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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第4幕 魔術師の誤算(ごさん)
44/59

44.なれそめ



   ・前回のあらすじです。

   『和泉いずみが、カリオストロを「かわいそー」っておもう』






 ――『勤勉きんべん』がたっとばれる【(うら)】の世界において、『恋愛れんあい』は、自立心のなさを証明しょうめいするものとして、あまり歓迎されていない。

 『結婚』についても、繁殖(はんしょく)養成義務ようせいぎむ契約けいやくていどの意味合いみあいで、和泉(いずみ)がもともといた世界、【(おもて)】でもてはやされていたほどトレンディなものではない。


 色恋にはしるのは、一過性(いっかせい)感情かんじょう暴走ぼうそうか、でなければ、相手あいてへの依存性が強いという論理が一般(いっぱん)流布(るふ)しているせいか、【裏】の住人じゅうにんが「恋をする」という現象げんしょうは、全体として五割にも()たない。


 それでも、彼ら彼女かのじょらは恋をする。

 人に執着(しゅうちゃく)する。

 繁殖はこる。

 誰に強制きょうせいされるでもなく。勝手に。


(ま。それはそれとして)

 とどのつまり、「恋愛相談」なんてのは、生粋(きっすい)の【裏】(そだ)ちであれば、やったことなんて無いんじゃないだろうか、ということだ。その(てん)和泉いずみは、なにかにつけて「恋」だの「あい」だのしつける媒体(ばいたい)――テレビジョンや、ビデオ、インターネットやコミック、ゲーム、小説しょうせつなど――が氾濫(はんらん)する世界から来たである。それに、おなじ世界の出身者しゅっしんしゃと、それとなくそうした物事についてはなしたこともあった。

 だからカリオストロほど(かか)えこむものはない。話しをするのに、抵抗もない。


(よしっ)

 和泉は拳を握りしめた。黒い法衣(ほうえ)すそをまくしあげる。すぐにずれて、元にもどる。

(じゃあ、クラリスと打ち解けて、『なしくずし的に説得作戦』。これでいこう)

 おなじ『悲恋』同士、なにか通じるものがあるかもしれない。

 そうと決まれば、和泉(いずみ)は人の()笑顔えがおを取りつくろって――(はた)からみれば、あぶない誘拐犯ゆうかいはんみたいだが――のまえの少女しょうじょに取り入ろうとする。

「もしよかったら、師匠ししょうとのなれそめとかおしえてくれよ。オレからも、師匠にそれとなく言ってみるからさ」

「べつに、先生の助力(じょりょく)がなくても、最悪さいあくちからづくでもわたくしのものにしてみせますから、お気づかいなく」

(怖い()だ)

 ふんぞり返って(にら)みおろす、金の眼差(まなざ)し。

 あどけないかおつきは子猫こねこみたいだが、華奢(きゃしゃ)背中せなかにまとうオーラは「百獣ひゃくじゅうおう」のそれである。

「でも……、そうですわね。冥土(めいど)のみやげに、わたくしとリョーコさまがどう出会であったか。それだけでも、おはなししてさしあげますわ」

「冥土のみやげはこまるな。もうちょっと平和的解決を――」

「そう。わすれもしない。あれは(ここの)つのはる……」

「もしもーし」

「いえ、なつでしたわね」

 和泉(いずみ)遠巻とおまきにぶが、カリオストロが聞くわけもなく。

 彼女かのじょは話しはじめた。


うまってましてね」

師匠ししょうが? まさか、白馬(はくば)の?」

「いえ。わたくしがです。栗毛の、ふつーの牝馬(ひんば)に」

「はあ……。でも、なんで?」

たすけを呼ぶためですわ。ちょうどこのまちの、こんな感じの、うらさびれた路地でした」

 ぐるり。

 とカリオストロは、自分たちのいる隘路(あいろ)を手で示す。

 午後の炎天(えんてん)にさらされ、日差しの『白』と建物たてものの影の『くろ』にクッキリ分かれた横道よこみち

 和泉が立っているのが白い部分で、カリオストロのいるのが影の部分だ。


「そこでこった暴力沙汰(ぼうりょくざた)を止めてほしくて、わたくしは、近くの行商(ぎょうしょう)からうまをうばい、手頃な【魔術師まじゅつし】を捕まえるべく、たまたま手にしていたロープをっか゚にして、ぶんぶん振りまわしていたのです。カウ・ボーイみたいに」

(危険なやつだ)

「そしてそれにまんまと引っかかったのが、リョーコさまだったのですわ」

 カリオストロは、自分の(ほお)に手を当て、ポッと染めた。朱色(しゅいろ)に。

 その当時のことをおもい出しているのだろう――。まあ、どーでもよいが。

「自分で言ってて、いま思ったんですけれど、」

「お、おう……」

 和泉(いずみ)はたじろいだ。なにかひらめいたような、カリオストロの表情ひょうじょうを警戒する。いつ彼女かのじょ逆鱗(げきりん)に触れ、彼女が首にさげている『ホープ・ダイヤ』が(きらめ)き、大爆発だいばくはつこすか知れないのだ。

 クラリスは、をキラキラさせて言った。なんなら両手を合わせて、「キュルン♡」と片脚までかわいらしく折り()げて。


「ものすごい運命うんめい的な出会であいだと思いません?」

「思わないなあ」

 和泉は答えた。しょーじきに。

「まあ、和泉先生はおとこの子ですからね」

おんなの子であっても同意するやつは皆無(かいむ)だろーよ……」

「とにかく。そんなこんなで、わたくしは見事みごと、リョーコさまの首をロープで捕らえ、そのまま(ユー)ターンして引きずっていったのです。トラブルのあったところへ」

「そーゆーのを確か『市中(しちゅう)引きまわしの刑』って言うんだよな」

 サングラスのおくあわれみの眼差まなざしをしながら、和泉(いずみ)

 「だれかにかれるというのも考えものなのだ」と、人生ではじめておもった。


「で。その『暴力ぼうりょく沙汰』ってのはなんなんだよ?」

あにたちが大変なことになってたのですわ」

 ぽんっ。

 和泉はグーにした右手みぎてを、お皿にした左手にのせた。

 先の展開が読めたのだ。

「タチの悪いゴロツキにからまれた兄貴あにきたちを、師匠ししょうたすけてくれてホレたってわけか」

「ちがいます」

「じゃ、なんなんだよ」

「わたくしにみちをたずねてきた三人のおとこを、うちの四人よにんの兄がゴロツキと勘違いしてリンチにしたのですわ」

「おまえのアニキたちってさあ……」

 ひくひく。

 和泉はくちの(はし)を引きつらせた。教員用きょういんようの【法衣(ほうえ)】が、肩からずりおちる。

 カリオストロもまた、(ひたい)若干じゃっかん(あせ)をたらしている。あつさのせいではなく。


「ええ。さしものわたくしも、『これはなんとかして止めねば』とおもいました。あにたちが殺人鬼になってしまう前に。そしてリョーコさまをつれて行き、うまにのったまま、彼女の背中せなかを突き飛ばして、ポカスカやってる連中れんちゅうのなかに叩き込んだのです」

(ひどいことするなあ)

「わたくしの(くる)いはありませんでした」

「おまえは狂ってるけどな」

 方眉(かたまゆ)をピクピクさせて、和泉(いずみ)はカリオストロに指摘した。内心ないしんで「我ながらうまいこと言った!」と自画自賛しつつ。

 カリオストロは、


「リョーコさまは、(くぎ)バットや、鉄パイプの吹きれる戦いのなか、しかしこちらも【魔術まじゅつ】を使いませんでした。兄たちを頭突ずつききやげ技でノック・アウトさせ、あまつさえおそわれていた三人のおとこ平等びょうどうに蹴りたおし、()り倒して、そのにいた全員をこてんぱんにのしてしまったのです。これはきっと、わたくしの大事な兄たちが、被害にわれた三人から、のちのち(うら)みを買うことのないようにという、寛大(かんだい)配慮はいりょ

「区別をつけてる余裕よゆうが無かったんだろ……」

「で。わたくしは、その圧倒あっとう的・動物(どーぶつ)的・原始人(げんしじん)的つよさをせつけられて、ホレ込んでしまったというわけです」

めてんだかけなしてんだか……」

「お名前なまえをおたずねしても、なにも名乗なのらず去っていった謙虚(けんきょ)さも()()でしたわね」

「おまえに『かお』と『名前』をおぼえられるのが怖かったんだろーよ」

「ふっ」


 ふわっ。

 と額にかかる前髪まえがみをかきあげる。やわらかな金髪きんぱつが、すずしげな影のなかで、際立(きわだ)ってかがやいて見えた。

「『嫉妬』ですのね。和泉(いずみ)先生」

「しっとお?」

「わたくしのようなかわいいおんなの子に、自分の師匠ししょうがちやほやされるのが、あなたは気に入らないのです」

「おまえみたいなおっかねー女子じょしは、眼中(がんちゅう)にないから安心あんしんしろ」

「嫉妬はみにくい」

「聞いてくれよ。たのむから」

醜態しゅうたいは、すなわち『(あく)』。なので和泉先生は、わたくしに打ち滅ぼされるべきなのですわー!」

「なんでそうなるんだ!」


 和泉はわめいた。それ以外できなかった。

 カリオストロの魔術まじゅつが構成される。おくれて――和泉も、【防御魔法(ぼうぎょまほう)】の構成をむ。

 だが、『無詠唱(むえいしょう)』で魔術を発動はつどうする型を、和泉は会得(えとく)していない。

 【魔術師まじゅつし】同士の戦いにおいて、『呪文じゅもん』の有無(うむ)勝敗しょうはいを分けるおおきな要因よういんになる。そしてカリオストロは、呪文を必要ひつようとしない。

 首からさげた【マジック・アイテム】が、彼女かのじょ魔力(まりょく)を増幅することによって。

(ちくしょおっ!)

 和泉は熱波ねっぱ猛攻(もうこう)を覚悟した。

 視界が、業火のあかに、支配しはいされる――。






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