36.斧(おの)なげ
・前回のあらすじです。
『チャコとシロが、不審な物音を聞きつける』
チャコたちは屋敷の廊下を歩いた。
途中、カベに掛けていた斧を取り、エントランス・ホールに移動する。
柄の長い斧を両手に構えて、チャコは二階の――物音のした部屋に入った。
足音を忍ばせる。
うしろのシロもまた、息を殺してついていく。
ぎいい。
チャコはドアを開けた。
主人が一日の大半を過ごす研究室だ。
奥のようすをうかがう。押し上げ式の硝子窓に、ひとりの男が、足を掛けている。
白髪に、黒法衣の【魔術師】。
「あ、和泉だ」
「このっ、狼藉者が!!」
ぶんっ。
チャコは斧を投げた。
分厚い刃が、くるくるキレイな円を描きながら、まっすぐ侵入者に飛んでいく。
「きゃー!!!!」
悲鳴をあげて和泉は避けた。
というか、窓枠から足を踏みはずした。
庭に落下しそうになったのを、縁に手をかけて支えなおす。
ちりっ! と白い髪をかすめて諸刃が通過し、庭に吸い込まれていく……。
――ざくっ。
「いきなり斧を投げるんじゃない!!」
懸垂の要領で身体を持ちあげて、和泉は喚いた。
チャコは「はっ」とそっぽを向く。
「ただの泥棒だと思ったのです」
「私が『和泉だ』って言ったあとに投げてたよね?」
「気が動転してたのよ」
(うそつけ!!)
シロに得意気に答えるチャコに、和泉は心のなかで毒づいた。
窓に足を掛けなおし、二階の研究室によじ登る。
「せんせー」
下から弟子の声がする。
「なんか、上から斧降ってきたんやけど」
「気のせいだ」
「でもフツーに触れるし。オレの弱い心が見せた幻覚や言うんは、ムリあるんとちゃうかなあ?」
「ごめん。ウソついた」
「せやろ」
「チャコが投げてきたんだ」
「ほなしゃーないな」
和泉は茜の家にいたふたりの【使い魔】に背を向けた。
庭に待たせている、弟子の永城に声をかける。
「悪いけど、話しつけるまでそこにいてくれ」
「えーよ」
永城は、屋敷の庭――ほぼ裏庭にあたる――から手を上げて了解した。
「でも、もう刃物は降らさんよう言うといてな」
「うん」
永城の数センチ隣りには、チャコの投げた斧が刺さっている。
和泉は永城に誓って、シロとチャコに向きなおる。




