42.あやしー
・前回のあらすじです。
『カリオストロが、和泉たちに好きな人の名前をおしえる』
和泉の頬を、汗が流れる。
夏の暑さとは無関係の、背筋に冷たさのはしる汗だった。
起きあがった永城を横目にしつつ、和泉は彼に言う。
「オレの知ってる【ブロッケン】っつったら、女の人しか思い浮かばないぞ」
「奇遇やな。おれもや」
永城はモップの柄にもたれかかって、自分の身体を支えた。
ケホッと彼は焦げたくちから黒いけむりを吐く。
「ええ。ですから、『リョーコ・A・ブロッケン女史』のことですわ」
カリオストロが、自分のほっぺをはずかしそうに両手にはさみながら肯んずる。
町の小路にいる三人のあいだに、季節はずれの寒い風が吹きぬける。
和泉はしばし、フリーズした。
(はっ。いかん、意識が飛んでた)
――どう返したものか。
和泉が悩んでいると、永城があきれ声を出した。
「女すきになろーが男すきになろーが自由やけどさあ」
(タフだな。こいつ……)
弟子のこだわらない姿勢に、和泉は奇妙な感心を抱いた。
永城は金髪金目の少女に忠告する。
「あんなしょーもないの好きになんのだけは、やめといたほうがええで」
【リョーコ・A・ブロッケン】は和泉の『師匠』にあたる。それ以上に、和泉がヘコんでいたころにいろいろと世話になった人だった。なので「しょーもないやつ」よばわりされて、和泉は内心おだやかじゃない。永城に、ひかえめに半眼をむける。
「なんだ。永城オレの師匠と知りあいなのか」
「初等部でクラスいっしょやってん。マブダチやで」
「ふーん」
「あなたのような畜生が、リョーコさまと親しいわけがないでしょう!」
「けったいなやっちゃなー」
カリオストロが、前方から白い指先を永城に突きつける。
永城はさほど少女を相手にせず、和泉に耳打ちした。
「せやけどセンセー。リョーコちゃんのこと好きや言うなら、この子が葵ちゃんぶっ飛ばしたってのもなっとくやな」
「なんで?」
「あのふたり、しょっちゅう一緒におるやん。あやしーよなあ」
「そーかあ? オレ、あんま一緒のとこ見たことないな」
学院長の史貴 葵や、【魔術研究者】のブロッケンと、は和泉も【学院】の廊下や庭園、図書館などですれちがう機会がある。けれどいずれの場合も、和泉が知る限りで、彼女たちはひとりか、彼女たち所有の【使い魔】といるところしか見たことがない。
永城が、不服そうに右手を拳にして振るう。
「おるって。学生のときなんかもう毎日やで。部屋もおんなじやったし」
「いかがわしいですわー!!」
「ただの『ルーム・メイト』ってだけだろ」
ボブショートの金髪を振りみだしてわめくカリオストロに、和泉は「なに想像してんだ」と指摘した。
カリオストロはひるまない。
「『ただのルーム・メイト』というだけで、何年も同室なものですか! わたくしだって、いちどはリョーコさまと同じ部屋になったのです。けど、一年とたたずに半殺しにされて追い出されましたわ!」
「どーせおまえが何かしたんだろ」
「スキンシップを少々(しょうしょう)」
『塩こしょう少々』のニュアンスで、カリオストロ。
永城が和泉の横から、彼女にぼうぜんと訊き返す。
「てか、よおそんな暴力大魔神すきでいられるな」
「ふふん。『愛』に痛みはつきものなのですわ」
「いまどき物議を醸しそうな主張だな……」
めげない少女に、和泉は頭痛がした。




