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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第4幕 魔術師の誤算(ごさん)
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48.おひるねする




 ・前回のあらすじです。

『カリオストロが、自分がやってきたことを、あかねにやり返される』







「さ・て・と」あかね法衣ほうえほこりを払った。振り返って、チャコをる。「用事ようじわったし、帰ろっか」


「そうですね」


 茜は杖を持ったまま、魔法まほうを展開する。あわてて和泉いずみが、少女しょうじょ背中せなかに手を伸ばした。


ってくれ。茜っ」


「なに?」


 和泉は、ごにょごにょ言った。組んだゆびの先――左右の親指おやゆびを、無意味むいみにクルクル回しながら。


「今朝は、わるかったよ。ほんとに。クロがなんか、勝手かって言ったみたいでさ。()()()


「もういいよ。べつに、和泉じゃなきゃダメってワケでもないし」


 ぐさり。和泉の心臓に、目に見えない槍が刺さった。痛い。


 ぷるぷる和泉は震えた。心の痛みをこらえ、笑顔えがおをつくる。相当いびつだったが。ここでまでチャンスを逃がしてなるものか。


「な、なんなら、いまからでも埋めわせするよ。どっか食べにいくか? それとも…………。しょ、ショッピングとか」


 さりげなく、デートに誘う。なお、茜が言う「あそび」とは、んで字のごとく。オニゴッコや、かくれんぼ、カード・ゲーム、すごろくなどである。現に、和泉の提案ていあんに、茜は、「買いものは、遊びじゃなくない?」と首をかしげる。そして。


「無理だよ。私、帰ったらお昼寝するもん。さすがに疲れちゃった」


 制御用せいぎょようの杖を振って、肩をとす。あかねの手にある杖をのぞきこみ、和泉いずみ安心あんしんしたような、かわいた笑いをもらす。


「なんだ。やっぱおまえでも、セーブしながら魔術まじゅつ使うのは、キツいんだな」


「そりゃね。私だって、体力たいりょくに限界があるんだから」


 金属製のには、術者じゅつしゃのちからをおさえる数値すうちきざんである。じゅう累乗るいじょう表記ひょうきされるそれは、和泉は大目おおめ見積みつもって、「マイナス三乗(ミリ)(一〇〇〇分の一)」と予想よそうしていたが……。


「ぴ……」和泉は笑顔えがおで固まった。声なき声で叫ぶ。「一兆分の一(ピコ)!?」


 あかねはぐるんぐるん、肩をまわしてこりをほぐす。


「じゃーね、和泉いずみ


 茜が浮遊ふゆうの魔術をつかう。チャコにもかけて、空に飛んでいく少女に、和泉は食いさがった。性懲しょうこりもなく。


てって! じゃあ、つぎのやすみは? つぎの休みに、遊ぼーぜ。学校はじまるから、来週らいしゅうの土日になるけど……」


「無理」


「なんでだよ!」


 和泉は地団駄じだんだ踏んだ。すなぼこりと、なまゴミの散乱する小路こみちに、バタバタとおとむなしく響く。


「私、明日から旅行りょこう行くもん。しばらく【学院がくいん】には、帰ってこないから」


「はあ?」和泉は落胆らくたんした。茜が【学院】に不在がちなのは知っていた。が、それにしても、「帰ってきた」とおもったら、また出かけるなんて……。和泉としては、つまらない。


「そんなあ……、ゆっくりしてけよ。あおいさんだって、さみしがるだろ?」


 学院長がくいんちょうの葵のことを、和泉は普段は、史貴学長しきがくちょうと呼んでいる。しかし、こういうプライベートの時には、「葵さん」と、名前なまえのほうでぶようにしていた。


 茜は「ふんっ」とそっぽを向く。茜があねのことをどう思っているのかは、和泉にはいまだ、判別はんべつがつけられないでいた。「知ったこっちゃないね」と言ってから、茜が思い出したように、言葉ことばにごらせる。


「あー。あのさ、和泉いずみ


 和泉が、「ん?」とサングラスのおくからで問うと、あかねは言いづらそうに、自分のほそうなじを掻いた。


「私がクラリスをぶちのめしたってこと、おねえちゃんには、言っちゃダメだよ」


「なんでえ? あおいさんに、り返すんだろ? じゃあ、報告ほうこくしなきゃ!」


「そりゃ、あくまで私の気持ちの整理だよ」茜は心底うっとうしそうに、息をついた。トントンと、杖で自分の肩をたたいて、ぼやく。「私が納得なっとくすれば、それでいいのっ」


「んー……」


 ようは茜のなかで、葵に対する恩義おんぎに、決着をつけたかったということか。いかんせん、彼女かのじょはいちおう、去年きょねんあきに、葵と和泉に、【迷宮めいきゅう】という魔物まものにして魔法まほう資源の採取地さいしゅちから、たすけ出してもらったという事情じじょうがある。


(なんだかんだで、世話になったとは思ってるんだな)


 てっきり、「余計よけいなことしないでよ!」とおこっているかと、うしろめたささえあった和泉は、ほっとする。茜が迷宮の深部――賢者の石に閉じこもっていたのは、和泉と葵には、了承りょうしょうできなかったことだが、本人ほんにんとしては、「居心地がいい」というものだったのだから。もっとも、彼女(かのじょ)の帰還は、無償むしょうというわけにはいかなかったけれど。


 だからこそ――。というわけでもないが。和泉はなんだかんだで、茜が葵のために行動してくれたのが、嬉しかった。なので、


「オレは、言ったほうがいいとおもうけどな。だって、絶対よろこぶぜ、あの人」


「それがいやなんだよ。そーやって調子ちょーしのるんだからさあ……」


「でも、」茜のよこで、魔法を受けてプカプカ浮いていた給仕きゅうじ服のおんな――チャコが言った。「『信じない』ってことのほうが、ありそうですわよねえ。葵さまの場合ばあい


「言えてる」


「ばか!」和泉はえた。みどりをぱちくりさせる少女しょうじょと、剣呑けんのん半眼はんがんけてくる給仕服の女を、交互にゆびさして。


「ばかっ!! おまえら、なんもわかっちゃいない! 葵さんがどれだけ茜を大事におもってるか……。わかんないんだ!」


「いーもん。べつに」


 茜は法衣ほうえそでわせて腕組みした。ごそりと片手を出して――ぴっと、人差し指を立てる。


「とにかく、和泉。お姉ちゃんにはだまっててよね。今度また誰かにこてんぱんにされたからって、内心ないしんあてにされんのも、ムカつくんだから」


「わかった」指をつきつける少女に、和泉いずみはうなずいた。言おう。言っちまおう!!


 あかねは空へと飛んでいく。和泉の胸中きょうちゅうなど知らずに。そして和泉は、使つかと共に青空あおぞらとおざかっていく少女に、「ばいばーい」と手を振った。彼女かのじょたちのすがたが、完全にえなくなる。それから――。


「すまんな、茜」


 ふっ。と芝居しばいがかった調子ちょうしで拳を握りしめ、和泉もまた、きびすを返す。余計よけいなこととは知りつつ、自分の行動が、あの姉妹しまいの仲の一助いちじょになることをいのって。軽い足取あしどりで、へたくそなステップを踏んで、一路いちろ、【学院】へとあるいていく。



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