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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 一方(いっぽう)そのころ 編
54/59

  おかあさんの伝言 【後編】




 ※注意です。

 ・この文章ぶんしょうは、『おかあさんの伝言 【中編】』のつづきです。

 ・ショート・ストーリーです。(でも、三部構成です)

 ・本編ほんぺんのほうの、世界観や、ストーリー、キャラクターなどのイメージを、壊す可能性があります。

 ・以上の点に、抵抗のあるかたは、読まないことを、おすすめします。


 ・・・・・・


 〇登場キャラクターです。

 ・史貴しき あおい:21才の魔女。魔術の名門【学院】の学院長。

 ・リリン:メイの使い魔。

 ・メイ・ウォーリック:17才の魔女。【学院】の高等部三年生。






 ・・・・・・



 新学期しんがっきが始まった。夏休みが明けて、第一日(いちにち)目である。()()にとっては、登校初日に教員に呼び止められるのは、こうなのか不幸なのか。


 ――【学舎がくしゃ】。大陸北部の山のなかにある、古きよき城をした建物の廊下で、うしろすがたを見かけて、あおいは声をかけた。


「ウォーリックさん。ちょっとお話しが」


 途端とたん、振りかえりながら眉をひそめる女子生徒を見て、葵は、「不幸のほうね」と確信かくしんした。


 長い黒髪に、ほんのりむらさきの混じった、黒い目の少女である。背は高いが、葵よりは若干じゃっかん低い。身体つきと顔つきは、二十代でも通じそうな、大人びたものだが、つぐんだくちもとや、目元にできる感情の起伏きふくは、稚児ちごめいてあどけなく、邪気や誤魔化ごまかしの無いものだ。


「なにか?」


 不純物ふじゅんぶつのない、水素と酸素のみで構成されたような、真水まみずのような、透明な声。つぶさに、おのが感情をさらすと同時に、その気持ちの強度をもって、相手にするどりつけるような、んだ声質。


(……『味方みかた』、ね)


 先日せんじつの会議の後で、目のまえの生徒――メイ・ウォーリックの母親から言われたセリフを、今は思う存分に、うたがえる。ともあれ、約束は約束である。うっとうしそうに眉間みけんしわを寄せて渋面じゅうめん維持いじする生徒に、あおいは伝言をした。


「貴方のお母さまから、言伝ことづてを頼まれました。クリスマスと、年明け……それと、夏休みには、実家に帰ってくるように、と」


 ……。……。……。


(……?)


 目を閉じて、あおいは相手の返事を待っていた。どうせ、「大きなお世話ですわ」とか、「貴方には、関係の無いことです」と切り返されると構えていたのだ。が、なにも聞こえない。


 片目かためを明けて、相手のようすをうかがう。完全にこちらをムシして、教室へ行ったのかとも、思ったが。


 メイはその場にいた。一歩いっぽも動いていない。あおいに呼ばれて振りむいた姿勢のまま、彼女は、微動びどうだにしていなかった。――だが。


「………………」


 無言むごんでメイはうつむいていた。その顔が、母親ゆずりの美貌びぼうに満ちた、白いおもてが。――かあああああっ!


 見るみるまっに、染まっていく。


 紅潮こうちょうは、一瞬いっしゅんでメイの耳までおよんで――つまり、それは葵がメイの顔を見てから、一瞬間いちしゅんかんのあいだに起こった出来事とも言えるのだが――、自分の顔色の変化へんかに気付いた刹那せつな、ぎっ!! と、メイは葵をにらみつけた。


 その剣幕けんまくたるや。たいていのことなら、かいさない葵をして、「なにか、悪いことをしたかしら……」と、心配させるほどの勢いである。


 なにも言わないまま、メイは転移の魔術を発動した。彼女が無詠唱で魔法を使えることに、葵は驚いた。が、それよりも――。


「……またきらわれちゃったかしらね」


「安心しなよ。メイの校長せんせーへの嫌悪けんお感は、ずーっとまえに、マックス振りきってるからさ」


 いつの間にやら横にいた、十二才くらいの少女・リリンが、ベレー帽をせた黒い頭のうしろに手を組んで、フォローする。


「結局なんだったのよ、あの反応は」


「恥ずかしかっただけだよ。あれでフクザツなお年頃なのさ」


「だったら、そう言って欲しいものだけれど。あの子、ちゃんと家に帰ってくれるのかしら」


「あー、大丈夫、大丈夫。メイのほうも、会いたい気持ちはあるから。ただ、お見合いの話しとかがイヤだから、最近は逃げまわってるだけで」


「そう。贅沢ぜいたくな悩みね」


 つぶやくように、葵は言った。それから、「今の機会に」とリリンに聞こうと思ったが、彼女は主人を追っ駆けて行ったのか、(リリンは普段、メイに随行ずいこうしている)あらためて葵が見やった時には、いなくなっていた。


「うわっ!」「へびだ!」


 と、ほかの魔術師たちの声が聞こえるから、元のすがたにもどって、するする廊下をっているのだろう。


味方みかたねえ)


 まっになって――そういうところだけは、年相応に子どもっぽくて、確かに可愛らしいのだが――親のかたきでも見るみたいににらみつけてくる生徒のようすを、思い返して。


(……いまひとつ、信じられないわね)


 今日の業務のために、あおいは、最上階にある学院長室へと、朝の廊下を歩きだした。



      〈おわり〉




 読んでいただき、ありがとうございました。




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