43.片想(かたおも)い
・前回のあらすじです。
『和泉たちが、いろんな愛の形を知る』
メイン・ストリートからはずれた細い道を、白い陽差しが照らしている。和泉は羽織った【黒い法衣】に蒸し暑さを感じながら――しかしはずすわけにもいかず――我慢した。
道の先、薄い影になった部分にいる、ドレスすがたの少女に問う。
「じゃあ、オレのことを敵視したのも、師匠関連か? オレがブロッケン女史の『弟子』だから?」
「そうですわ」
「けど、ウォーリックは? あいつは弟子じゃないぞ」
「ああ、そいつ、おれの隣りのクラスのマザコンやろ。おれ、学校とか研究室とか……。なんならリョーコちゃんの部屋で、ふたりでおるのん見たことある」
「まじか」
「うん。あの人けっこー顔ひろいで。しょっちゅう誰かと話ししとる」
ちょいちょい。
と和泉は永城を指でまねいた。と言っても、相手は横にいるのだから、さほどの移動はないのだが。
永城は和泉に耳をよせる。そこにヒソヒソと和泉は言った。
「これ、ブロッケン女史つれてくりゃあ、クラリスもおとなしくなるって寸法じゃないか」
「うーん。それ、無理」
「やってみないと分からないだろ。オレじゃ駄目でも、女史の言うことなら聞きそうなもんだ。なんなら、女史に『頭ぽんぽん』してなだめてもらったら落ちつきそうだ」
「犬や猫やないんやから……」
両の手の平を上に向けて、永城はかぶりを振るう。
「そーやなくてね、センセー。リョーコちゃんは【学院】から外出たくないの」
「そうなのか?」
和泉はサングラスの向こうで、義眼のはまった両目を丸くした。
和泉の印象では、ブロッケン女史というのは、『インドア』というより『アウトドア』だ。
【学院】という、特定の施設に縛られるのを好まず、隙あらば外に飛びだしていってしまいそうな――。
「昔はな。でも、あきたんやて。おれも何回か誘ってみたけど、『嫌や』ってゴネてたわ。極めつけに言われたんがさあ、」
「うん?」
「『私が【学院】から出ると、世界が滅ぶのよ!!』って」
「なんでそんな見えすいたウソつくかなあ。あの人は……」
「そんぐらい嫌やってことやろ。せやから、やるんやったらあそこの嬢ちゃんのほうをつれてくかやな」
目のまえで交わされる内緒話に、カリオストロはむすっと腕組みをした。
「ふたりして何をさっきからボショボショやってるのです?」
「ははは……」
と和泉はおべっか笑いでごまかす。
「なあ、クラリス。じゃあその――ブロッケン女史に会わせてやるから、オレたちと一緒に来ないか?」
「ふんっ! その手にはのりませんわよ。和泉先生」
カリオストロは、和泉と永城に両手を突き出した。
彼女の全身から魔力があふれ、【首飾り】の宝石が、それを強化する――。
「わたくしの怒りの鉄槌、受けてあそばせ!」
カリオストロの手のなかに、幾条もの光が収斂した。
『毛糸玉』のようになった金色の熱塊が、外縁部にプロミネンスのごとき火花を散らす。
「なあーっ!? 待って! 今のなし! じゃあ、せめておまえがウォーリックを敵視するワケを教えてくれよ! 永城のはなしじゃあ、師匠はほかにもいろんな人と一緒にいるみたいだぜ? でも、その人たちのことは、そんなに気にならないんだろ?」
「ふん。まあ、彼女に対しては、すでにお話しした通り、幼少からの私怨というのはもちろんです。が、最も許せなかったのは、わたくしが数えで十才の時――」
カリオストロは魔術を引っこめた。
熱の急速に冷めた小さな手を握りしめて、打ち震える。
「わたくし、お呼ばれしませんでしたの」
「なにに?」
「リョーコさまの『バースデー・パーティー』ですわ。ウォーリックは呼ばれましたのに」
「うわ、だっさ! ハブられとる! だっさ!!」
「頼むから火に油をそそぐような言動は慎んでくれー!」
カリオストロを指差して爆笑する永城を叱咤したが、遅い。
カリオストロの手に再び金色の熱塊が生まれ、今度こそ標的を撃った。
轟音があがる。
建物もろとも道が吹き飛ぶ。
そこに立っていた永城が、悲鳴だけを残して空に消える。
「ああ……」
空のかなたに遠ざかっていく『弟子』のすがたに、和泉は自分の白い頭を片手でかかえた。
カリオストロは「フッ」と顔をそらす。
『薄幸の美少女』みたいな、哀愁をただよわせて。
「こんなにお慕い申して……。通っていた学校から【学院】に転籍してまで追い駆けていますのに。あのかたは、なにも言ってくださらないのですわ」
「まあ、師匠は『自分以外にきょーみない』って人だからな」
和泉はなぐさめるつもりでカリオストロに言った。
形は違えど、同じ『片想い』同士。気の毒になってくる。




