表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 一方(いっぽう)そのころ 編
52/59

1.おかあさんの伝言 【前編】




 ※注意です。

 ・この文章ぶんしょうは、『とり』の書いた長編小説ちょうへんしょうせつ、『鉄と真鍮しんちゅうでできた指環ゆびわ 《3》~災厄さいやくの首飾り~』の、番外編です。ショート・ストーリーです。(でも、三部構成です)

 ・本編ほんぺんのほうの、世界観や、ストーリー、キャラクターなどのイメージを、こわす可能性があります。

 ・以上の点に、抵抗のあるかたは、読まないことを、おすすめします。


 ・・・・・・


 〇登場キャラクターです。

 ・史貴しき あおい:21才の魔女。魔術の名門【学院】の学院長。








 ~本編を読んでない人のためのあらすじ~


 『カリオストロっていう女の子がね、不幸な目にうの。でも、ぜんぶ自業自得なんだ。あと、主人公は和泉いずみっていう若い男の魔術師なんだけど、なんていうか、すっごい空気くうきだった。話すこと無いくらいに。(完)』


 ・・・・・・


(はあ…………)


 あおいは溜め息をついた。と言って、も心のなかでである。


 長い金髪に青い目の、おおよそ両親がふつうの日本人の見た目をしているとは思いがたい、欧州めいた女性である。しかし、じつの妹もまた金髪碧眼であるにもかかわらず、正真正銘しょうしんしょうめいふたりの親は、、父も母も黒髪黒目(くろめ)の「あ、ジャパニーズのかたですね」と、すぐに分かる、ひらべったい顔のつくりをしている。


 それはともかくとして、葵は現在、大陸中央部にある学都をおとずれていた。夏休みの午後である。損をした気分(はなは)だしい。


 学都がくとは、広範な分野の研究をおこなう場として、多くのカレッジや、アカデミーが集中しゅうちゅうしている町だった。若い学生の希望者は、うんと背伸びをしたところで、この大平原に、百花繚乱ひゃっかりょうらんのごとくそそりたつ学校群を、受験するのが通例である。魔術まじゅつ権威けんいと名高い【学院がくいん】は、敷居が高すぎる。最良の魔術教育と、研究施設を、保証ほしょうしてくれるとは言え。


 あおいはそんな、【学院】の院長だった。二十一才の若さで大学の管理者という地位にいるのは、ほかの学校をとってみても珍しい。おまけに、彼女は魔法のない世界――【おもて】からの異邦人である。となれば、なおさら。


 大講堂だいこうどう――サークル状になった、雛壇ひなだんの大部屋には、さまざまな思惑をふくんだ視線しせんが、交錯こうさくしていた。そのほぼ全てが、中央の教壇きょうだんに席をもつ葵を横切っていく。


 おとこも女も、老いも若きも。青や金、ブラウンや緋色、黒にむらさき――いろんな色彩しきさいの瞳をめぐらせる彼らは、この魔法の世界たる【裏】において、【貴族】と呼称される身分の者たちである。


「最近、学生の質が落ちていると聞きますが、どういったご指南をされているのでしょうなあ?」「研究所けんきゅうじょのほうも、新しいマジック・アイテムの開発が、とどこおっているようではないですか」「これでは、出資のし甲斐がいがありませんわねえ」


 人生じんせいにおいて、十年は先輩せんぱいの貴族――土地の管理者であり、魔術師として、卓越した技能ぎのうを持つおじさま、おばさまの声を、聞き流すに流して、はや時間。会議の開始はいち時だったが、時計はもう、三時をまわっている。


(そろそろ、言うことも無くなってきたのかしらね)


 今日は考えごとがあったため、時間の半分以上は、悩みに没頭していたのだが……。彼ら、彼女らは、あおいの心がここにあらずなことに、気がついてはいなかった。前の学院長、はく 時臣ときおみいわく、「会議の席では、目をつぶってうたた寝でもしていればいい。目さえ開かなんだら、殊勝しゅしょうに話しを聞いているふうに見えるからな。きみの場合」ということだが、確かにそれは、通用している気もする。


(とは言え、毎回こうも、ケチョンケチョンに言われるだけというのも……ツライわね)


 反抗はんこうする気は、葵には無い。かと言って、彼らのげんがえんずる気も、毛頭もうとうない。他者たしゃに対して、あーだこーだ言いたがる相手に反論する無意味さを、葵は、決して順風満帆だったとは思えない学生時代に、いやというほど学んでいた。


 ――こんな時、妹のあかねなら、どうするかしら。と考えかけて、やめた。彼女のことを意識したくないのだ。今は、特に。


「まあまあ、みなさん」


 会議かいぎとは名ばかりの、ストレス発散の場(葵は溜まる一方いっぽうだが)に、毛並みのちがう声が混ざった。


 嘲笑ちょうしょうのざわめきが静まる。こっそり、片目かためを開けて、葵がようすをうかがうと、雛壇ひなだんのうしろのほう――公的こうてきなマナーではないが、そこは貴族のなかでも、くらいの低い家柄いえがらが座るところ(下手しもてにあたる)に、黒髪黒目の、貴婦人がいた。


 四十代くらいの、しかし、二十代と紹介されても納得のいく瑞々(みずみず)しさと、活力かつりょく気高けだかさに満ちた女性だ。くろい長髪を、ひとむかしまえの家庭教師然と編み込んで、アップにまとめた髪型。黒を基調きちょうとした末広すえひろのドレスを、ほそい長身にまとっている。彼女は、自分に集まる視線を見まわして、さらくちをきいた。


「こんな若くて可愛らしいおじょうさんを呼びつけてやることが、寄ってたかっていじめることですの?」


 ――誰だ? と、雛壇ひなだんのそこかしこから、疑問がささやかれた。コショコショと、そのうじを答える人があったが、葵の耳には届かない。


(誰かしら)


 婦人ふじんの顔つきと仕草、なにより、刺すような気配けはいが、あおい既視感きしかんを覚えさせる。


 婦人は立ちあがる。くびに、黄色いへびを、マフラーみたいに巻きつけて。


「お先に失礼します。ちょっとヒマがあったから出てみれば、こんな下衆げすつどいだったなんて。そこのむすめさんを非難ひなんするまえに、まず、ご自身のおこないをかえりみてみることですわね」


「なん――」せきのひとつから、男が立ちあがった。恰幅かっぷくのいい、壮年期の男だったが、彼の怒号は、つづく婦人の声にこわされた。


「あ、ごめんなさい。サル未満のゲスには、少々むずかしい注文でしたわね」


 おほほ。と笑う夫人に、男の魔力まりょくが暴発した。彼女のいた長テーブルが、爆発する。破砕音はさいおんと、木の欠片かけら堂内どうないに跳ぶ。


 婦人ふじんは無傷だった。障壁を展開していたのだ。


「よせ、ロベルト。あれには関わるな」おとこの横にいた老爺ろうやが、太った腕をつかまえる。ふたりは、それなりに付き合いのある知己ちきだった。「なぜです! あの女、我々をコケにして――」


 ひそひそと、老爺ろうやは男に耳打ちした。すると、盗みいていた者から、徐々に情報が、波及はきゅうしていく。


「あれが、あの新参の……」とか、「ツェペシュの再来という……」などの声が聞こえてくる。「では、西の――殿どのが消えたというのも……」


 恐怖きょうふ苛立いらだち。猜疑さいぎ……。歴史れきしの浅い貴族に対するあなどりのなかに、少数ながら、カルトめいた羨望せんぼうの混じった、つやっぽい声もある。それらが、広い講義室に、一様いちようにボリュームをおさえて行きう。


 婦人ふじんは、一同いちどうに笑顔を向けた。


「では、会議はもう、無いようですので」


 んべ。と、彼女のへびが舌を出した気がした。事実、チロチロと出していたのだが、小さい子どもが気に入らない相手にするように、あっかんべーをしたように見えたのだ。


 どこからか舌打ちがする。きょうめたのか。一人ひとり、また一人ひとりと、席を立つ。


つる一声ひとこえ、というのがあるとすれば、こういうものなのかしら)思いながら、あおいも、退室の仕度したくをした。






 ※いくつかの表現を、修正しました。(以下は、その一例です)

 ・旧→『学都がくとは、広範な分野の研究をおこなう場として、(中略)若い学生の希望者は、うんと背伸びをしたところで、この大平原に、ウエディング・ケーキのごとくそそりたつ学校群を、受験するのが通例である。』

 ・改→『学都がくとは、広範な分野の研究をおこなう場として、(中略)若い学生の希望者は、うんと背伸びをしたところで、この大平原に、百花繚乱ひゃっかりょうらんのごとくそそりたつ学校群を、受験するのが通例である。』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ