呼吸こきゅう用の隙間すきまから、ジョンが豪快ごうかいに笑う。


「ハハハ、なさけないですな。自分の生徒せいとに、こんなザマでは」


「いえ……私が油断ゆだんしたのが、悪かったんです」


 ジョンは、包帯に隠れていても笑顔と分かるくらい、ニカッと、白いを光らせた。


「ハハ。しかし、ああも強いとなると……もう、賢者けんじゃさまのちからをりるよりありませんな。学長がくちょうですら、手も足も出なかったんだ。ほかの先生では、どうにもなりますまい」


あかねは……」


 【賢者けんじゃ】という、魔術師まじゅつしとして、最も高い能力のうりょくほこる者の名をかんする葵のいもうと――史貴しき 茜は、現在、野暮やぼ用で、大陸各地を旅してまわっている。茜の住居じゅうきょのある【学院がくいん】には、羽休はねやすめくらいにしか帰ってきていない。それを葵は、彼女が自分のことをけているからなのだと考えており、さらには――


(もし茜に、私が生徒なんかに負けたなんて知られたら……)


 小生意気こなまいきな妹の、にくたらしい笑顔が、脳裏のうりに再生される。あおいの勝手なイメージなのだが、茜は、こう言うにちがいないのだった。


 ――えーっ、おねーちゃん、センセーのくせに負けたの? いっつもあんなに、威張えばりくさってるのにさー、ダサーっ。ま、私だったらそんなヤツ、瞬殺しゅんさつしてあげられるんだけどねー。ホンッと、おねーちゃんって、弱いよねー。


 弱いよねー。(エコー)



「……ダルク先生」


「はい?」


 自分で想像したいもうと罵倒ばとうに、どんよりしながら、葵は、目のまえの被害者ひがいしゃに言った。カリオストロの被害者なのではなく、自分の無力むりょくが生んだ、被害者なのだ。


「カリオストロさんのけんは、私のほうで対処します。イタズラに、他の魔術師まじゅつしたちの不安をあおらないためにも、私たちがカリオストロさんにやられたことは、他言無用たごんむように、お願いします」


「しかし……」


「わかりましたね?」


 最後のこの、念押ねんおしをする時には、葵の瞳に、いつもの高慢こうまんな光がもどっていた。刃物はものみたいな青い眼光がんこうをまともに見て、ジョンは、かろうじてのぞく目元に、ひきつった笑みをきざむ。


「は……はい……」


 あおいは満足して、ジョンのパイプ・ベッドから離れると、カーテンを引いて出て、外で立ちきをしていたガレノスにも、同じことをお願いした。


「すぐバレるだろうけどね」という、無気力むきりょくなガレノスの承諾しょうだくを背に、葵は病室を出ていく。


 安静あんせいに、と言っていた割に、勝手に出ていくのを止めないあたり、放っておいても、平気なていどの具合ぐあいなのだろう。


 廊下へのドアをガラリと開けると、果物くだもののカゴを持った少女にぶつかりかけた。白いボブショートに、ウサギの耳をピンとやした、十七才ほどの女の子、シロだ。あおいが学生のころに契約した、使つかである。


「あ、ご主人。どうですぐあ――っぷ!」


 けがの状態じょうたいこうとしたシロの顔面を、葵は包帯ほうたいまみれの手で、アイアンクローした。


「私がどうしてここにいるか、あなたは知っているの?」


「は? あーっ……と。確か、カリオストロって生徒せいとをつかまえる応援に行って……で、返りちにあったんですよね。完膚かんぷなきまでに――いデデでで!!」


 ギリギリと、シロの頭蓋骨ずがいこつが、あおいの指の下で悲鳴ひめいをあげる。


 シロが詳細しょうさいを知っているのは、葵の使い魔ということで、ガレノス医師いしが、教えてくれたからだった。つまり、現在、彼女(かのじょ)以外には、当事者とうじしゃと医師以外で、真相しんそうを知る者はいない。


 痛みに元気を無くした使い魔の横をすり抜けて、葵は、病棟びょうとう廊下ろうかを歩きだした。


「だれにも言っちゃダメよ、シロ。あかねや、リョーコには特に。私をバカにするだけに決まってるんだから」


「ブロッケンさんはともかく、茜はどーでしょーかね? そこまでご主人のこと、ムチャクチャ言うかな?」


「あの子のことは、貴方より、私のほうが、よーく分かっています」


「そうっすかねー」


 ボヤきながら、シロは、主人の魔女まじょについていった。無駄になった見舞みまいのフルーツりあわせから、ブドウをひとつぶ取って、つまみいする。


「とにかく、カリオストロのこと、誰か代理だいりを立てないと。あんまり悠長ゆうちょうにしてられないのよね、茜が帰ってくるまえに、解決しておきたいのよ」


「えー……ムリだと思いますけど」


 ふたりは病棟から、あおい転移てんい魔術まじゅつで、学院長(がくいんちょう)用の屋敷にワープした。



 ――そしてシロの懸念けねんは、みごと、的中てきちゅうすることになる。



 ・・・・・・



 八月のすえ夏休なつやすみの最終日である。昨日きのうあかねも帰ってきてしまい、もう後のないあおいである。まだ、なんとか誤魔化ごまかせているものの……どこまで隠し通せるか。


「いやー、カリオストロ、相変わらずのさばってますねー」


 今日きょう朝刊ちょうかんを広げて読みながら、シロは、大きなひとりごとを言った。葵は不機嫌ふきげん靴音くつおとをたてて、教員用の集合住宅――その男子棟だんしとうの通路を歩いていく。女子棟じょしとう魔術師まじゅつしには、すでに頼んで、全滅した。


 シロの持っている新聞を片手かたてせて、そのままたたませながら、葵はボヤく。


協力きょうりょくしてくれる先生がいないんだもの。私って、そんなに人望じんぼうないのかしら?」


「うーん……どうなんでしょうね」をそらして、シロは茶をにごす。「そうですね!」と、元気ハツラツに真実をげる勇気は、彼女には無い。「ってか、もうおとなしく、茜に頼みましょうよ。さっき、ホールで会ったとこですし、いかければ、きっと間に合う――」


「やめてちょうだい」


 うんざりと、あおいは頭をかしがせて、長い金髪きんぱつを払った。意地いじになっているのは自覚しているが、どうしても、いもうとのちからにだけは、頼りたくないのだ。


「ヒマそうにしているひとだって、どこかにいるでしょう。適当につかまえて、そちらに押しつけちゃいましょう。そのほうがラクだわ。気持ち的に」


「なんか、げやりだなあ……」


 シロは苦笑にがわらいをした。果たして、あおいばちな態度に対する天罰てんばつか――


 近くの部屋のドアが、いきなり開いて、とおりがかった葵の身体を、がんっ!! と思いきり、突き飛ばした。



                               【おわり】







 読んでいただき、ありがとうございました。




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