40.したじき
・前回のあらすじです。
『町で再会した男女が、【魔術師】の少女に、爆撃される』
(※視点が、和泉(主人公)に、もどります。)
〇
すとん。
和泉は【トリス】の町の路地に降りた。うしろでは、永城も道路を踏み、モップの後部に乗せていたチャコを下ろす。
「では、私は主人のところへ急ぎますので」
チャコは一礼して踵を返した。『職人街』のほうへ行く。
「何処おるかわかんの?」
永城はチャコの背中に言った。チャコは振り返らずに答える。
「杖の専門店ですわ。『フルカネリ』っていう」
「はーん。おれ知らんとこや」
「小さい店だよ。初心者用から、玄人用まで揃ってる。『学生割引き』してくれるしな」
和泉が説明して、通りを進もうとした。チャコはもう道を折れて見えなくなっている。
永城が和泉についていく。モップを杖みたいに持って。
「ほんで? おれはどこ行ったらええん?」
「『クラリス』ってやつんとこ」
「クラリス?」
「知らないか?」
「誰やねん」
「……。会ったことくらい、あるんじゃないか?」
「しらーん」
住人のまばらな通りを歩きながら、ふたりは話した。
和泉は、クラリス――カリオストロが、永城に好意を持っていると勝手に考えていた。だからカリオストロに犯行をやめさせる説得のために、彼をつれて来たのだが。
(クラリスが一方的に、こいつのことを知ってるだけなのかな?)
思いながら行く。
どおおおおお!
爆音がした。
近所の地区だ。
何度か轟音と、地響きがする。
ひゅーん。と、空からなにかが降ってくる。
「あ。人や」
永城が言った。
――べしゃっ!
和泉のまえに、人が落ちた。タイル張りの舗装路に、潰れたかえるみたいにへばりついている。
「女の人だ。大丈夫ですか?」
若い女性だった。二十代の前半くらい。長い栗色の髪に、トリスの女性がよく身につけているワンピース・ドレスを着ている。全身は焦げていて、顔も「ミディアム」くらいに焼けていた。さっきの爆発で飛ばされてきたのだろう。
「う……。うう……」
「あ、生きとるわ」
うめき声に、永城が女性をのぞきこみながら応えた。
「せんせー【回復魔法】かけたったら?」
「うん。おまえは担架の手配してくれよ」
「わかった。ほな、行ってくるわ」
弟子を見送って、和泉は女性のそばにひざをついた。手をかざして呪文を唱える。
「ほころびを紡ぐ、医神の祝」
女性の身体からやけどが引いた。服のやぶれや、燃え跡も消える。だが彼女は気絶したままだった。
通りの向こうから、担架を持ったふたり組みが来る。【自衛団】の男たちだ。
「へいへーい。自衛団ですよー」
「今日の怪我人はなんじゃらほい」
「このあんまりかわいくないお姉ちゃんや」
「おまえってやつは……」
落ちてきた女性のへちゃむくれな顔を指差して、永城。
弟子の言いかたに、和泉は「こらっ!」と半眼を向ける。
団員のひとり――担架の前方をかついでいるほうの若者が、「ん?」と、片手で制帽を上げる。
「こいつは……。ジュリーじゃないか」
「なんだ、小太郎。おまえの恋人か?」
団員同士でしゃべりあう。「小太郎」と呼ばれた若い団員が、
「友達だよ。小学校のころの。卒業してからは、ぜんぜん会えてないけどな」
「ほーん」
言いながら団員たちは女性――『ジュリー』と言うらしい――を、てきぱき白い布の上にのせた。それから、
「えっほ。えっほ」
「ほいほーい。怪我人のお通りだよー」
来た時と同じように、駆け足で去っていく。都市内の病院につれていくのだ。
「『同窓会』とか無いんかいな」
「さあな」
それより急ごう。
と、和泉は女性の飛んできた方角に走りだした。辿っていけば、爆発を起こした【魔術師】――カリオストロに会えるはずだ。
「ぐおっ!」
どすんっ。
また人が落ちてきた。今度は男だ。むきむきのマッチョで、巨体。ちょうど落下地点に来てしまった和泉を下敷きにして、彼は仰向けに激突する。
「今日はやったら人が降ってくる日やなー。天気予報には『晴れ』としか書いてなかったのにな」
「しょーもないこと言ってねーで、助けてくれよ」
両手の拳を地面に打ちつけて、和泉は起きあがろうともがいた。男の体重は一〇〇キロは優にあるらしく、ひとりでは持ちあげられない。
「うんしょ、うんしょ」
永城が和泉の手を引っぱる。それでどうにか引きずり出せた。
「う……。ううん」
男は目をさました。
和泉はしたたかに打ちつけた背中をさすりながら、身を起こす。
和泉の【黒法衣】を見るなり、男はがばっと立ちあがった。
「その法衣は、【学院】の先生!?」
ひざをついたまま、男は和泉にすがりつく。
「助けてください! なんか、変なのに襲われたんです!!」
「あー……」
和泉はまさに、その『変なの』と対峙するつもりだったので。
「わかっています。彼女を保護するために来ました」
「せんせー……」
永城が、小さく挙手して言う。
「ひょっとして、おれもその『変なの』んとこ行かなあかん感じ?」
「そのつもりだよ」
「えーっ」
「だーいじょうぶ。そんな大それたことにはならんさ。たぶん」
「『やばい』って思ったら逃げるからな。おれ」
永城はふてくされて宣言した。和泉は了解して、クルー・カットの大男に向きなおる。
「どこでその魔術師と遭遇したか、分かりますか?」
「【オクノ小路】だ。『古本屋』とか『貸本屋』が結構ある……」
「わかりました」
最後に回復魔術を男にかけて、和泉は近くの路地を折れまがった。永城もつれていく。




