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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第4幕 魔術師の誤算(ごさん)
46/59

46.おてあわせ



 ・前回のあらすじです。

和泉いずみたちのまえに、あかねが現われる』






今朝(けさ)はよくもやってくれたね?」振り返った(あかね)は、和泉(いずみ)けていた笑みを消した。「ひとのことをチビだとか。こまっしゃくれてるとか」


 だが、子供っぽいかおつきゆえか。けきれない愛嬌(あいきょう)のためか。むすっとしているのは分かっても、畏怖(いふ)させる威厳はない。それでも和泉は、弁解した。


「オレじゃないっ。からすだっ! クロがわるいんだ!」


「まあ、そーなんだけどさ」


使(つか)()不始末ふしまつは、飼いぬしの責任かと」


 和泉のよこから、チャコが糾弾(きゅうだん)した。和泉(いずみ)は、チャコをゆび差して、「だったら、チャコだっておのげてきたんだぜ!」と、(あかね)主人しゅじんとしての至らなさをおもい知らせてやりたかったが。


「ま、まあ。賢者(けんじゃ)さま……」


 カリオストロの声が、和泉の勢いを殺す。


(そうだった。いまは、チャコにかまっている場合ばあいじゃない)


 れた視界。魔術(まじゅつ)の火に消毒しょうどくされて、数秒前すうびょうまえよりクリアになった、(せま)みち。そこに恐縮きょうしゅくしたようすで、カリオストロは立っていた。


 彼女かのじょは、ちらちら金色のおよがせて、茜に問う。むねのまえで組んだ指を、せわしなく動かして。


 逃げる算段でもしているのだろうか。


今日きょうは、なんと言いますか……。いいお天気で」


「うん」


「……。ちなみに、いつ頃から、こちらに?」


「だいぶん前かなあ。和泉(いずみ)や、壮馬(そうま)にいちゃんが来たあたりから」


「じゃあ、もっとはやたすけてくれよ!」


 和泉は(あかね)に詰めった。よこから白い目で、使つか無言(むごん)非難ひなんをしてくるが、この際は無視むしする。


「ふふん、」茜は低いはなを、ツンと上にけた。得意気とくいげに、短い人差しゆびを振るう。「こーゆー登場とうじょうの仕方のほうが、カッコいいじゃん」


 そろ~。カリオストロが、背中せなかを向けて、しのあしする。彼女かのじょすすむ先には、密集みっしゅうした住居群(じゅうきょぐん)があった。そこは入り組んだ路地が交錯(こうさく)した、小さな迷路めいろ。逃げるには最適である。


 茜がカリオストロに向きなおる。


 べしゃっ!


 えない壁が、カリオストロのかおにぶつかった。魔力(まりょく)障壁しょうへき応用おうようだ。この小路(こみち)出口(でぐち)を、透明とうめいまくが塞いでいるのだ。やったのはもちろん、(あかね)である。


「で。私はあなたに用事ようじがあって来たんだけど。カリオストロ」


「ほほほ……」ぎこちなく、【賢者けんじゃ】の少女しょうじょに顔をめぐらせる、カリオストロ。「それは光栄ですわ。あと、できればお気軽きがるに、『クラリス』と」


「クラリス」


 茜は早速さっそく、カリストロをニック・ネームでんだ。正味しょうみの話、()()()()()()と六文字で呼ぶのはめんどうくさかった。茜の表情ひょうじょうが、肩の荷を下ろしたもの特有の、ホッとしたものになる。茜はつづけた。


「なんでも、うちのお(ねえ)ちゃんと、()()()()()したみたいで」


「……。その(せつ)はどうも」


 カリオストロは否定しない。茜はうなずく。


「で。お姉ちゃんは、あっけなくやられちゃったらしくって」


よわいほうが、わるいのですわ」


同感(どーかん)だね」


 (つえ)を振る。鈍色(にびいろ)の杖から、空気の(あつ)がライン(じょう)に生じた。(あかね)から十歩じゅっぽほど先にいる、カリオストロに迫る。すぱっ。真空の(やいば)が、通路つうろにあった木箱きばこや、ごみばこを切断した。食べものの腐敗臭(ふはいしゅう)ふる酒類(さけるい)の、ねばついたアルコールしゅうが、せまい路地にただよう。


 すんでのところで、カリオストロは、ジャンプしてけていた。風の刃が、ベルト・シューズの底をかすめ、茜自身の作ったカベに、激突する。


「けっ、賢者けんじゃさまっ! なにを……」


今日きょうはキゲンが最悪さいあくでね」茜は更に、魔術まじゅつを構成した。呪文じゅもんは無い。彼女かのじょ無詠唱(むえいしょう)発動はつどうスタイル、『ひばりの技法ぎほう』の使い手だ。茜の杖の先に、光が収束しゅうそくする。「朝っぱらから、カラスに悪口(わるくち)言われるわ。和泉(いずみ)あそんでくれないわ。ここに来るまでに、バナナの皮であしすべらせてすっころぶわ」


「うう……。最後のは完全に、ご自身のせいですわ」


「ちぇっ。うるさいなあ」


 高熱こうねつのために、一瞬(いっしゅん)透明とうめい昇華(しょうか)した、魔力(まりょく)のリボン。烈火の光線は、すぐに「形」をおもい出したかのように、プラチナの光線を描いた。茜の動きにしたがい、カリオストロに、殺到する。


「ひいいいいい!?」


 カリオストロは、とっさに魔術まじゅつの壁をる。首飾りのサポートを得た魔力壁(まりょくへき)は、無限むげんの光線の(あらし)を受け止めた。白いスパークが炸裂(さくれつ)する。光が、壁をし切る。ずどどどど! 


 膨大ぼうだい熱量ねつりょうを持った光のが、まもりのこうの魔術師まじゅつしねらい撃つ。黒いけむりがあがる。地面じめんけて、目地(めじ)のセメントが溶ける。カリオストロは――。


「ぶはっ!」


 生きていた。拡散して、はい色に薄れる煙。そのなかで、彼女かのじょ気丈きじょうにもうつぶせの格好から、こした。




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