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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 一方(いっぽう)そのころ 編
57/59

3.先生はつらいよ





 ※注意です。

 ・この物語は、『とり』の書いた長編小説・『鉄と真鍮しんちゅうでできた指環ゆびわ《3》 ~災厄さいやくの首飾り~』の番外編です。

 ・ショート・ストーリーです(でも、三部構成です)。

 ・本編のほうの、キャラクターや、ストーリー、世界観のイメージを、こわす可能性があります(でも、本編のほうで、すでに壊れているかもしれません)。

 ・以上の点に、抵抗ていこうのあるかたは、【もどる】をおすすめします。



 ・・・・・・


 〇登場キャラクターです。

 ・史貴しき あおい:21才の魔女。魔術の名門校【学院がくいん】の学院長。

 ・ジョン・ダルク:30代の男魔術師。【学院】の助教授。

 ・クララ・モリス・ビー・カリオストロ:16才の魔女。【学院】の高等部、いち年生。ジョンのクラスの生徒。愛称あいしょう・クラリス。








史貴しき先生、こっちですよ、こっち」


 青い制服が、晴天の下にひるがえる。町の治安ちあんを守る警察組織――【自衛団じえいだん】の一人ひとり喜多味きたみ 雄一ゆういちだ。丸っこい体型に赤いかみがチョコッと生えた中年の男。アゴヒゲをたくわえた彼の嘆願たんがんがなされたのは、ついいち時間ほどまえのことである。


 山のふもとの町、【トリス】で、魔術の名門校【学院がくいん】の生徒が、正義の名のもとにあちこちを爆破してまわっているというのだ。無論、その生徒がねらっているのは、建物や公共の施設しせつではなく、路地ろじをウロチョロする食い逃げや、スリ、かっぱらいの犯人で、一般人いっぱんじんや、周辺の建築物けんちくぶつは、彼女の放つ強力きょうりょく魔術まじゅつの巻きぞえをくらっているだけにすぎない。


 それでも、まわりの迷惑をかえりみず、破壊行為はかいこうい(彼女の言葉をりるなら、「正義の鉄槌てっつい」)をやめないのだから、彼女のおこないもまた、そのへんのチンピラや、ゴロツキと変わらない。


 喜多味きたみの先導によって、あおいと、もうひとりの【学院】教諭きょうゆは、町のメイン・ストリートに来た。


 葵についてきた魔術師まじゅつしは、ジョン・ダルクと言い、三十代の助教授じょきょうじゅだ。魔術学校まじゅつがっこうの先生というよりは、柔道じゅうどう師範代しはんだいのようにガタイのいい巨漢だが、あつかう魔術も知識も水準すいじゅんの高い、すぐれた魔術師である。が、


「ダルク先生、私ひとりで大丈夫ですから、学校へもどってください」


 うしろからやって来るジョンに、葵は懇願こんがんするように言った。


「なにを言いますか、史貴学長しきがくちょう! クラリスは、私の受け持ちの生徒! ならば、私が更生こうせいさせるのが道理というものです!!」


 熱血漢ねっけつかん、という言葉が、これほどしっくりくる男もそういまい。ギリシャ彫刻ちょうこくにでも出てきそうな灰色のに、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の巨躯きょくが、またその性格の暑苦しさに拍車はくしゃをかけていた。


 あおい――「史貴学長」と呼ばれた女性は、学院長がくいんちょうにあるには若すぎる、二十にじゅうをすこし超えたていどの、美しい顔をくもらせた。


 長い金髪きんぱつに、青いひとみ夏休なつやすちゅうなので、普段ふだん着ているドレスはつけておらず、白と青を基調としたプルオーバーに、膝上丈ひざうえたけのスカート、ミュールといった、ラフな格好(というのも、休暇きゅうか中で、ぐで~っとしていたところに、町からの通報があったのだ。今度からは、休み中でも正装せいそうになりそうだ)だが、上からは魔力まりょくをいくらか遮断しゃだんする加護のある、くろ法衣ほうえをつけている。


 これは、【学院】の教員きょういん研究者けんきゅうしゃに支給されるもので、となりについたジョンも、タンクトップにジャージズボンの上から、同じデザインの法衣をつけていた。どうにも、彼。貴重きちょうな夏休みを、ジョギングやきんトレで消費していたらしい。――と、


 声がした。


「おーっほっほっほっほ!!」


 ぼごーん! と、物騒ぶっそうな音もする。


 向こうのとおりから、もくもくと灰色のけむりが上がっていた。彼女のすがたは、あおいたちのいる地点からも視認しにんできる。


 宿屋やどや屋根やねの上に、その少女は、こちらにを向けて立っていた。なぜか、ダンボールで作った夕日ゆうひを背負って。


(まだおひるだけど)


 夕日のけんは、意識から追い出して、葵は少しまえにいる喜多味きたみに訊いた。


「いったいどうして、彼女はこんなことを……」


「はあ、なんでも、八百屋やおやから万引きした子どもを、成敗せいばいするためだとか」


「その子は? 保護してあるんですか?」


 ジョン助教じょきょうが、いてもたってもいられないようすで喜多味に言った。喜多味は太いくびを振る。


「いえ、我々が来た時には、くろコゲんなって、伸びとりました」


「かわいそうに……」


 葵は月並つきなみに同情した。まあ、ものをぬすむのは悪いことだが、それに対する仕打ちが、少々()がすぎている気がしたのだ。ジョンがさらに、喜多味にく。


「で、うちの生徒は、なーんで昼間ひるまっから、あんなオレンジの丸いダンボールを背負しょっているのでしょうか?」


「はあ、なんでも、『正義せいぎのヒーローは、夕日ゆうひ背負せおって登場するものですわ!』とかなんとか」


「そうですか。なら、仕方ないですなっ!」


納得なっとくしないでください」


 わっはっはっ!! とあつ胸板むないたらして笑うジョンに、葵はなかばあきれて、注意した。


 とうっ! と、屋根やねの上の少女――クララ・モリス・B・カリオストロ――クラリスが、ストリートに降りてくる。どうやら、あおいたちの存在に気づいていたようだ。すたっ。


「ようやく来ましたわね、史貴しき先生」


「まるで私と会いたかったようなくちぶりね」


「ふっ。一度いちどしっかり、腰をすえておはなしすべきとは思っていました」


 ボブショートの金髪きんぱつき上げて、お上品じょうひんなドレスに身をつつんだクラリスは言った。


「おおい、そんなことよりクラリス。おとなしく、【学院がくいん】にいっしょに来なさい。話は、それからでも」


「いやですわ!」


「またワガママな」


「ふーんっ! ダルク先生にはわからないのです。わたくしの、崇高すうこうな使命が!」


 ツーンとそっぽを向くクラリスに、近くで見ていた野次馬やじうまが、


「だれにもわかんねえよなあ」「町こわすのが、そんな大事なコトなんか?」「ろくでもねーじょうちゃんだな」


「だまらっしゃい!」


 ぽごーん!! クラリスは火炎かえん魔術まじゅつを野次馬にった。葵とジョンは無事だったが、周囲の市民しみんが直撃を受けて、現場が沈黙ちんもくする。


「先生がた、早くあのハタ迷惑めいわくなのを、なんとかしてくださいっ」


 まっくろになって、路地ろじでピクピク痙攣けいれんしている、つみのない野次馬たちを見やって、あおいは、「はい……」とうなずかざるを、なかった。




                     (つづく)




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