先生もつらいよ
※注意です。
・この物語は、『3.先生はツライよ』のつづきです。
・ショート・ストーリーです(でも、三部構成です)。
・本編のほうの、キャラクターや、ストーリー、世界観のイメージをこわす可能性があります。
・以上の点に、抵抗のあるかたは、【もどる】をおすすめします。
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〇登場キャラクターです。
・史貴 葵:21才の魔女。魔術の名門校・【学院】の学院長。
・ジョン・ダルク:30代の、男魔術師。【学院】の助教授。
・クララ・モリス・B・カリオストロ:16才の魔女。【学院】の、高等部一年生。ジョンのクラスの生徒。愛称・クラリス。
(それにしても……)
トリスの町の、メイン・ストリート。そこで葵は、戦慄していた。自衛団の手を焼かせている、通り魔の魔術師――自称・正義のヒーローが放った爆破魔法跡を見て。
レンガ色の平石で舗装された通りには、クレーターができていた。その周囲では、巻きぞえを食った市民たちが、ひっくり返って痙攣している。
(詠唱が無かったわね、カリオストロ……そんなに出来る生徒だったかしら?)
クラリスの通う学校、魔術の名門・【学院】の長をつとめる葵だが、他の教授と同じように、いくつかの講義も受けもっている。
クラリスの名前は、彼女が中等部のころに選択していた授業で、目にしたことがあった。生物系の実技科目(魔法薬を作ったり、簡単な回復魔法を指南する内容)だったと思うが、試験の結果を見た限りでは、彼女は特筆すべき能力を持ってはいない。もっとも、実力テストのスコアが、魔術師の技量を全てを物語るわけではないし、葵もそれは承知しているが、「相手のちからを推しはかる時に、いくらかの指標にはなる」という点で、参考にはしていた。
「ほほほ、驚かれましたか、史貴先生」
同じストリートの数メートル先から、クラリスが、嘲笑を投げかける。彼女はドレスの胸元に輝く、淡いブルーの宝石をかかげた。
「これは、ブリーシンガメン。術者の魔力を、べらぼうに増幅させる、マジック・アイテムですわ」
「……災厄の首飾りね」
葵も、聞いたことはあった。傍にいるダルク助教――ジョン・ダルクも同様で、彼は大きな拳を振りあげて、胴間声をクラリスにかける。
「こらっ、クラリス! そりゃ持ち主を不幸にするのと引きかえに、パワーアップさせるものだろう。危ないから、はずしなさい!」
「いやですわ」
きっぱり拒否する少女に、葵もまた、頭の痛い思いをして訴えた。
「なんにしても、私たちと【学院】に来なさい、カリオストロさん。みんなが貴方の破壊行為に、迷惑しているんですよ」
「ふーんっ!!」クラリスは言うことをきかなかった。
「史貴学院長……」
と、いつのまにかうしろに下がっていた青いユニフォームの男――【自衛団】副団長の、喜多味が、不安そうに眉根を寄せる。ずんぐりむっくりした――ドワーフのように愛嬌のある彼の肩に、葵は静かに、手を置いた。
「喜多味さん、こちらは大丈夫。ちからづくでも、彼女を拘束します。なので、そちらは市民の誘導をお願いします」
「は、はい……」
走って、ほかの団員に通達に行く喜多味。彼を横目に、葵はクラリスに向き直った。ふわふわの、やや長めの前髪を、クラリスはふうと掻き上げて、
「ふっ……あなたとは、いずれ戦うことになると思っていましたわ」
「そう。私は思っていなかったわ」
「よく言いますわ、わたくしから、大事な人を奪っておいて!」
(大事な人?)葵には心当たりがなかった。いかんせん、付き合いのある知り合いが少ないのだ。(そこそこ付き合いのある人ってなると、リョーコか、壮馬君だけど……)
どちらも、他人から大事にされるような人柄はしていない。きっと、クラリスがなにかを勝手に勘違いしているのだろうと、葵は結論した。
クラリスはわめく。ストリートの地面で、地団駄踏んで。
「わたくしのこの恨み…………受け取るが、良いですわ!!」
クラリスが、手のひらを胸のまえに組む。開いた中心から、白い高熱波の塊が生まれた。周囲の空気が、熱の余波で、陽炎のごとく、透明にゆらめいている。
「災禍を返す、イージスの盾!!」
隣りから、野太い声がした。ジョンが障壁を展開したのだ。葵も――こちらは詠唱のない、ひばりの技法と呼ばれる技術で、ジョンと同じ、魔力壁を展開する。クラリスから解き放たれた灼熱の魔術が、ふたり目掛けて直進する。各々が張った透明な壁が、葵と、ジョンを守護し――
(うそ!?)
クラリスの放出した白い光線が、ふたりの魔力壁を、打ち破った。強烈なスパークを瞬かせて、壁が弾け飛ぶ。
爆発が、葵とジョンを襲った。みごとに直撃を受けて、ふたりは、熱と衝撃、爆風にさらされる。気づけば、建物のカベに背中からたたきつけられて、葵は地面にへたり込んだ。
クラリスの手に、再び破壊の光が灯る。追撃が来る――!
「史貴先生!」
体重の差により、吹っ飛ぶのをこらえたジョンが、その巨体を呈して、葵の前に割り込んだ。ひばりの技法を会得していない彼が、クラリスの高熱波の届くまでのわずかな間に、魔術の壁を張りなおせるわけもなく。
「ダルク先生!! 逃げてくださ――」
葵が叫ぶや否や、光の波動は、ふたりをまともに爆砕した。




