39:女の子にせまる、わるっそーな男
・前回のあらすじです。
『事件まえのはなし。クラリスが、兄たちから【首飾り】をもらう』
(※視点がモブ・キャラクターに、うつります)
〇
――彼女と再会したのは偶然だった。
「よお。ジュリー」
町の小さなストリートだ。古い喫茶店や、貸本屋の並ぶ区画。
馬車が通るだけの広さもない、「小路」と呼ぶような通りだ。
彼女――『ジュリー』は、最初、おれだと分からなかったらしい。声をかけても、怪訝な顔をしていた。
無理もない。
おれとジュリーは、小学校卒業以来、なんの交流もなかったのだから。
それに、十二才までのおれはヒョロヒョロで、やせっぽっちで、ぼうず頭だった。けれど今は、身長が二メートル少し超えるまでにのびて、全身ムキムキ。『軍人』でもやってると言えば、誰でも信じそうな体格に、おあつらえ向きのような、クルー・カット。
ジュリーは性質の悪いナンパに遭ったみたいにおびえていた。
でも、安心してほしい。彼女のような女性は、どんな男だって声をかけたりはしないだろう。見ため的に。
――なんて言ったら、彼女お得意の【風魔術】でバラバラにされそうだから、おれはくちには出さなかった。
ただ必死に、かつての『同級生』であることを主張した。懐かしかったから。
「おれだよ、ロミオ。小学生ん時、よく遊んだろ?」
「え……。えー!?」
「いやー。久しぶりだなあ」
じっ、とジュリーはおれを凝視して、それからやっと、表情を変えてくれた。
「あ、あ、あんたロミオ? ロミオ・グースタフ!?」
びっくりしたひょうしに落としそうになった、パンの紙袋を、ジュリーは抱えなおす。お菓子も入っているから、きっと今日のおやつにと買ってきたんだろう。
「でもロミオ。あんたほそかったじゃない! めちゃくちゃ!」
「鍛えたんだよ! おれ中学は【ロジャース】のほうに行っててさ」
「あの、港町の?」
「そう。そこの倶楽部で、ボクシングやってたんだ。強かったんだぜ」
「ふーん。あんたがねー。立派になるもんなのね」
感心した風におれをまじまじ見て、ジュリーが言った。
「いつ帰ってきたのよ。ずっとこっちで働いてたの?」
「いや。このまえ大学卒業して、きのう、帰ってきたんだ。来期から初勤務。この【トリス】で」
「そうなの? なにするの? 【自衛団】?」
「保育士だよ」
「そのなりで?」
「いいだろべつに」
小ばかにするようなジュリーのつぶやきに、おれは苦笑した。
ジュリーと同じようなことをいう人はいる。ぶっちゃけ、もう言われ慣れていた。
「それより、せっかくだし、何処かでお茶でもどうかな。ほかのやつら、どうしてる? ラッセルとか小太郎とか……。なんなら、みんなで飲もうぜ」
「わるいけど、パス」
「なんでだよ?」
「そいつらとは、もう疎遠になっちゃってるし。わたしも帰ってすこししたら、出勤だし。パート・タイムだけど」
「ええーっ。いいじゃないか! 少しくらい」
「ダメだって。チーフが時間にきびしくて――」
――ごおっ!
突風が吹きあれた。おれはもろに風圧を受け、弾き飛ばされる。
ジュリーがやったんじゃない。『優等生』ではあった彼女だが、あくまで、「テストで百点が取れる」レベル。『呪文なし』で【魔術】を使うなんてことはおろか、ここまでの威力を出すなんてことはできなかった。
というか、彼女も吹っ飛ばされてるし。
「ジュリー!!」
買いものの品とともに地面に転がる彼女におれは駆け寄った。
駆け寄ろうとした。
どおおんっ!
またも魔術がひらめく。
閃光がはじけ、高熱の波動が爆ぜる。
爆発は、おれを建物の外壁もろとも空中にほうり出した。おれより軽いジュリーは――さらに高く、放り上げられていた。
爆風にさらわれて、ジュリーはどこかのストリートに飛んでいく。すこし黒い、煙の尾を引いて。
「ジュリー!」
おれは為す術なく、空に消えていくかつての同級生に吼えた。
「ち、ちくしょう! 誰がこんな、ひどいこと――」
「おーほほほほ!」
高笑いが聞こえた。
――そう言えば、最近このへんに、頭のへんな「爆発狂」が現われると町の人たちが話していた。
もしや、この声の主こそが、ウワサに聞く「サイコ野郎」――。
「イヤがる婦女子をちからづくでかどわかそうとするなど、見下げ果てたものですわね! そこの破廉恥野郎! 覚悟なさい!」
気がつけば、路地にはひとりの少女が立っていた。金髪に、金色の眼の、割りとかわいらしい小柄な女の子。ひらひらドレスに子供じみた顔だちは、パッと見た感じ人畜無害そうだが、おれの本能が告げていた。
こいつは「やばい」と。
「ちょっ、ちょっと、待ってくれ!」
「いやですわ」
「おれとジュリー……。さっきの女性は知りあいで、」
「そんな見えすいたウソが通用するとお思いですか!?」
「ほんとなんだ! 信じてくれよ!」
「いやですわ!!」
「なんでだよ!?」
「かよわい女性にむりやり迫る、そのいかがわしい性根……。ここでわたくしが、叩きなおして差しあげます!」
「ちがうんだああああ!!」
さけんだが、少女は聞く耳もたなかった。
彼女の手のひらに、魔術の光がまたたく。
どおおおおおおおっ!
轟音が鳴った。破壊光線が炸裂したのだ。
――直後。
おれの意識は、途切れた……。




