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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第3幕 ホープ・ダイヤ
34/59

34.デ・レ・メタリカ




   ・前回のあらすじです。

    『和泉いずみ弟子でしの不正に手をかす』






   〇



「んんん~…………」


 もぐもぐ。

 ()きめしを食べながら、和泉(いずみ)はうなる。


 ――研究室(けんきゅうしつ)である。

 少しほこりのあるフローリングに、ふたりの(おとこ)(すわ)っていた。

 (あたま)の白いほう――和泉(いずみ)は、重ねた(ほん)の上に。

 弟子の永城(ながしろ)は、()べたに()()()をかいている。

 どちらも、ひざの上に『チャーハン』の皿を()いていた。


「無いなー」

 (ゆか)のコップを取って、和泉はぐいっとあおる。

「なんの本さがしてんの?」

「鉱物学」

 うしろから声をかけてきた永城(ながしろ)に、和泉は答えた。

「『ブルーダイヤ』について調べたいんだ。魔術(まじゅつ)的な考察が知りたい」

「はーん」

 永城はカラになった皿を床に置いて、残っていた(みず)をのみほした。

「ほな【図書館(としょかん)塔】いったら、無駄足(むだあし)なるとこやったな」

「?」

「よかったな、骨折(ほねお)り損ならんで」

「なんでムダになるってわかるんだよ?」


 永城はほおづえついて、アンニュイに息をついてみせた。ところでこの(おとこ)にそいういう真面目(まじめ)ぶった表情(ひょうじょう)は、とことん似合わない。

石系いしけい(ほん)、あらかた貸し出しされとんねん」

「ピンポイントだなー」

「しゃーないねん。『魔鉱石(まこうせき)』とか、『探索(たんさく)』の授業(じゅぎょう)ある生徒が、やっぱレポートとか書かなあかんくてな。ほんで、借りっぱになってるみたいやで」

「あー」

 和泉(いずみ)は察した。永城はうなずく。

()()()()の先生って、めっちゃ厳しいやんか」

「そういうことか……」


 和泉も食べ()えて、皿を木の(ゆか)()く。

 永城(ながしろ)が、ぽんっと自分のひざを叩いて立ちあがった。食器(しょっき)回収(かいしゅう)して、(なが)(だい)に持っていく。

 和泉はそのへんに()けたまま散らかし放題(ほうだい)の本を()渡した。

 (まち)本屋(ほんや)古書(こしょ)店でそろえた参考文献(ぶんけん)だ。が、専門外の分野(ぶんや)については、あまり有力(ゆうりょく)内容(ないよう)のものはない。せいぜいが『雑学』ていどの密度(みつど)だ。


(【災厄の首飾り】のまえに、クラリスの恨みのもとを()ったほうが勝機あるか?)

 クラリス――フルネームを【クララ・モリス・(ビー)・カリオストロ】という、高等部一年生(いちねんせい)魔女(まじょ)

 彼女(かのじょ)は、ひそかな(おも)い人を和泉に横取(よこど)りされたかどで、怒りの矛先(ほこさき)()()()()()()けていた。

 ――『も』。と複数形(ふくすうけい)なのは、高等部三年(さんねん)生の女子(じょし)生徒もまた、カリオストロとの因縁(いんねん)により、攻撃対象(たいしょう)になっているからだ。


(……あいつのは自業自得か)

 かぶりを振って、ウォーリックのことは()いはらう。自分のことだけを考える。

「せんせー。オレもう行っていい?」

「あ?」

 和泉(いずみ)は時計を()上げた。いつのまにか、帰ってきてから(いち)時間が過ぎている。

「ああ。お疲れさん」

「ほんまやで、もー」

 ぐりんぐりん。

 肩をまわして、永城(ながしろ)はコリをほぐした。そのまま玄関へ(ある)いていく。

「――と、待ってくれ永城」

 唐突に、和泉は天啓(てんけい)を得た。

 永城が振りかえる。キョトンとした表情(かお)


(そうだ……。なんで気づかなかったんだろう)

 和泉は自分の考えを整理した。

 結論からいうと、こうだ。

(クラリスの()きな人ってのは、永城のことじゃないか?)


 当の永城は、内心(ないしん)で「和泉(いずみ)せんせー」「今日(きょう)も陰気な(かお)して、なに考えてんねやろ」「きもちわるっ」と(おも)いながら師を見おろしている。

 和泉は思索(しさく)を深めていく。

(たぶん。オレが永城(こいつ)を弟子にしたから、クラリスは(おこ)ってるんだ。『(おも)い人との時間を邪魔(じゃま)された』って)


 よし!

 そうと分かれば、和泉は強気(つよき)だった。

永城(ながしろ)、」

 ガバッと立ちあがり、玄関前でつっ立ったままの弟子に頼む。

「オレといっしょに【トリス】まで来てくれ」

「いやや」

反抗期(はんこうき)か! なんでイヤなんだ!」

「なんでこのオレが和泉センセーとふたりで、おデートせなあかんねん」

()()()じゃない!」


 和泉はじだんだ踏んでわめいた。

 わが()を抱きしめて距離(きょり)をとる永城に、(ゆび)を突きつける。

(まち)厄介者(やっかいもの)を捕まえるのに、おまえのちからが必要(ひつよう)なんだよ!」

「えー……」

「いっしょに来てくれたら、ほかの先生に、おまえの宿題(しゅくだい)について免除(めんじょ)のお願いを、オレからやってやる!」

 右手(みぎて)中指(なかゆび)にはめた【指環(ゆびわ)】を、和泉(いずみ)はかかげた。

 室内(しつない)の明かりを照り返す、【五芒星(ペンタグラム)】の意匠(いしょう)

 【学院】(ない)――ひいては、それを魔術(まじゅつ)の「最高(ほう)学術(がくじゅつ)施設」とあがめる【(うら)】の世界において、持ちぬしにあらゆる『特権』を約束(やくそく)する。

 この、鉄と真鍮(しんちゅう)でできた指環――【ソロモンの指環(ゆびわ)】があれば、ほかの教員(きょういん)への嘆願(たんがん)など造作もない。どんな頼みでも、従わせるていどの【権力(ちから)】はある!


「せんせー」

 永城(ながしろ)はあんぐりとくちを開けて、

「めっちゃしょーもないことに、権力(けんりょく)使ってんな」

「うるせえ!!」

 和泉(いずみ)()きそうになってさけんだ。

「まあ、オレとしてはラッキーやけど」

 永城は了解(りょうかい)の意を(しめ)す。

「行くのええけど、今から?」

「いや、」


 和泉は【黒法衣(くろほうえ)】をひるがえした。

 ドカドカ足音(あしおと)()らして、永城を横切(よこぎ)って玄関を出る。

(あかね)んち行って、もうすこしだけ『石』について調べる。そこで何も見つからなかったら、【塔】に行くよ」

「ふーん」

 永城(ながしろ)もつづいて、和泉の部屋(へや)を出る。携帯していたカギで、和泉が玄関ドアに施錠(せじょう)する。

 ふたりは【宿舎(しゅくしゃ)】男子棟の廊下を(ある)いていく。

「また(ぬす)みにはいんの?」

「借りてるだけだ。ちゃんとあとで、返してるよ」


 ――鉱物について、茜の家には潤沢(じゅんたく)資料(しりょう)がそろっていた。

 ()()()には製造が禁止されている、【賢者(けんじゃ)の石】。

 魔術師(まじゅつし)垂涎(すいぜん)の、『万能(ばんのう)』とも呼ぶべき巨大(きょだい)なちからを所持(しょじ)したその魔法(まほう)の石は、この【裏】という不安定(ふあんてい)な世界を維持(いじ)するために、秘密裏(ひみつり)研究(けんきゅう)がされている。

(ってことで、あいつの家には、いい著作(ちょさく)があるわけだ)

 【裏】の世界の、あやうい「あれやこれや」はとりあえずわきに置いといて。

 和泉(いずみ)()のまえのことに焦点(しょうてん)()わせた。

(チャコのやつが【塔】から帰ってなきゃいいけどな)

 と(いの)りながら、【賢者】の屋敷(やしき)を目指す。




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