3.先生はつらいよ
※注意です。
・この物語は、『とり』の書いた長編小説・『鉄と真鍮でできた指環《3》 ~災厄の首飾り~』の番外編です。
・ショート・ストーリーです(でも、三部構成です)。
・本編のほうの、キャラクターや、ストーリー、世界観のイメージを、こわす可能性があります(でも、本編のほうで、すでに壊れているかもしれません)。
・以上の点に、抵抗のあるかたは、【もどる】をおすすめします。
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〇登場キャラクターです。
・史貴 葵:21才の魔女。魔術の名門校【学院】の学院長。
・ジョン・ダルク:30代の男魔術師。【学院】の助教授。
・クララ・モリス・B・カリオストロ:16才の魔女。【学院】の高等部、一年生。ジョンのクラスの生徒。愛称・クラリス。
「史貴先生、こっちですよ、こっち」
青い制服が、晴天の下に翻る。町の治安を守る警察組織――【自衛団】の一人、喜多味 雄一だ。丸っこい体型に赤い髪がチョコッと生えた中年の男。アゴヒゲをたくわえた彼の嘆願がなされたのは、つい一時間ほどまえのことである。
山のふもとの町、【トリス】で、魔術の名門校【学院】の生徒が、正義の名のもとにあちこちを爆破してまわっているというのだ。無論、その生徒がねらっているのは、建物や公共の施設ではなく、路地をウロチョロする食い逃げや、スリ、かっぱらいの犯人で、一般人や、周辺の建築物は、彼女の放つ強力な魔術の巻きぞえをくらっているだけにすぎない。
それでも、まわりの迷惑をかえりみず、破壊行為(彼女の言葉を借りるなら、「正義の鉄槌」)をやめないのだから、彼女のおこないもまた、そのへんのチンピラや、ゴロツキと変わらない。
喜多味の先導によって、葵と、もうひとりの【学院】教諭は、町のメイン・ストリートに来た。
葵についてきた魔術師は、ジョン・ダルクと言い、三十代の助教授だ。魔術学校の先生というよりは、柔道の師範代のようにガタイのいい巨漢だが、あつかう魔術も知識も水準の高い、優れた魔術師である。が、
「ダルク先生、私ひとりで大丈夫ですから、学校へ戻ってください」
うしろからやって来るジョンに、葵は懇願するように言った。
「なにを言いますか、史貴学長! クラリスは、私の受け持ちの生徒! ならば、私が更生させるのが道理というものです!!」
熱血漢、という言葉が、これほどしっくりくる男もそういまい。ギリシャ彫刻にでも出てきそうな灰色の巻き毛に、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の巨躯が、またその性格の暑苦しさに拍車をかけていた。
葵――「史貴学長」と呼ばれた女性は、学院長の座にあるには若すぎる、二十をすこし超えたていどの、美しい顔をくもらせた。
長い金髪に、青い瞳。夏休み中なので、普段着ているドレスはつけておらず、白と青を基調としたプルオーバーに、膝上丈のスカート、ミュールといった、ラフな格好(というのも、休暇中で、ぐで~っとしていたところに、町からの通報があったのだ。今度からは、休み中でも正装になりそうだ)だが、上からは魔力をいくらか遮断する加護のある、黒い法衣をつけている。
これは、【学院】の教員や研究者に支給されるもので、隣についたジョンも、タンクトップにジャージズボンの上から、同じデザインの法衣をつけていた。どうにも、彼。貴重な夏休みを、ジョギングや筋トレで消費していたらしい。――と、
声がした。
「おーっほっほっほっほ!!」
ぼごーん! と、物騒な音もする。
向こうの通りから、もくもくと灰色の煙が上がっていた。彼女のすがたは、葵たちのいる地点からも視認できる。
宿屋の屋根の上に、その少女は、こちらに背を向けて立っていた。なぜか、ダンボールで作った夕日を背負って。
(まだお昼だけど)
夕日の件は、意識から追い出して、葵は少しまえにいる喜多味に訊いた。
「いったいどうして、彼女はこんなことを……」
「はあ、なんでも、八百屋から万引きした子どもを、成敗するためだとか」
「その子は? 保護してあるんですか?」
ジョン助教が、いてもたってもいられないようすで喜多味に言った。喜多味は太い首を振る。
「いえ、我々が来た時には、黒コゲんなって、伸びとりました」
「かわいそうに……」
葵は月並みに同情した。まあ、ものを盗むのは悪いことだが、それに対する仕打ちが、少々度がすぎている気がしたのだ。ジョンが更に、喜多味に訊く。
「で、うちの生徒は、なーんで昼間っから、あんなオレンジの丸いダンボールを背負っているのでしょうか?」
「はあ、なんでも、『正義のヒーローは、夕日を背負って登場するものですわ!』とかなんとか」
「そうですか。なら、仕方ないですなっ!」
「納得しないでください」
わっはっはっ!! と厚い胸板を反らして笑うジョンに、葵はなかばあきれて、注意した。
とうっ! と、屋根の上の少女――クララ・モリス・B・カリオストロ――クラリスが、ストリートに降りてくる。どうやら、葵たちの存在に気づいていたようだ。すたっ。
「ようやく来ましたわね、史貴先生」
「まるで私と会いたかったようなくちぶりね」
「ふっ。一度しっかり、腰をすえてお話しすべきとは思っていました」
ボブショートの金髪を掻き上げて、お上品なドレスに身をつつんだクラリスは言った。
「おおい、そんなことよりクラリス。おとなしく、【学院】にいっしょに来なさい。話は、それからでも」
「いやですわ!」
「またワガママな」
「ふーんっ! ダルク先生にはわからないのです。わたくしの、崇高な使命が!」
ツーンとそっぽを向くクラリスに、近くで見ていた野次馬が、
「だれにもわかんねえよなあ」「町こわすのが、そんな大事なコトなんか?」「ろくでもねー嬢ちゃんだな」
「だまらっしゃい!」
ぽごーん!! クラリスは火炎の魔術を野次馬に撃った。葵とジョンは無事だったが、周囲の市民が直撃を受けて、現場が沈黙する。
「先生がた、早くあのハタ迷惑なのを、なんとかしてくださいっ」
まっ黒になって、路地でピクピク痙攣している、罪のない野次馬たちを見やって、葵は、「はい……」と頷かざるを、得なかった。
(つづく)




