47.よわいものいじめ?
・前回のあらすじです。
『茜が、カリオストロを手ひどく痛めつける』
「こんな…………っ。弱いものいじめですわ!」
「どの口がほざくんだよ。それに、弱いほうが『悪い』んでしょ? そして、『悪』は、打ち滅ぼされるべきだって、クラリスが言ったんじゃん」
「ですが……。それは、わたくしの哲学であって、賢者さまのものでは――」
「だから――――、」茜は杖の先に、火の球を生む。
加減はしてるんだろうけどな。と、和泉は彼女の持つ、制御用杖を見る。だが、相手は生徒で、茜は【賢者】。いくら最高の魔術教育を課す【学院】であっても、クラリスは魔術師見習いにすぎない。最高実力者たる【賢者】との間には、歴然とした、差がある。
茜の作った火の球は、カリオストロが再び築いた魔力の防壁を、あっさりと溶かした。頭上から落ちる火の塊に、カリオストロは、ただ悲鳴をあげてのたうちまわる。
(わざとだな)
魔法の壁をつくる時間を与えているのは、和泉から見て明瞭だった。黒焦げになって地面に突っ伏すカリオストロ。もう立ち上がる気力も湧かない彼女を、茜はその場から、動かずに見下ろす。
「――自分でかかげた哲学で死ねるなら、本望でしょ、って話」
かろうじてカリオストロは、自分の顔を持ちあげた。熱波にさらされ、黒茶に焼けた表情は、ただただ怯える、小動物のそれ。金色の目の端には、涙まで浮いている。
茜はさらに追い打ちをかけようと、杖をかかげた。ぱしっ!
和泉が鉛の杖の柄を掴む。このまま殺してしまうのではないかと、不安になったのだ。
「茜。人殺しはまずい」
「安心しなよ、和泉。ちゃんと加減してるし。『殺すな』ってのは、お姉ちゃんに再三言われてるんだからさ」
和泉の肩からちからが抜けた。茜がちゃんと加減をしていることに安心したのではない。姉である史貴 葵の言いつけを守ろうとしているのが、うれしかったのだ。二人には、色々あったから。
「ちゃんと葵さんの言うこと、聞いてくれてるんだな」
茜は俯いた。怒ったかと思って、凝視する。と、
「さあ?」と彼女は肩をすくめた。「借りがあるからね。これでチャラにするつもりだけど」
ガラ……。
地面から音がする。剥がれた石壁のかけらが、タイルに跳ねた。見ると、カリオストロが立っている。お人形みたいなドレスも、つやのあった髪も。煤と焦げで、黒ずんでいた。
カリオストロの前には、防御壁の光があった。半透明だが、それは影のなかで、朧な魔力光を放っている。大きなブルー・ダイヤを嵌めた首飾りが、カリオストロの胸元で、異様な光沢を瞬かせる。
「こ……。こうなったら、わたくしの全霊を賭けて――!!」
カリオストロは、頭上に首飾りをかかげた。両手に支え、持ちあげられた宝石が、妖しく光る。
――ぴしっ!
中央のブルー・ダイヤが、不気味な音をたてた。瞬く間にクモの巣のようなヒビが入り、飛び散ったかけらが、魔力光を反射して、美しい輝きの粉を散らす。ぱきいんっ!
首飾りは、砕け散った。カリオストロの手のなかで。
口をあんぐり開けて、少女が金色の目を見開く。アクセサリーを構成していた宝石、貴金属が、雨のごとく、少女の金のボブショートに降りそそいだ。
和泉は茜のうしろから、カリオストロに起こった事態をながめていた。目を白黒させて。
「ま、まさか?」
「首飾りが、限界を迎えたみたいだね」
「……。さっきの防御壁か。おまえのちからに耐えられなかったってか? 狙ってやった……んだろうなあ。やっぱ」
「ふふーん」
茜はブラウスの胸をそらせた。和泉に、ピース・サインを振る。無防備になったカリオストロに、制御用の杖の先端を向ける。カリオストロは、完全に追い詰められたネズミの眼差しで、【賢者】を見ていた。
「ってわけで、残念だったね。クラリス」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――!」
――白い光の熱波が吹き荒れる。トリスの町の小路にふくれあがったそれは、カリオストロを吹き飛ばした。
どかああああああん!! おもしろいように、金髪金目の少女の小さな身体が、空に打ち上げられた。




