45.あかい衣(ころも)
・前回のあらすじです。
『カリオストロが、和泉に火の魔法を放つ』
赤い衣が、翻る。舐めるような炎の動きがそう見えるのかと思ったが、和泉はすぐに、「ちがう」と悟った。
全身に、予測していた痛みが来ない。火が法衣を炙る感触や、皮膚を焼く熱気。それらがまるで、別世界でのできごとであるかのように、触覚は、清澄な空気だけを感じていた。
(防御壁……)
それも、かなり上位の。
――ふつうは、魔力の防壁を張ったところで、迫り来る魔術の影響は多少ある。魔法の障壁は、あくまで相手の攻撃を緩和するのが目的で、完全に威力を削ぐのは、よほど向こうのちからが小さい場合に限られる。
カリオストロの、本来の強さがどんなものかは、分からない。だが、今はマジック・アイテムの加護により、強化されている状態である。べらぼうに。
(まさか、オレのなかに眠っていたちからが、ピンチで目覚めた――)
なんてわけは、ないな。と、和泉は自分の願望にしらけた。眼前に揺らめく、緋色の法衣に目を留める。
「【災厄の首飾り】って言うから、どれほどのもんかと思ったけど、」
【賢者】にのみ着用を許された法衣の袖から、彼女の細い手首が、のぞいていた。その先には、鈍い色合いの金属が掴まれている。開いた頤に、深い藍色の、【制御】の【魔鉱石】を嵌めた竜の杖。その長い柄をしっかりと持って、彼女は、自身の魔術を展開・維持していた。
ふと和泉が自分の隣りを見れば、彼女の使い魔も立っている。ホワイトブリムに、赤いメイド服、長い茶色い髪の女性。
――炎が砕けた。魔法の壁が、打ち消したのだ。
ざああっ!
強い風が吹く。和泉たちを守っていた壁が消える。『外』の空気が、もどってくる。建物の外壁や、通りの地面の、焼けた臭い。大気中にふくまれる砂埃や、微細な粒子の焦げた、煤臭さ。
「こんにちは、和泉」
肩まで伸びた、黄金色の髪が風に靡く。グリーンの大きな瞳が、肩越しに振り返った愛らしい微笑と共に、和泉を見る。
「あっ、茜!」
和泉は喜びの声をあげた。目のまえの少女が、自分を守ってくれたのが嬉しくて、この時ばかりはカリオストロの存在を忘れた。あと、「もう死んでもいい♡」と思った。




