2.あたまにつける、金のわっか 【前編】
※注意です。
・この物語は、『とり』の書いた長編小説・『鉄と真鍮でできた指環《3》 ~災厄の首飾り~』の、番外編です。コメディです。
・ショート・ストーリーです。(でも、二部構成です)
・メタな表現をふくみます。
・本編の世界観や、ストーリー、キャラクターなどのイメージを、こわす可能性があります。
・以上の点に、抵抗のあるかたは、読まないことを、おすすめします。
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〇登場キャラクターです。
・リョーコ・A・ブロッケン:20才の魔女。【学院】で、魔法研究にはげむ、魔術研究者。
・メイ・ウォーリック:17才の魔女。【学院】の、高等部三年生。
・ノワール:リョーコの使い魔。
「なんで全っ然、やってないのよっ!!!」
どかーん!! と大声が轟いた。学生用の集合住宅、【寮】の一階である。問題児に与えられる、生徒間では「独房」と揶揄される一室で、彼女の怒りは、バクハツした。――友人の宿題を、手伝いに来た時のことである。
「レポート課題、ナメてんじゃねーわよ! 資料あつめくらいは、終わってると思ったのにさあ」
「初等部のころに、課題のいっさいをムシして登校したブロッケンさまに、言われたくはありませんわ」
「あれはいいのよ!!」根拠は無い。「でも、メイちゃんは、提出する気なんでしょう!?」
「ま、いちおうは」
と、テーブルの向かいにいる黒髪黒目の少女――メイ・ウォーリックは、相変わらずの小憎たらしい態度で言った。十七才の魔女である。白皙の美貌に、紫紺を帯びた、黒い瞳。長い髪の一部を、左右の肩のまえに垂らして、赤いリボンと黄色いリボンで、細く結っている。
北部の山の中にある、【学院】の敷地内にあるとは言え、夏の気温は、厚着で耐えられるものではなく、メイも、ブロッケンと呼ばれた魔女も、肩や脚を出した、夏仕様の洋服を着ている。
それでも、暑くるしく頭を沸騰させているブロッケン――リョーコ・A・ブロッケンは――自分の使い魔に横から言われて、熱の逃げ場を失った。使い魔は、こんな事を言った。
「そんなこと言ってるあいだに、できそーなトコから、片付けてけばあ?」
黒いイブニング・ドレスに、黒いストレート・ロング、金の双眸の女である。妙齢の色香ただようレディの風采だが、それは本当のすがたではない。化ければ猫のすがたにもどる彼女の名は、ノワール。リョーコが「祖父」と呼ぶ男から、ゆずられた使い魔である。
「こんなの、一日で終わるワケないじゃない」
赤いセミロングを耳元にかけて、赤い眼をやぶ睨みにして、リョーコはうなった。高等部の夏休みの課題は、ここ【学院】では、半分以上がレポートで埋められる。選択した授業によっては、多少削減することはできるが、それでも五割を切ることは、よほど運にめぐまれた学生でなければ、あり得なかった。
メイが窓際の……なんか、変な植物のはえた植木鉢を、指さして言う。「毎日つけてる魔法植物の観察日記なら、ありますが」
「あるんじゃないのよ。んじゃあ、それちゃっちゃとまとめて、出しちゃいましょ」
「はいはい」
「他にも持ってるんじゃないのー?」たたけば出るとばかりに、ノワールがメイの頭を、ポンポン叩く。
ちなみに、メイとリョーコは座っているが、ノワールは立ちっぱなしである。いつでもフラリと、出ていけるためである。
「『これは受け取れない』と、つっ返されたものばかりですわ」
「いいのよ、それで。使えそうなトコ、切った貼ったして、いかにも人道的な研究っぽく見せときゃ、センセーってのは納得するんだから。極悪な人体実験だって『医学の発展のためなんです』とか言ってりゃ、やるような世界の連中なのよ」
と、こまっしゃくれた調子で、リョーコ。
「それならまあ、なんとかなりそうですが」メイは席を立って、居間から自分の部屋へと歩いて行った。数分して戻ってきた彼女の手には、数冊のノートと、紙袋が抱えられている。「タイトル読みあげましょうか?」
「あんた、この小説、BAN(追放)させる気?」
諸事情あって――主に、人道的な側面から――削除せざるを得ない表現のノートを、メイはバサリと、テーブルの上に置く。同時に、無造作に置かれた二つの紙袋に、リョーコは目を留めた。
「なに、それ?」
「おみやげですわ。南部に行った時に、買ってきましたの。忘れない内に、お渡ししようと思って」
「ああ、それが言ってたやつね」
「はい」
メイは、リョーコにふたつのおみやげを出した。袋のなかから出てきたのは、ひとつは包装された箱詰めのお菓子。もうひとつは、剥きだしのアクセサリーである。全部が金色の金属で出来ていて、どことなく、エキゾチックなデザインの。
「サークレットと、ぴよっとまんじゅうがありますが、どちらをお取りになりますか?」
「え~っ、どっちもくれるんじゃないの?」
「あたりまえですわ」
前のめりになって不平をうったえるリョーコだが、文句を言う反面、彼女は聞きわけもいい。「じゃ、サークレットで」
「では、ぴよっとまんじゅうはわたくしが。それで、ブロッケン様」
「妙なデザインよねー。全部が金具になってるなんて」取扱説明書を読みあげようとしたメイのまえで、リョーコはさっそく、サークレットを額につけた。ガチャン。
(【後編】につづく)




