41.【キーワード】、どうすっかなあ・・・。
・前回のあらすじです。
『和泉たちが、カリオストロの被害者に泣きつかれる』
空は日が傾きはじめていた。それでも夏特有の白々しさに燃えている。
和泉は永城と共に、カリオストロのもとへ駆けつけた。
【オクノ小路】にいた金髪の少女が、彼らに気づく。
「そこまでだ! クラリス!」
「あーら。これはこれは、和泉せ・ん・せ♡」
「うう……。おまえなんぞに『ハートマーク』つけてもらったところで、ぜんぜん嬉しくないわい」
「もらえる時にもろとくもんやで、センセー」
カリオストロは、和泉につづいて自分のまえで足を止めた青年に目を留めた。
「あら? そちらのかたは……。助っ人かしら」
「そうだ! 聞け、クラリス」
びしっ!
指差され、カリオストロは怪訝な顔をする。和泉が彼をつれて来て、何をしたいのかが分からない。
「こいつがおまえの『秘かな想い人』だろ。こいつの命が惜しければ、今すぐ、町人へのめいわく行為をやめるんだ!」
「はあ?」
たまりかねて、カリオストロは間のぬけた声をあげた。
――想い人? そこの、のっぽで茶髪の、ちゃらんぽらんそーな男が? この、わたくしの?
「せんせー。おれ人質なるなんて聞いてへんで」
「命うんぬんはジョークだ。まあ、任せとけよ」
「つーか相手も『なに言うとんねんコイツ?』みたいな顔してるけど」
永城にうながされて、和泉はカリオストロの表情を見た。たしかに、ぽかんとしている。
和泉は咳ばらいした。
「クラリス。おまえはオレが、この永城を『弟子』にしちまったのが気に入らないんだろ。史貴学長を吹っ飛ばしたのもそうだ。この永城が、学長のことを好きなのに嫉妬して、おまえは学長に、狼藉をはたらいた」
「は?」
「え。ちょっと待って」
永城が和泉につめ寄る。
身長があるせいか、無表情になった永城が近くから見下ろすありさまは、言いようのない威圧感をともなう。
「葵ちゃんが、ぶっとばされたん?」
(やべっ)
「このガキに?」
和泉はとっさに自分のくちに手をやった。葵がカリオストロの保護に失敗し、ダルク共々こてんぱんにされたのは、言いふらしていいものではない。
永城が和泉を押しのける。
ばきごき。
片手の指を鳴らして、カリオストロのまえに出る。
「おいそれホンマやったらこのガキ許さんぞ」
右手に持ったままだったモップを、永城はカリオストロに突きつけた。
木の柄の先を、カリオストロの黄金の瞳が、寄り目をして見つめる。なお、モップは『杖』とちがって魔術的な加工がないため、魔力を【増幅】、または【制限】する効果はない。
「よおもおれの未来の嫁さん(妄想)をコケにしてくれたな」
「よ、よせ、永城」
永城はすでに構成をはじめていた。
和泉が止めに入ろうとするも、【魔力】はすでに練りあがって、破壊の現象を、呪文と共に紡ぐ。
「樹を渡る 栗鼠の虚言!」
きゅうううううん!
突き出した永城の両手から、魔力の波紋がほとばしる。
前方に放出された『波』を受けて、小路を造っていた家々がゆがんだ。
空間に生まれた【重力球】が、せまい通りを圧縮する。
一定区域を、重力の【ひずみ】によって圧壊する魔術だ。
さいわい永城のはなったそれは「半端もの」で、相手を粒子レベルにまで握り潰すちからはなかった。
――がああああああん!
圧縮によって高温域に達した空気が爆砕する。
熱波が吹き荒れ、かたむいた家屋の外壁を剥がしていく。
和泉は腕で自分の頭をかばい、降りそそぐ砂礫をしのいだ。
「【重力系】か! 地味にいやな攻撃しやがって」
永城に憤りながら、和泉は相手を確認した。
砂煙が拡散する。
破壊の中心――【重力球】のそばにいた少女が、無傷で立っている。
彼女の胸元で、『呪いの石』の首飾りが、艶然と輝いている。
「正当防衛、成立ですわねえ!!」
「あああああー! そっちもちょっと待て!」
カリオストロは、両手をのっぽの男に向けていた。呪文はないが、首飾りの魔力が彼女のちからを底上げし、業火を解き放つ。
「なんっ――」
永城が声をあげた。
同時に、彼の足元に赤い螺旋が生まれる。
灼熱の『渦』が、天に向かって突きあげる。
永城を、紅の腹に呑みこんで、天空へと駆けのぼる。
「んぎゃあああああああ!」
(言わんこっちゃない)
――ぼとっ。
火がおさまり、永城が落ちてくる。
ぷすぷす。
弟子の青年は、全身をまっ黒に焦がして路にのびた。大の字になって、白目を剥いている。
そんな弟子を見おろして、和泉は頭をかかえた。
「まったく。ふらちな輩ですこと」
カリオストロは両手をぽんぽんとはたいて、吐息する。
「おまえ……。好きな奴にも容赦ないのな」
「は?」
鳩が豆鉄砲くらったみたいに、カリオストロの目がまるくなる。
「いや。だからさ……。この永城のこと――」
「だれですの? それ?」
「え?」
「見たこともない人ですわ」
「なにっ?」
「先生のお弟子さん、とのことですが……」
「はああー!?」
和泉はあんぐりとくちを開けた。
「じゃあおまえ誰のこと言ってんだよ!」
「これ以上、わたくしに不名誉な相手をあてがわれるのも不本意なので……。仕方ありませんわね。お教えしましょう」
ぽっ。
カリオストロは、ほっぺを赤くした。かわいらしく、拳を顔にあてて。
「誰あろう、【リョーコ・A・ブロッケン】さまのことですわ♡」
…………。
和泉は固まった。
永城が、よろよろと起きあがる。




