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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第3幕 ホープ・ダイヤ
35/59

35.ホープ・ダイヤ




   ・前回のあらすじです。

   『和泉いずみ永城ながしろとともに、あかねの家にむかう』






   〇



 【学院】の教授(きょうじゅ)たちの()まいである【宿舎(しゅくしゃ)】から、すこし離れた森。

 【学生寮(がくせいりょう)】もふくめた【居住区(きょじゅうく)】から、(おか)なりの坂をくだったところにある庭園。

 【森林庭園】と()ばれる場所(ばしょ)に、【賢者(けんじゃ)】の家はあった。

 木々のあいまに隠れるようにして、居住区側の出入りぐちに、ひっそりと建っている。


「ホープ・ダイヤあ?」

 ウサギの(みみ)が揺れる。みどりを基調(きちょう)とした、カットソーとキュロットパンツ。白いふわふわした(かみ)をボブショートにした、()ため十七(じゅうなな)才ほどの少女(しょうじょ)である。

 彼女(かのじょ)は【賢者】の家にいた。一階の資料(しりょう)室。

 読書用(どくしょよう)のロー・テーブルに、ソファセットのある部屋(へや)だが、それらの家具は、いまは使われていない。

 賢者の【使(つか)()】とともに、彼女は調べものをしていた。


「そう」

 書架(しょか)のまえから返事がする。

 給仕(きゅうじ)服にホワイトブリムの「THE・メイド」。長い茶色(ちゃいろ)(かみ)をふたまたにして、先のほうで()った髪型の女性(じょせい)である。

 賢者の使い魔――チャコだ。

「でも、目立(めだ)っておかしなことって書いてないのよね」

 チャコは、ウサギの少女――シロに(あつ)めさせた資料を漁りながらぼやいた。足場(あしば)の上に腰かけて、おっくうそうに息をつく。


「【魔鉱石(まこうせき)】は研究(けんきゅう)されてるけど、『宝石(ほうせき)』はそうでもないもんね」

 シロはメイド服の先輩(せんぱい)()下ろして言った。

魔術(まじゅつ)的なちからは、どうがんばっても、魔鉱石まこうせきのほうが強いから」

 どすん。

 持ってきた『図鑑(ずかん)』や『レポート(しゅう)』を、シロはチャコの隣りに()いた。

 学院(ちょう)である(あるじ)、史貴 (あおい)を送り出してから、しばらくのんびり【学院】(ない)散歩(さんぽ)していたシロである。

 が、そこを(まち)から帰ってきたチャコに見つかった。

 シロを捕獲(ほかく)した後、チャコはなぜか一輪車(いちりんしゃ)に載せていた若い教授(きょうじゅ)を【病棟(びょうとう)】まで運び、それから本題(ほんだい)に入ったのだった。

 「ホープ・ダイヤの情報(じょうほう)集めを手伝え」と。


「でも、魔鉱石をしのぐ石も、()いわけではない」

 チャコは開けていた『博物誌(はくぶつし)』を閉じて言った。

「【(おもて)】の日本(にほん)にある『殺生石(せっしょうせき)』。透視を阻害するという『(なまり)』。まっとうな物質であっても、そうした効果をもつものは、確かにある」

 チャコのひとりごとを聞きながら、シロは彼女(かのじょ)のまえに腰をおろす。重ねた(ほん)椅子(いす)がわりにする。

 (いま)までの調査(ちょうさ)でわかったことを拾い書きしたメモを渡す。

 チャコは受け取った。


「『(のろ)いの石』。『フランス革命(かくめい)との関係』……。オカルトレベルの内容(ないよう)よね」

「かと言って、あなどれないわけでしょ? その『都市伝説』も」

「そうね。――ああ、」

 気分転換するように、チャコは(はな)しを切りかえた。

「聞いたわよ」

 眼前の後輩(こうはい)に、茶色(ちゃいろ)(ひとみ)を向ける。

「なにを?」

「あんたのご主人(しゅじん)さま――。(あおい)さま」

 シロが得意のポーカー・フェイスになって、しらばっくれる。実際、よほどこちらがり下げない限り、彼女(かのじょ)はそれでうやむやにしてしまえる。

 チャコはつづけた。

「その『ホープ・ダイヤ』を使った首飾りに、手も(あし)も出なかったんですってね」

「なんのことやら」

「ばっくれても無駄(むだ)よ。(まち)の人から、聞いたんだから」

「ヤなやつうー」


 シロはそっぽを向いたまま、半眼でチャコを睥睨へいげいした。

(まあ、いつかはバレるって分かってたけど)

 もっとも、主人はそれを良しとしない。できることなら、()かったことにしたい『醜態(しゅうたい)』なのだ。

 そしてシロは、それに協力(きょうりょく)する立場(たちば)である。

「帰ってきても、いちいち本人(ほんにん)に言わないでよね」

「言わないけど」

 足場(あしば)に使っていた台から腰をあげて、チャコは片づけをはじめた。

「もう少し詳しく知りたいものね。――ってゆーか、あの人どこいったのよ」

「会合だよ」

 シロも近くに転がっている(ほん)(あつ)めた。(すわ)ったまま。

上半期(かみはんき)の連絡会。【貴族】のかたがたに、【学院】の運営とか実績とかで追及(ついきゅう)されててさ。今後の活動について、修正(しゅうせい)するみたい」

 伸びてきたチャコの手に、本を一冊ずつ渡す。

 ()()()になった本棚(ほんだな)に、資料(しりょう)がつぎつぎ、埋まっていく。


「まあ、大半(たいはん)がお小言こごと聞かされに行くようなものだけど」

「たいへんねえ」

「私もついていければ良いんだけどさ、」

 ひざに手をついて立ちあがり、シロも棚に本を入れる作業(さぎょう)に向かった。ついでの動きで、(あたま)えた、長いウサギの(みみ)さわる。

「『(これ)』がね。ネタにされちゃうから」

「ふーん」

 使(つか)()が人化した時に、『動物の形質』が残るのは、主人(しゅじん)となった魔術師(まじゅつし)のちから不足である。

「どうせなら、尻尾(しっぽ)ものこしてバニー・ガールにでもなったら? ウケるわよ」

「人が気にしてるところを……」


 ――がたんっ。

 上から物音(ものおと)がする。


「いま……」

 チャコが天井(てんじょう)()上げた。()階の『研究(けんきゅう)室』からだ。

「なんか、くずれたのかな?」

泥棒(どろぼう)でしょ」

「あ。チャコ――」

 片づけを中断(ちゅうだん)して、チャコは、資料(しりょう)室から出ていった。

 持っていた(ほん)(ゆか)に置いて、シロも小走(こばし)りでチャコに続く。




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