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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第3幕 ホープ・ダイヤ
33/59

33.免除(めんじょ)




   ・前回のあらすじです。

   『和泉いずみが部屋に帰ってくると、弟子の永城ながしろがいた』






「クロー」

 和泉(いずみ)は台所に(はい)った。(おく)のリビングものぞいてみる。

 ――いない。

 クローゼットを開ける。

 ロー・テーブルの下をのぞく。

 台所にもどる。(なが)し台のわきの、ポリバケツを開けて()ぶ。

「いないのか?」

「さすがにゴミ(ばこ)んなかにはおらんやろ……」

 うしろから永城(ながしろ)ものぞきこんだ。和泉は掛け時計を()上げる。時刻は現在、(ひる)の『十二(じゅうに)時』。


資料(しりょう)を探してるあいだに、(めし)でも作ってもらいたかったんだけどな」

「てかセンセー」

「うん?」

 研究用(けんきゅうよう)に使っている洋間(ようま)に、ふたりはもどる。

「調べごとやったら、(とう)のほうがええんちゃうん?」

「【図書館塔(としょかんとう)】には()いたくないやつがいんの!」

 ――和泉はため息をつこうとして。

「!」

 ひらめいた。弟子(ながしろ)を振り返る。


「なあ、永城(ながしろ)

「なに?」

「おまえ、宿題(しゅくだい)免除(めんじょ)してほしいんだよな?」

「せや」

 永城は、和泉より高いところにある(あたま)を縦に振った。

「とりあえず聞こう。なんで免除してほしいんだ?」

「決まってるやん。単位(たんい)ほしいねん」

「……。単」

「単位」

「……。……。……」


 ――【学院】の単位取得(しゅとく)は、大学部と、それより下の高等部までとでは、事情(じじょう)(こと)なる。


 『大学部』は、学期が『前期ぜんき』と『後期こうき』のふたつにわかれ、『七月(すえ)から九月初旬(しょじゅん)』までの長期(ちょうき)休暇(きゅうか)――『夏休(なつやす)み』は、前期における各講義のテストが終了(しゅうりょう)した時点ではじまる。そのため、大学部の学生は、それぞれのカリキュラムにより、夏季休暇にはいる日程がすこし変わる。

「テストが()われば、あとは自由(じゆう)にしてよろしい」

 と言うのが、基本(きほん)的な姿勢である。


 対して、初等(しょとう)部から高等部。これらの学級(がっきゅう)は、みっつの学期にわかれ、それぞれの期間に、『期末(きまつ)』と『中間(ちゅうかん)』の実力(じつりょく)試験がある。【(おもて)】の『中等(ちゅうとう)学校』や、『高等学校』で(みみ)にするのと(おな)じ――。いわゆる、『中間考査』、『期末考査』がこれにあたる。


 【学院】では、高等部以下の学生――生徒もまた、これらテストの合格と同時に、休暇の開始をゆるされている。――ただし、大学部生とちがって宿題(しゅくだい)は出る。それは『選択科目』において、大学部の講義を選んだ場合(ばあい)もである。同じ講義を取っている『大学部生』は、無いにもかかわらず。


 というのも、高等部までは、『出席(しゅっせき)点』や『提出物(ていしゅつぶつ)』が、成績に(おお)きく影響(えいきょう)した。大学部では、試験の点数(てんすう)のみでちからをはかる傾向がつよいが、高等部までは、一種(いっしゅ)の『救済(きゅうさい)措置(そち)』として、出席日数(にっすう)や、提出物における『点数』の比重(ひじゅう)を、大きく振っている先生が多数派(たすうは)なのだ。


 ――とりわけ長期(ちょうき)のやすみにおける課題は、つぎの学期(()学期)における成績に強く響く。よほどまめに出席し、なおかつ『ペーパー・テスト』や『実技試験』に自信がなければ、無視(むし)するとあっけなく『落第』するていどには。


 そして、和泉の弟子である永城(ながしろ) 壮馬(そうま)は、「テストむずい」、「出席めんどい」というていたらくだった。

 (よう)は、サボリ()(あか)たろうである。


 和泉(いずみ)は、年上の弟子をほうけた(かお)()上げた。

 あらためて考えると「とんでもねーやつだ」と(おも)ったのだ。悪い意味(いみ)で。


「ちょっと、()ってろ」

 悩んだが、部屋の書架(しょか)まで行って、和泉は出席簿(しゅっせきぼ)を取った。自分が担当している講義のひとつ、『精神魔術(まじゅつ)基礎』だ。

 【学院】の大学部生は、前期と後期でカリキュラムが変わるため、半期で成績は消化(しょうか)される。が、高等部の生徒は、一年(いちねん)間の通算成績で、その年度(ねんど)の単位取得(しゅとく)――および『昇級(しょうきゅう)』が決まる。


半分(はんぶん)くらい授業(じゅぎょう)に出てたら、考えてもおおおおああああああ!?)

 和泉はさけんだ。

「おまえ、ふざけろ! 一回(いっかい)もオレの講義、出てねえじゃねえか!」

「せーやーかーら、こうして『単位くれ』言いに来てるんやないか。いまから提出(ていしゅつ)点とか稼いだところで、もーどーにもなれへんもん。テストはオレ、からっきしやし」

「ずうずうしいを(とお)りこして――」

 ――サイテーだぞおまえ!

 とわめきたいのを、和泉はグッとこらえた。

 弟子の不備は、師匠の不備。

 自分の指導力(しどうりょく)不足なのだ。

 罵倒(ばとう)のかわりに、


「……わ。わかった」

 と和泉は告げた。

「マジで?」

 破顔(はがん)する永城(ながしろ)

「言うてみるもんやな」

 和泉は(あたま)をかかえて、台所に(ゆび)()ける。

「わかったから、おまえ(いま)から昼飯(ひるめし)つくれ」

「はあ!?」

 すっとんきょうな声をあげて、永城はつかみかかった。和泉に。

「なんで()きでもないやつ……。しかも『(おす)』のためなんかにメシ作ったらなあかんねん!」

「おまえ何気なにげ(おとこ)に対してあたりキツイよな……」

「あたりまえやろ!」


 ――ギリギリッ。

 和泉(いずみ)胸倉(むなぐら)をつかみながら、永城(ながしろ)

「でも、」

 その手から、徐々(じょじょ)にちからがなくなる。

「センセーに(めし)つくったらな、オレ、宿題やらなあかんのか。授業(じゅぎょう)も出なあかんくなるのか」

「そこまで(なや)むようなことか?」

小一時間(こいちじかん)も人のはなし聞いてられへん。ねむたなんねん」

「気持ちはわかるけどな」

 チクタク。

 時計の(はり)が、和泉(いずみ)()かす。

「で? 作んの? 作らないの? って、あんまりボヤボヤしてられないんだった!」


 カリオストロは、今こうしているあいだにも(まち)で暴れている。それに、(あかね)の動向もある。

 和泉は本棚(ほんだな)に取りつき、鉱物(こうぶつ)参考書(さんこうしょ)を探しはじめた。

 どっかんばったん。

 ひっくり返す勢いである。


「カンタンなんでええか?」

 うるさい『研究室(けんきゅうしつ)』から、台所へと永城(ながしろ)は逃げていく。

「パンとかでもあり?」

「最悪トーストとコーヒーでもいい」

「ラクなやっちゃなー」

 冷蔵庫を開けて、なかみを確認しながら永城は(まゆ)をひそめる。

「せやけどそれは、作る(もの)としてのプライドが(ゆる)さん」

「でも、オレも急いでるからな」

(ひや)ごはんあった」


 永城はひとり(よう)土鍋(どなべ)保管(ほかん)していた白米(はくまい)を持って、台所から『師』に言った。

「チャーハンでええか? それかオムライス?」

「どっちでもいい」

「ほなチャーハンな」

 【魔鉱石(まこうせき)】を利用(りよう)した道具である【冷蔵庫】と、【ふたくちコンロ】のまわりをガチャガチャやって、永城(ながしろ)調理(ちょうり)に取りかかる。




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