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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第3幕 ホープ・ダイヤ
31/59

31.こてんぱん




   ・前回のあらすじです。

   『【魔法まほうの世界】の、医療いりょうについての説明』








「どうも。ダルク先生」

「おうっ! ひさしぶりだな和泉(いずみ)先生!」

 【ジョン・ダルク】助教(じょきょう)

 ――十五世紀に活躍(かつやく)した、「オルレアンの乙女(おとめ)」こと、『ジャンヌ・ダルク』の子孫だ。

 『百年(ひゃくねん)戦争』期に、フランスの劣勢をくつがえしたものの、その()火刑に(しょ)されたジャンヌだが、実際は身代(みが)わりをたてて逃げおおせていた。

 その後、【魔術(まじゅつ)】に造詣(ぞうけい)の深かった『ジル・ド・レー』と共に【(うら)】へと逃げこみ、【魔術師(まじゅつし)】としての生涯(しょうがい)をこちら側で()ごす。


 灰色(はいいろ)の巻き毛に、盛り上がった筋肉の巨漢(きょかん)、ダルク助教とは、和泉は何度(なんど)か【学舎(がくしゃ)】で()っていた。

 和泉が学生だったころも、挨拶あいさつを交わしていたし、彼の講義にも参加したことがある。

 ――最近でも、『夏期(かき)集中(しゅうちゅう)講義』の関係で、廊下や食堂(しょくどう)(かお)()かけることはままあった。

 和泉(いずみ)南部(なんぶ)に出かけていた時期もあったものの、「ひさしぶり」と声高らかに言われるのは気がひける。


「【学舎】でちょくちょく()ってたかと」

「そうか。忘れてた! 影が(うす)いからなあ、和泉先生は!」

 気にしていることを「はっはっは!」と笑って言われ、和泉は内心(ないしん)ヘコんだ。

 が、とりあえずそれはスルーする。

「ダルク先生も、ひょっとして?」

「ああ」

 ダルクは包帯(ほうたい)を巻いた太い首を(たて)に動かした。ギプスで固めたゴツイ片脚(かたあし)は三角(きん)で吊っていて、ちょっとした動きもつらそうだ。

「カリオストロは、(おれ)のクラスの生徒でな。元気がいいのは良いことだが、ちょっと、おてんばでな」

「そういうレベルでしょうか」

「ああ」

(度がすぎてるって(おも)うんだけどなあ)

学院長(がくいんちょう)先生も、こてんぱんにされちまってなあ」

「え?」

 和泉(いずみ)(みみ)を疑った。


 ――学院長。史貴(しき) (あおい)が? 『ひばりの技法(ぎほう)』も使える一流(いちりゅう)魔女(まじょ)が、生徒なんかに? ――


「あれ? 聞いてなかったのか?」

 和泉の疑念(ぎねん)をよそに、ダルクはつづける。

「俺と史貴学長(がくちょう)のふたりがかりでカリオストロをおさえに掛かったんだが、瞬殺(しゅんさつ)だったって(はな)しよ」

「まさか」

「ほんとほんと」


 ダルクは手を振って、和泉(いずみ)を遮る。

「まあ、学院長のほうは俺がかばったってのもあって、ケガはいくらかマシだったけどな。にしても、ガレノス医師に『三日は安静(あんせい)だよ』って言われたのを、こっそり帰っちまったあたり、なかなか根性(こんじょう)のある(むすめ)さんだぜ」

「それ、本当(ほんとう)なんですか?」

「マジだってば。俺あてっきり、どっかで聞いたもんかと」

「いえ。なにも……」

「そうか。――あ」

「どうしたんですか?」

「そーいや(おれ)史貴(しき)先生に、ほとぼりがさめるまで『黙ってろ』って言われてたんだったな」

「やばくないですか?」

「いやあ。和泉(いずみ)先生ものされた(なか)だし。問題ないだろ!」

(おお)ありですよ」

「じゃ、口裏(くちうら)あわせてくれ」

 豪快に笑って、ダルクはごまかした。ひとしきり「わはは――ゴフッ! ゲフッ」とせてから。


 「俺は、言ってない。きみは勝手に、誰かからの風のたよりで、知ってしまった」

(そんなんで(だま)せるかなあ)

 (おも)いつつ、和泉はベッドからおりた。(ひたい)には包帯(ほうたい)()いてある。腕や(あし)には、ガーゼが()られていた。服はダルクのような診察衣ではなく、私服――Tシャツにロングパンツすがたのまま。上着の【黒法衣(くろほうえ)】は、近くのキャビネットに畳んで()いてある。

 ガレノスは「安静に」と言ったが、ケガはたいしたことない。「これ以上(いじょう)深手を()うまねをしてわずらわせるな」という意味(いみ)だろう。と和泉(いずみ)は受けとった。


(ほころ)びを(つむ)ぐ、医神の(はふり)

 呪文(じゅもん)(とな)えて、(あたま)の痛みを(なお)す。タンコブは完全には治らなかったが、鈍痛(どんつう)はいくらか引いた。

 ――点滴はない。

 時計も、外の景色も、パーティションによってここからでは確認できないため、【トリス】の(まち)での戦いのあと、どれだけ経ったかはわからない。


(まさか一日(じゅう)寝てたってことはないだろ)

 法衣(ほうえ)羽織(はお)って、病室(びょうしつ)をぬけようとすると、ダルクが声をかけた。

「出てくのか?」

「はい」

「動いて大丈夫(だいじょうぶ)なのか?」

「先生ほど(おお)ケガじゃないんで」

「そうか。しっかし、学長(がくちょう)のこと、【賢者(けんじゃ)】さまの(みみ)に入ったら大変だな」

「なんでですか?」

「そりゃあ、身内(みうち)がフッ飛ばされたなんて知ったら、(だま)っちゃいないだろ」

 ダルクは、分厚(ぶあつ)い唇でうなった。


(あかね)は……。でも、学長と(なか)、悪いんじゃないですか?」

「そうか?」

「ええ……。あんまり、そういうので(おこ)るやつにも()えないですけど」

「んー」

 言いつつも、和泉はなんとなく――。本当(ほんとう)になんとなく、クラリスが心配(しんぱい)になる。

「まあ。そう言われてみれば、そんな気もしてきたな」

 ダルクはあまり頓着(とんちゃく)しなかった。すると(ちゅう)ぶらりんになった不安(ふあん)が、和泉のなかでひとり(ある)きする。

(茜に限って、まさかとは(おも)うけど)


 ――クラリスの拿捕(だほ)を急ごう。

 どちらにせよ、彼女(かのじょ)はひっとらえないといけない。

(なるべく早目(はやめ)にな)

 ただそのためには、彼女(かのじょ)()につけている、【災厄の首飾り】をなんとかしなければ。


和泉(いずみ)先生」

「はい」

「ひょっとして、またカリオストロの所に行くのか?」

「そのつもりです」

「うーん。なら、俺こそ行くべきだよな。担任として」

「いや、(あし)()れてるじゃないですか。ダルク先生は、おとなしくしといてください。オレはまだ全然、動けますんで」

「わるいなあ。――あ。そうそう」

 ダルクがぽんっと手をかるく打った。


「『チャコ』って言ったか。あのメイドさん」

「はあ……」

「ここに来た時に、ちょっと(はな)したんだがな。なんでも、『主人(しゅじん)(つか)いで、調べものする』とか言ってたぞ」

「それで?」

「カリオストロに対抗できる魔術(まじゅつ)でも、見繕(みつくろ)ってもらったらどうだ? もののついでにさ」

「……。遠慮(えんりょ)しときます」

 (あかね)の【使(つか)()】の女性(じょせい)、チャコは、和泉の苦手とする人だ。

(調べものっつったら、たぶん、【図書館塔(としょかんとう)】だよな)

 そう見当をつけて、和泉(いずみ)病室(びょうしつ)から出ていく。「絶対に図書館塔には近づかないでおこう」と決めて、別ルートで、首飾りの攻略法(こうりゃくほう)を探りに行く。





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