3.起床(きしょう)
〇前回のあらすじです
『和泉が茜の夢をみる』
枕にうつぶせになった姿勢。
両腕をつっぱって、身を起こす。
よだれをぬぐって目頭をもみ、和泉はサイドボードのサングラスに手をのばした。顔に装着する。
「マスターどうしたの。うなされてたけど」
少年の声がした。
ベッドにあぐらをかいて、和泉は自分の頭をかく。夢からさめても元にもどることのない白髪と義眼。それらは過去に起こった魔術的な事故による後遺症だった。
カーテンをひいたままの窓を背に、和泉はベッドに腰かける。はだしの足のうらにフローリングの床のひやりとした感触がする。
「茜が遊びに来る夢を見たんだ。そんなこと、あるはずないのにな」
「なんーだ。マスター聞こえてたんだ」
「は……?」
和泉は先ほどから会話をしている少年をまともに見た。黒髪黒目の、十歳くらいの少年だ。和泉のおふるのランニングとロングパンツに、これは新品のサンダルをはいている。普段は主人――和泉のことだ――の身のまわりの世話をするため、人のすがたをとっている。
が。その正体は全身まっくろの烏。
和泉が十六歳のときに契約した、【使い魔】である。